第36話「ヤマダ氏」・ホノルルマラソン。
血管と言うのは
正座に慣れない人が正座すると足が痺れるようなもんだ。
強くぶつけたり、血管を守るクッションの脂肪が少な過ぎても流れは悪くなる。
「祖父、仁蔵は、このように言っていました」
❃
「にゃー、にゃー」
「どうしたの? あずきちゃん」
「にゃにゃにゃ」
猫のあずきちゃんが
「わかった、いくから」
あずきちゃんに引っ張られ、店の外に出ると店の横に女性が倒れている。
「大丈夫ですか?!」
「はい、大丈夫です……」
意識はあるがフラフラしている。
「あの、よかったら店の中で休んでいってください」
「はい、ありがとうございます……じゃ、お言葉に甘えて……」
店の中で横になっている女性、ヤマダ氏、20代で細身、居酒屋『あんたが隊長』で働いている女性だ。
「あたし、ホノルルマラソンに出るんです」
「はぁ、ほのるる?」
「12月にやるんですけど、最近走っていると気持ちが悪くなるんです」
「そうですか、あれですか、あれ……富士山の方で走るやつ?」
「……えっと…… ハワイでやるマラソンです……」
冬子はスポーツにうとくてマラソンについてはまったく知らない。
「ハ、ハワイですか……ははっ、いいですね」
「コロナウィルスで中止もありうるんですけど、今のところやるようなので練習してるんです」
「そうですか……頑張ってくださいね……」
「あの……こちらは、お腹の施術もしていますか?」
「お腹ですか……やってますよ。お腹を手術で切った人はできませんけどね」
「手術はしたことないのでお願いします。最近調子が悪いんですよ」
「便秘ですか?」
「便秘というよりも、なんか食べた物が詰まるような感じなんです」
「痛いんですか?」
「強い痛みじゃないんですけど、うずくような気持ち悪い感じがするんです。吐き気もあります」
「そうですか、とりあえず、お腹をもんでみましょうか?」
「はい、お願いします」
仰向けで膝を立てお腹をもんでいる。
「最近変わったこととかありますか?」
「そうですね……体重が落ちたかな?」
「だいぶ落ちましたか?」
「う〜んっ、半年くらい前からマラソンの練習を始めて5kgぐらい落ちました。そのへんから体調が悪くなりましたね……」
「痩せて、うずくような痛み、食べ物が詰まるですか……」
(なんだっけな〜たしか、おじいさんに聞いたんだよな〜)
「ちょっとすいません、わかりかけたので調べてきていいですか?」
お客様を施術台に寝かせたまま奥に行く冬子。
「あずきちゃん、ほら、これ美味しいやつ、これあげるから、おじいさん出してくれない?」
「にゃ、いいよ」
あずきの耳からケムリのような物が出てきた。冬子のおじいさんである。もう亡くなっているのだが猫のあずきちゃんに取り憑いて、まだ成仏していない。
「昼間は出づらいぞ」
「ごめんね、今、お客さんが来ていて、若い女性なんだけど、半年で5kg痩せて食べ物が詰まるような、うずくような痛みなんだって。おじいさん前に言ってたじゃない、なんだっけあれ!」
「若い女性か、どれどれ」
幽体で女性を見に行くおじいさん。
女性は立ち上がってお茶を飲んでいる。
こりゃまた細見で綺麗じゃな、お尻もキュッと上がっていて触ってみたいもんだ……
「どうだった、おじいさん」
「あれじゃないか? 脂肪が足りなくて血管が十二指腸を挟む上腸間膜動脈症候群か腎臓が下がる遊走腎あたりじゃろう」
「そう! そう! それだ! 途中まで出かかってモヤモヤしてたのよ。脂肪はクッションなのよね! ありがとう、おじいさん……ん?」
おじいさんは、また女性のそばに行き体をながめている。
「お待たせしました」
「はい……わかりましたか?」
施術台に寝ようとする女性。
「あっ! そのまま、立ったままで少しお腹を触らせてください」
立ち上がっている女性の骨盤の上あたりを触る冬子?
「脂肪が無くなったことで腎臓が支えられず下にさがっていないかをみています」
腎臓はさがっていないみたいだ、遊走腎じゃないな、だったら十二指腸が挟まれるのか?
女性を施術台を寝かせ十二指腸あたりを触る。
「あっ! その辺なにか違和感があります」
やはりこれか……
「たぶん、痩せたことで血管のクッションが少なくなり血管が十二指腸を挟むことで食べた物が詰ったんだと思います」
「はあ? そうですか……」
「ここはリラクゼーションなので診断はできないので、詳しいことは病院にいかないとわかりませんけどね」
「痩せてなったということは、太ると治るんですか?」
「たぶん、ですけどね……」
「なあ〜んだ、痩せた方が速く走れると思って食べるの我慢してたんですよ」
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