第30話「エゾリス団」・酔っぱらい。
縁のある人は、遠くからでも導引を習いにくるんじゃ。
縁のない人は、親・兄弟でも導引はしないもんじゃ、整体のようにやってもらうのはやるが自分ではしない。
まあ、普通はやらないんだ。
めんどくさいからな……わしも、千円払うから誰か背中とふくらはぎを踏んでくれないかと思うことがよくあるよ。
導引と縁のある人を
「祖父、仁蔵は、そう言っていました」
父、勘蔵は久しぶり合った、中学校の同級生、カワモトさんと呑みに行くことになり、出かけていきました。解説は冬子でした。
❃
居酒屋『あんたが隊長』
「なぁ、勘蔵、ハチスカ覚えてるか?」
カワモト氏が言う。
「中学の時のハチスカか?」
勘蔵が居酒屋の席に座って話しを聞く。
「そう、あいつ。このあいだ手術したらしいんだ」
「ヘェ~手術か、何の手術?」
「心臓の弁が悪いので人工弁に変えたんだってさ。俺はサイボーグになったって電話で言ってた」
「そうか、あいつ『サイボーグ忍者ムサシ』が異様に好きだったからな、休み時間に必殺光速斬りって、よくやってたよ」
「生ビールおまたせしました」
店員さんがビールを持ってきた。
「おっ、きたね。じゃあ、乾杯!」
「あいつの爺さんって知ってるか?」
カワモト氏がビールを呑みながら話す。
「爺さん? 知らないよ……」
勘蔵もビールを呑みながら聞く。
「戦争に行っておかしくなったんだってさ」
「おかしくって、頭が?」
「そう、昔は優しい人だったらしいんだけど、南方の激戦地に行って撃たれて帰国したらしいんだ。それから酒飲むと暴れるようになって、ハチスカもなぐられたり、投げ飛ばさたりしたらしいんだ」
「あれか、ベトナム戦争から帰国したアメリカ兵が戦争の後遺症で暴れるってやつ?」
「たぶんそうだろうな、殺されると思ったら正常ではいられないんだろうな、それでもハチスカの爺さんは普段はいい人なんだ。酒が入ると戦争を思い出すみたいで暴れまくってネコまでフスマに投げ飛ばしてたらしいぞ、俺はあいつの家に遊びに行ったら、猫は気が荒くなっててひっかかれたよ。酒乱は勘弁してほしいな、勘蔵は飲んでも乱れないな。お前はストレス発散はどうしてるんだ?」
「ストレス? 俺のストレスは嫁が鬼のように怒ることだな。浮気したら本当に○される気がするよ」
「サトコちゃん(勘蔵の嫁)可愛いじゃないか」
「あいつは母親が早くに亡くなっているので小学校でも母親の事でよくケンカしたらしいんだ。学校の先生に
「巴御前ってなに?」
「昔の強かった女かな? 女弁慶みたいなものだろう」
「ヘェ~ そうなのか、俺、サトコちゃんに怒られてみたいな……」
「あいつの怒り方は身もふたもないぞ! しかも謝るということを知らない」
「そうなのか……綺麗なのにな、そういえばハチスカは、3年くらい前だけど若い嫁さんをもらったらしいぞ」
「若いって? 40歳くらいか?」
「20代だって」
「それは犯罪じゃないのか? だいたい、あいつ仕事は何しているんだ?」
「仕事か……何してるんだろう、株で儲けてるって言ってたな、かなり儲けてる感じだったぞ」
「株か、それで若い嫁か……うらやましいな」
「お待たせしました。焼き鳥といも煮でございます」
「はい、ありがとう」
「只今、当店は、山形フェアを行っておりまして、いも煮をご注文されたお客様には、玉こんにゃくのサービスが付いております」
従業員の女性が玉こんにゃくも持ってきてくれた。
「サービスか、気前がいいね。お姉さん、え〜と……」
酔っぱらったカワモト氏が従業員のお姉さんのネームプレートを見ている。
「ヤマダさんか、おじさんがよく行く所、知っるかい?」
「どこですか?」
「山だ。ハッハッハッハッ……」
カワモト氏がひっくり返って笑っている。
「おじさんもサービスしてあげようか?」
カワモト氏は酔っ払って、お姉さんに近寄る。
「そういうサービスはけっこうです。ホッホッホッ……」
従業員のお姉さんは、お盆でカワモト氏をさえぎった。
「元気な娘だな……そういえば、落語でさ、美人で金持ちの女が旦那をもらうんだけど、これが次々に亡くなるってのがあるだろ」
勘蔵が突然、落語の話しをしだす。
「えっ、なにそれ?」
「知らないか、短命って題だったかな? 綺麗で金持ちの女性が旦那を
「なんか聞いたことあるな、あれだろ、女が
綺麗で旦那があれで、金もあるし、ひまだから、あれをあれするからすぐに亡くなってしまうってやつ」
「そうそう、あれだ。ハチスカも若い嫁さんをもらったから心臓をやられたんじゃないかな?」
「なるほど、それはあるかもな……」
あいかわらずカワモトはバカなこと言ってるんだな。
俺も一緒に呑めば良かった……
居酒屋の天井に浮かんでいるのは、亡くなった勘蔵の同級生、高野氏である。
そろそろ成仏しないといけないんだが、本当、俺は馬鹿だったな〜 中学生の時に勘蔵に導引を勧められていたのにやろうとしなかった。
中学生で健康法をやろうとは思わなが、その後も何度か導引を教わるチャンスはあったが、けっきょくやらなかった。
勘蔵にキャバレーを誘われた時は喜んで行ったのに……
「カワモト、上に何かいるぞ!」
勘蔵が酔っぱらって言う。
「なんだ、ハチスカか? 手術失敗したのか?」
「いや、たぶん、高野だ! まだ成仏してないな。高野! お前は死んでもエゾリス団の団員だ! 安心して成仏しろ!」
「高野か!? お前、綺麗な嫁さんもらって医者になって羨ましいぞ! 俺なんか独り者でボロいアパートに住んで金もないぞ!」
勘蔵もカワモト氏も天井に向かって叫んでいる。ただの酔っぱらいだと、周りの客も気にしていない。
「勘蔵、高野はメタ○ソ団だったんじゃないのか?」
「最初はそうだが、宇宙人を探しに行った時、高野のがエゾリスを見つけて、それからエゾリス団に変わった」
「エゾリス団に変わったら、合言葉も変わるんじゃないのか?」
カワモト氏は、話しに違和感を感じていた。
「合言葉は変わらずマ○ンキだった。高野は家では下品なことを言うと怒られるから言いたかったんだろう。バッチもウ○コの絵が書かれた手製のメタ○ソバッチを使っていた」
勘蔵は酔っ払っている。
俺の宝物は、小学生の時に作った、そのメタ○ソバッチだったよ。これを持っていれば勘蔵と友達でいられる気がして最後まで持っていた。
一緒に怪獣映画観たり、UFOを探しにいったりエゾリス団は楽しかった。
野生のエゾリスが木に登る速さに感動したのを今でも覚えているよ。
俺は母親に怒られるのが怖くて、母親のいいなりだった。勉強、勉強で医者になってもストレスで酒ばっかり呑んでいた。嫁も母親が気に入った人で、俺とは相性が悪かった。
道を間違えたのかな?
いまさら戻れないしな……
勘蔵、エゾリス団は楽しかった。
カワモト、がんばって生きろ。
じゃあなー そろそろ行くよ。
「勘蔵、今、体の中を風が通った!?」
「ああっ、俺も感じた。たぶん、高野だろう……」
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