第38話「オオミヤ氏 2」・体が重い。
足がだるくなってきたと感じる人は正座をするといいぞ、毎日10分くらいは座る習慣をつけといいな。
なぜかというと、正座をすると、太ももとふくらはぎが圧迫されて足の血管を圧迫することで血流が良くなる。
足首も伸ばすから、できれば朝と晩にやるといいんじゃ。
足首が硬くなって伸びない人はけっこういるからな。
「祖父、仁蔵は、こう言っていました」
❃
『台湾の足の反射区の達人、カン氏、来店!3日間限定で施術を行ないます』
足の反射区?
足ツボの事だな、台湾は本場だと聞いたことがあるな……施術は予約制か、1回 5,000円。ちょっと高いな……
ん〜〜っ、5,000円か……
新作の映画で観たいのがあるが……
しかし、本場の施術で達人か……最近、足も具合が悪いし……
よし、予約するか。
冬子の店に入るオオミヤ氏。
「いらっしゃいませ」
「あの、ポスターの施術の予約をお願いしたいんですが……」
「はい、ありがとうございます。これで完売になります!」
「えっ、最後の1枚?」
「はい、おかげさまで、3日間しかないので、すぐに完売でした」
「そう……有名な人なんですか?」
「それは、もう、日本で足ツボをやってるまっとうな人なら知らない人はいないってくらいの人ですよ。しかも高齢なので、日本で施術するのは当店が最後になるようです」
「そんなに凄い人……」
「祖父が弟子だったんです。それで、たまに寄ってくれるんですよ」
「それは、チケット買って得したかな?」
❃
パソコン教室を経営するオオミヤ氏。
最近、受講する生徒が減ってきて、どうすれば生徒が増えるかを毎日考えていた。
小学校でもパソコンを教えるから、パソコン教室に通う若者も減ったな。誰かパソコンを習いたい人はいないかな?
チラシを配ってくるか……
パソコン教室の前でチラシを配るオオミヤ氏。
ティッシュも付けたほうがいいかな?
それともチラシに通し番号でも付けてクジにでもするか? 昔は山ほど生徒が来たのに……
「パソコン教室のご案内です。どうぞ……」
目を合わせず通り過ぎる女性。
パソコンに興味がないか、もう使えるのかな?「大丈夫です」て言って通り過ぎるのがスマートなのにな……
「パソコン教室のご案内です。どうぞ……」
「僕、1級の資格持ってますから」
「えっ、パソコン1級の資格持ってたの? 確かソロバンは4級じゃなかった?」
カップルの女性が驚く。
「俺はな〜いろんな級を持っているんだよ!」
「へ〜〜っ、パチンコとかパチスロ?」
「お〜〜っ、パチンコは1級だ。パチスロは特級だな!」
若いカップルがイチャつきながら去っていく。
若者はだいたいパソコンはできるんだろうな、しかし、あんまり歳を取った人もむずかしいだろう……
「パソコン教室のご案内です。どうぞ……」
「パソコンか、俺、持ってないんだよね……」
「教室にありますから大丈夫ですよ」
「スマホでいいんで、また……」
スマホか……最近性能が上がったからな……昔はパソコンで小説を書く人も多かったが、今はスマホで書いて即、投稿もできるからな……いっそ、スマホ教室にするか?
「パソコン教室のご案内です。どうぞ……」
「あぁ、パソコンね……そうだな……習うならいまかな?」
「どうかしたんですか?」
「酒屋に務めていたんですが、コロナで売り上げが下がって閉店ですよ。これから失業保険の申請です……」
中年の男性が肩を落として歩いていった。
❃
冬子の店。
カン氏の施術を受けるオオミヤ氏。
「あなたの足は疲れきっている。しかし、まだ間に合う!」
「足は、もう数年前から弱っているんです、良くなるんですか?」
「私の足も一度死んだ足! 台湾は戦争中は日本の領土で言葉も日本語になり、私も日本兵として戦争にいきました」
(戦争? いつのだ、太平洋戦争か? 80年前じゃないか……16歳で行ったとしても96歳?)
「戦争中は大砲を引っ張っていました。馬も牛も戦地にはいないから、人間が引っ張っていたんです。足も体もボロボロになって、いっそう敵に撃たれたほうが楽だと思ったくらいです。戦争が終わって台湾で足のもみ方を教わり、私の足は生き返りました。あなたの足も生き返りますよ」
「はぁ、そうですか……」
「足の裏は反射区、自律神経が緊張状態の人がやれば、リラックスできます。ふくらはぎは循環、立ち仕事や歩かない人は、ふくらはぎの循環が悪くなって体が重く感じるんです。足の循環が悪いと、膀胱、腸、腰の循環も悪くなり、頻尿、便秘、腰痛に苦しむようになります。夜中に何度もトイレに起きるようになるんです。心臓にも負担がかかり血圧にも異常がでます。全部、足をもめば良くなります。足首を伸ばしたり回したりして、ふくらはぎとすねをもんで、右膝の裏に右手をはさみ左の足で右足を押さえるんです。最初は痛いかもしれませんが、すぐに痛くなくなります」
カン氏に施術を受けながら足のもみ方を習うオオミヤ氏。
カン氏は、ふくらはぎと膝の裏を重要視していた。手で圧迫すると痛いのはうっ血しているためで、ふくらはぎやすね、筋肉や腱を骨に向かい丁寧にもみ、ふとももと股関節のもみ方、ふくらはぎに手を当てながら正座する秘伝の技も教えた。
「老化は足から! 昔から言われています。足が弱ると足に古い血が溜まります。そうすると体もなんとなくスッキリしなくなり体が重く感じてどんどん老化します。だから、足を老化させない! 死ぬまで元気でいるには足です!」
❃
カン氏に教わって数日、まじめに自分で足をもむと、だんだん体がスッキリすることに気が付いた。
古い血が足に溜まっていたから体が重かったのか……古い血か……昔は学校でパソコンは教えていなかった……
コロナウイルスによるリストラ……
そうか、失業保険をもらっている間に集中してパソコンを習いたい中高年は多いのではないか!
オオミヤ氏は、失業保険をもらっている中高年の人を対象にした、3ヶ月集中のパソコンの基礎を教えるコースを作った。
しかも通常の料金の半額!
これが当たった!!
パソコンを使えない中高年はまだまだ多く、パソコンを覚えたいが、なかなか習いにいく機会がなくてためらっていた人は多かったのだ。
習う人の年齢も中高年ばかりなので若者にバカにされることもなく、安心して習えるということで応募者に対応しきれないほどだった。
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