第39話「しもの話し」・頻尿。
30歳くらいで、少しぽっちゃりしている。店に入ろうかどうしょうかと迷っているようだ。
女性の足に体をスリ寄せる猫。
冬子の飼っている“あずき”である。
あずきちゃんは何度か女性の足に体をスリよせ、まるで女性に、店の中に入れと言ってるように店の中に入っていった。
女性もつられて店の中に入った。
「いらっしゃいませ」
冬子がお客様を出迎える。
「あ、あの……初めてなんですけど……」
「はい、当店は初めての方も大歓迎です」
「あっ、そうですか……あのですね、整体というのが初めてなんですが……」
「はい、かまいませんよ」
「じゃあ、お願いします。診察とかするんですか?」
「いえ、当店は治療ではなく、リラクゼーションですから、診察はありません。でも、どこか気になる所はございますか?」
「えっと、ですね……じつは……」
「はい、なんでしょう?」
「実はですね……便秘なんですけど……」
「便秘ですか……」
「は、はい、病院に行って薬ももらっているんですけど、最近効かなくなって……」
「それは、お困りでしょう」
「便秘に効くツボってあるのでしょうか?」
「ツボですか、ないこともないですが……お腹に通じる足を揉むのはどうでしょう?」
「足を揉むんですか?」
「はい、足の血流が悪いと骨盤の中の臓器に不調が出やすいんです。腸や膀胱などです。心臓から足に血液が流れて上手く心臓に血液がもどれないと下半身の不調につながるので、足の血流を良くするのは基本なんです」
冬子は、さも、当たり前のように言っているが、先日のカン氏に教えてもらい、足の秘密を知ったばかりだった。
「それじゃ〜っ、その足をお願いします」
「はい、わかりました。それでは施術台にうつ伏せで寝てください」
冬子は女性のふくらはぎ、ひざの裏、ふとももと揉み、骨盤から腰と腎臓までもんだ。
「はい、次は仰向けにお願いします」
女性は半分寝ていた。
うとうとしながら仰向けに姿勢を変えた。
「私、小学校の教師なんです」
「そうなんですか、いいですね小学生可愛くて」
「ええ、小学生は可愛いいですね。特に低学年は……でも、学校のトイレに不満があるんです」
「えっ、トイレですか? 汚いとか?」
「いえ、ひとつしかないんです」
「なんですか、ひとつ?」
「学校のトイレって生徒用と教師用に別れているんですが、教師用の女性用トイレが一つだけなんです」
「トイレが一つって、個室が一つってことですか?」
「そうなんです。本当はふたつあるんですけど、一つは、ずっと壊れたままなんです」
「それは、大変そうですね……」
「とても大変です。時々、生徒用のトイレを使おうかと思うんですが、それは禁止されているんです。でも、休憩時間にトイレに行くと他の先生も使うので気を使って……」
「それは、早くトイレを直してもらった方がいいですね……」
「本当に困ります。大きい方なんか学校でできませんから……」
「足を揉んだら便通も良くなりますよ……」
「最近、がまんしていたら出なくなって、出ないのも困るんです。朝に出るようになりませんか?」
「朝にですか……ないこともないですけど、お腹を手術した事はありますか?」
「いえ、手術はしたことはないです」
「そうですか、それなら、お腹の揉み方を教えます。朝20分くらい揉んだら、たいがい出ますよ。ただ、急に我慢できないくらい便意がくるので他の人がトイレに入っていたら大変な事になりますよ」
「朝出るんでしたら、家の中なら子供もいないので何とかなります」
「お子さんは、まだですか……」
「ええ……結婚して5年になるんですけど出来なくて……不妊治療も考えているんです」
「足の施術って下半身に効くので、自分でも足を揉むと子宮にも効くはずですよ」
「そうなんですか!?」
「たぶんですけど……それと、寝る前に足湯をするとさらにいいです」
「う〜〜ん、それ、良さそうですね。温泉に行くと子宝が授かるって昔から言いますものね」
「女性は足の循環が大切ですね、でも、生理中はお腹を揉むのはダメで、足も揉まない方がいいかもしれません。足湯もしないほうがいいでしょう」
「そうなんですか!?」
「昔から生理中は何もするなって言われていたんです」
「そうなんですか……それと、もう一つ良いですか?」
「はい、なんでしょう?」
「あの、あのですね……実は最近、頻尿なんです」
「頻尿ですか……」
「頻尿ってどうすればいいんでしょう?」
「病院に行けば薬はあると思います。漢方薬のコマーシャルも見ますからドラッグストアにもあると思いますが、私の店では、初回のお客様には千円割引か導引の指導をしているんですが、頻尿に効く導引もありますが……」
「導引と言うのがわからないんですが、頻尿に効くのなら、やってみたいです」
「そうですか、若い方の頻尿は自律神経の緊張によるものが多いと思うんです。オシッコに行かないように、しぼり切るようにオシッコをすると緊張状態が続いてかえってオシッコが近くなるんです」
「そうです、そうです。オシッコを出し切るようにしたら、逆にオシッコが近くなりました」
「そうですか、それなら仙骨から膀胱につながる副交感神経が働くよう『舟をこぐ』と言う技がいいと思います」
「舟をこぐですか……ちょっとわからないですけど、頻尿が良くなるならお願いします」
冬子は『舟をこぐ』の下段。引く手を腰に持ってきて仙腸関節を緩める導引を教えた。
「仙骨をなでるのと股関をなでるのもいいですよ」
「こうですか? これは生徒達に見せたら大笑いされるから見せられないですね。でも、なんか効きそうです。しばらくやってみます」
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