第28話「月の力」・うつ病。
「
尿管結石で入院したカワモト氏である。
「出ましたか、よかったですね」
「今日は、一緒にパソコン教室で勉強してる人を連れてきたんだ」
カワモト氏が冬子の店『じんぞう堂』に若い男性を連れてきたが、なんだか元気がない。
「どこか具合が悪いんですか?」
冬子がたずねる。
「実は、うつ病なんだ」
「うつ病ですか、あたしは治したことありませんよ……」
「何とかならないかな? 病院に行ってるんだけど、あまり良くならないらしいんだ」
「精神的なものは、良くわからないんですよ……」
「ダメ元でいいよ。何かやってよ。彼はパソコン検定1級を受けるくらい頭がいいんだ。俺は3級を受けるけど、しかも、あぶない感じだ」
「そうですか……あの……どこか、気になる所は……」
冬子は若い男に話かけるが、あまり反応がない。心ここにあらずといった感じだ。
「カワモトさん、彼は前からこんな感じなんですか?」
「いゃ、前は普通の感じだったよ。1ヶ月くらい前かな、こんなふうになったのは」
「そうですか、とにかくやってみます」
冬子は若い男性の経絡を診ている。
よくわからないな、肩と首にコリはあるけど、流れ方が全体に弱い。これをどうすれというんだ、困ったな……
「おっ、カワモトじゃないか。久しぶりだな」
冬子の父親、
「お父さん、いいところに……お父さん、うつ病、わかる?」
「うつ病? カワモトが?」
「俺じゃねーよ」
カワモト氏と勘蔵は中学生の時、同級生だった。
「この、若い方がうつ病!」
「あーーっ、なるほど、うつ病みたいな顔してるね」
「三日月、お前なら、うつ病の治し方を知ってるんじゃないか!?」
「仙術は、うつ病も自己免疫疾患もがんも、やり方はほとんど変わらないぞ、体を温めるのとコリをとることだよ」
「なんか、大ざっぱだな……特効薬みたいのはないのか? 彼は俺にパソコンを教えてくれたいい奴なんだ」
「あるぞ! 伝統医学だ。頭の病にはサルの頭の黒焼きが効くって聞いたことがある。しかし、結構高いぞ」
「サルの頭……そんなので効くのか? 昔、サルの手って話があったが、そのたぐいじゃないのか?」
「お前、サルの手の話で震えてなかったか?」
「あんなの……た、ただの……作り話じゃないか……」
カワモト氏は怖い話しが苦手なようだ。
「あっ、そうだ! 冬子、これを使え」
勘蔵が指輪を外して冬子に渡した。
「なに、これ? どうするの指輪で」
「この指輪の力で、どうすればいいか聞いてこい?」
「どういうこと? この指輪って電話になってるの? すごい小さいね」
「電話ではないよ、この指輪は月の力を持っていて
「ますます分からない……」
「使えば分かるさ、頭に手を当てて経絡を探ってみろ」
勘蔵は冬子の指に指輪をはめて、若い男性の頭に冬子の手を置いた。
「月の石よ、力を解放したまえ」
勘蔵が何かを唱えた。
「あれっ、なんだ、意識が……」
冬子の意識が若い男性の中に入っていった。
「あなたは、誰?」
「俺はミトコンドリアさ、もう、くたくただよ、こいつは、ろくに寝ないでパソコンの勉強するんだぜ」
「そうなの?」
「毎日、3〜4時間しか寝ないんだ、風呂も入らないでシャワーで終わり、飯もカップ麺やパンばかりだ」
「栄養が悪いの?」
「栄養も悪いし、俺たちは熱が欲しいんだ、寝る前に体を温めてくれたら、寝てる間にちゃ〜んと体の修復をするのに、寝ないわ、体は冷えてるわでは、俺達は、ろくに働けないから体の中はボロボロだよ」
「そういうものなの?」
「あたし達だって、この人が寝ないから、新しい血液を作れないのよ!」
「あなたはだ〜れ?」
「あたし達は赤血球。新しい血液って体を横にしないと作れないのよ! 立っていると重量が強すぎるのよ!」
「横にならないと新しい血液が作れないの?」
「そうよ。元々、四足歩行で血液を作るようにできてたから二足歩行になると体にかかる重力が強くなるのよ。だから、あたし達は人が寝ている間に血液を作っているのよ!」
「そうなんだ、やっぱり睡眠不足はだめなのね」
「あたし達の寿命は3ヶ月くらいだから、こんな睡眠不足が3ヶ月以上続いたら酸素も栄養も運ぶ赤血球が足りないのよ」
「俺たちだって同じさ、ぜんぜん人手が足りなくて細菌やウィルスも退治できないよ」
「あなたは?」
「俺たちは白血球だよ、がんでもウィルスでもやっつけてやるけど、ちゃんと寝てくれないと働けないんだ」
「冬子……冬子……」
「あっ、なに? あたし寝てたの? なにこれ、催眠術?」
「これが月の力だよ。体の声を聞いてきたか?」
「うん、聞いた。寒いって、あと寝てくれって言ってた」
「やっぱりそうか、それならやり方は簡単だな」
つづく
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