第37話「シンギョウジ氏 3」・悟り。

 関節は常に動かしていないと硬くなる。

 筋肉も動かさないと炎症を起こす。

 寝たきりも半年もすると歩けなくなるぞ。


「祖父、仁蔵は、こう言ってました」


 ❃


♪光線銃を狙い撃ち〜〜

 バキュン!

 バキュン!


「ふ〜〜っ、やっとできた!」

 両手を高々と上げ体を伸ばすシンギョウジ氏、おもちゃ屋『ポイパ』の店主である。


 この宇宙船を作るのに半年もかかった。

 しかし、どこから見ても良い出来だ!

 この素晴らしさを誰かに見せたい!

 とりあえず店に飾るか……


 シンギョウジ氏はテレビの人気番組『宇宙探検ボ○ジャー』の大ファンで、この番組に出てくる宇宙船のプラモデルを作っていたのだ。


 よし、ミドリさん(妻)に見せてこよう。



「ミドリさん、見て、見て。いいでしょう」

「なに? プラモデル? 宇宙探検エ○タープライズかな?」

「おしい、これはもっとレアなプラモデルで、お店には無いやつなんだ」

「また、ネットで買ったのね」

「へっへっへ、これはネットじゃないと手に入らないんだ」

「まぁ、絵とか骨董品なんかよりは安くていい趣味だけどね……」


「確かに、安上がりな趣味だね。ギャンブルなんかよりはずっと安いよ」

「そういえばね、じんぞう堂の冬子とうこちゃんのお父さん、パチンコの必勝法を見つけたとかで景気がいいみたいよ」

勘蔵かんぞうか、あいつはパチンコ一筋だな、よく金が続くもんだ」


「冬子ちゃんの話では、昔のアイドルの歌を聴いていてひらめいたらしいわよ」


「昔のアイドル? なんの歌だろう?」

「二人組のアイドルで、♪早くてもダメ〜♪遅くてもダメ〜 ♪大切なのはグッドタイミング!って言う歌だって」

「誰だそれ!? わからん」



 部屋に戻り、さっき出来た宇宙船を眺めるシンギョウジ氏。

 冬子ちゃんに見せたら褒めてくれるかな?

 でも、内心、子供みたいと笑われるかもしれないな、俺も勘蔵みたいにパチンコでもやるか!? しかし、勝てる気がしない…… グッドタイミングか……


 床に寝転がり両腕を伸ばしている時、ふと気が付いた。


 腕を伸ばして首を動かすとコリが分かる。

 首を動かして手も内側、外側と動かす。

 ゆっくり動かして気血を流す。

 腕を上げている時間は特に決まりはない、気血の流れを感じてゆっくり上げ下げすればいいのか。

 角度と力加減か……グッドタイミング!?

 そうか、導引は型があって無いというのは、この事だったのか!


 前に腰痛の治し方で、壁に手をついて転ばないようにして膝をゆっくり上げるというのもあったな、教えてもらった時は、なんとなく上げ下げして、そのあとやらなくなったけど、ひょっとして……

 シンギョウジ氏が壁の狭くなっている所に両手をつけて膝をゆっくり上げている。


 わかる! わかるぞ! 膝を上げて左右に動かすと骨盤の仙腸関節が動く!

 前に冬子ちゃんが言っていた、

『関節は動かさないと炎症が起きて痛くなる』て言ってたのはこのことか!?

 椅子にばっかり座っているから腰が痛くなるんだな、膝を上げるのも2〜3回でよさそうだ。よし、これを習慣にしよう。

 なるほどな、導引は無限に動きがあるって言ってたもんな……


 そうだ、プラモデルもこう作らなければならないという決まりはないし、なにも原作どうりでなくてもいいんだな……

 ひょっとして、これがさとりか?

 今度、冬子ちゃんの所に行ったら話てみよう。きっと褒めてくれるな……へへっ。


 ❃


 じんぞう堂。

「冬子ちゃん、これ見て!」

「あっ、原子力宇宙船ボ○ジャー! それもセカンドシーズンの新型! 凄いリアル! あたし『宇宙探検ボ○ジャー』見てるんですよ!」

「えっ、そうだったの、女の子は見ないと思っていた」

「父が見るんで、一緒に見てるんです」

「あ〜〜っ、勘蔵ね……」


「シンギョウジさん、今日は施術ですか?」

「うん、あれっ、なんだっけな? 冬子ちゃんに、このあいだ発見したことを言おうと思ったんだけど、何を発見したんだっけ?」

「何か見つけたんですか? 骨董品?」

「いゃ、いゃ、導引の秘訣を見つけたんだけど、何だったか忘れてしまった……」


「あっ、それ、よくあるんですよ。導引ってコリがある時は効くけど、コリがなくなると効かなくなるんで、どうやるのか自分でも分からなくなるんです」

「そうなの……じゃあ、今日も肩と腰の施術をやってもらおうかな……」


「はい、わかりました」



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