第32話「我楽多市」・色が見える。
「
冬子の母親が『じんぞう堂』にやって来た。
「うん、今日はもうお客さんもいないし、行ってみようか」
ガラクタ市に出かけるふたり。
「
「漢字にすると意味が伝わりやすいわよね。冬子は
「西遊記? ドラゴン○ールなら読んだけど」
「ドラゴン○ールも面白いけど、悟空とか名前が変だと思わない?」
「そう? ゴクウ……別に違和感ないけど」
「空を悟るで悟空。いかにも仏教的な感じがするじゃない、一説によると西遊記は仙術の奥義を伝えるための話で、物語でやさしくいろんな技を伝えているらしいんだけど、原文じゃないと無理ね。現代の西遊記は、ただのお話しになっているみたい」
「お母さん、原文読めるの?」
「読めるわけないじゃない! 中国語もわからないわよ! そういえば、あんた自分の名前の由来は知っている?」
「名前って……冬に生まれたから
「冬に生まれたのもあるけど、冬子が生まれた時、お父さん中国の
「え〜〜っ、何それ! とんこはいやだよ!お父さん、なんかずれてる」
「そうでしょ。だから、あたしが冬子にしたのよ」
「たすかったわ。お父さんセンスなさすぎ……」
ガラクタ市を見てまわるふたり。
茶碗や古本、レコードや骨董品など、古い物をビニールシートの上に並べて売っている。
「そこの青色の奥さん、寄っていきませんか?」
「あたし?」
「そう、あなた。すごく透きとおった青色よ、宝石のような美しさがあるわ」
「……あれか!? 色が見える人かな?」
「そう、さすがね、たぶん何かを極めている人ね、この町には同じようなクリスタルな色を持った人が何人かいるわね。とても珍しいことよ」
年で言えば80歳くらいだろうか、白い髪の老婆である。
「お母さん、なんの話?」
「人の目って、実はいくつか種類があって、ごくまれに、人を見ると色が見える人がいるのよ。オーラとは違うみたいね」
「そう、あたしは生まれつき人が色で見えるのよ、頭の構造が違うみたいね。他の人はどんなふうに見えているのか、あたしにはわからないけどね……」
「顔の形は見えるんですか?」
「形は見えるけど、顔はよくわからないのよ。あたしは人の顔を形で覚えるってことはできないわ」
「この子はどうです? 何色ですか?」
「娘さんだね、あんたと似た色だけどクリスタルではない、いろんな色が混じっている、磨けばクリスタルになるかもね」
冬子の顔を見る母親。
「あなたも、そのうち向こうで修行だね」
「奥さん、これいかがです?」
骨董品をすすめる老婆。
「これは、つぼ?」
「これは、中国の敦煌で見つかった古代のツボらしいよ」
「敦煌のツボ!? いいね! いくら?」
「五千円」
「敦煌のツボにしては、ずいぶん安いわね」
「ヒャッヒャッヒャッ、レプリカだよ。あんたをだますと、あたしが天罰を受けるよ」
「レプリカでも、これはいいわね、よくできている、これもらいます」
冬子の母親はレプリカのツボを買った。
「冬子、長崎ちゃんぽんの出店があるわ、食べていきましょう」
冬子と母親は、博多の屋台のような出店に入った。
「冬子も長崎ちゃんぽんでいい?」
「いいよ」
「すいません、長崎ちゃんぽん二つお願いします」
「はいよ、喜んで!」
「昔、あなたが生まれる前にお父さんと長崎に行って、長崎ちゃんぽんを食べまくったことがあるのよ」
「へ〜っ、何軒も回ったの?」
「観光しながら長崎ちゃんぽんの店があると入って食べたわ」
「長崎っていうと出島とか?」
「出島もいったわ。驚いたわよ、埋め立てで海の上じゃないのよ。普通の地面なんだから」
「いいな〜っ、わたしも行ってみたいな〜出島とちゃんぽん」
「あんたも、そろそろ結婚して旦那さんと行きなさい」
「いい人がいないのよ……」
「あんた、選び過ぎなのよ。30歳過ぎて相手がいなかったらお見合いしてもらうからね」
「そんな〜」
「はい、お待たせしました。長崎ちゃんぽんです」
長崎ちゃんぽんが来た。
冬子と母親が食べる。
「お母さん、美味しいね。これは本場の味?」
「これは、美味しいけど工場で作ったスープの味だと思う。よくある味よ」
「そうなの? 美味しいよ」
「本場長崎のお店のちゃんぽんのスープって作るのが難しいみたいで、こんなバランスのいい味じゃないわ。でも、あたしは、あの作りたての
「なるほどね〜っ、言われて見れば、このスープは、大型スーパーの中にある全国チェーンの長崎ちゃんぽん屋さんの味と似ている」
「この辺のラーメン屋さんでも、工場で作っているスープを使っているお店は多いのよ」
「そうなの!? わたしは、ラーメン屋さんはみんなお店でスープを作っていると思っていた」
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