第27話「カワモト氏 2」・スワイショウ。

 導引のコツは休み休みやることじゃ。


 座ったり、寝てやる技なら、左側を3回やったら深呼吸を2回してから右側を3回するって感じで、次の技に入る前にも深呼吸を2回くらいするといいぞ。


「祖父、仁蔵は、このように言っていました」


 ❃


「こんにちは、まだまだ暑いね」

「あら、いらっしゃいませ。久しぶりですね」

 『じんぞう堂』の常連、カワモト氏であった。


「最近、パソコン教室に行ってるんだ。今度、パソコンの資格試験を受けるんで頑張ったら、肩凝っちゃってさ」

「そうですか、じゃ、今日は肩をやりますか?」

「えぇ、お願いします」

 施術台にうつ伏せになり、肩をもんでもらっている。


「目も疲れるんだけど、目の施術はないよね」

「ないこともないんですが、『かにの行』とか。でも、肩と首のコリを取ったほうが早いと思いますよ。特に、ここ!」

「あっ、そこか……こってるね。わかるよ」

 冬子は右の首と頭の境い目を押さえている。


「若い頃、ひどい疲れ目になって何年もテレビも見なかったんだ。病院行っても目薬をくれるだけで効かなくてさ〜 自分で治し方を探したら、モヤシを食べるといいとか、目をつぶって太陽を見るとか……」

「それは、効きましたか?」

「いや、ぜんぜん……でも、アマニ油を飲むようになって調子がいいみたい」


「アマニ油は良さそうですね。血液さらさらになりそう」


「最近、体にいい物を食べるようにしてるんだ」

「えっ、たとえばどんな物ですか?」

「そうだね、血管に良いっていうからブロッコリーでしょ、あとはホウレン草とか、それと紅茶を四六時中飲んでいるよ」

「ブロッコリーに紅茶ですか……」


「昔、仁蔵じんぞうさんが覚えておくといいよって、なんだったかな〜 スワンとか言う技の講習を勧められたけど、やらなかったんだよね」

「スワンですか?」

「はっきり覚えてないけど、そんな名前じゃなかったかな? 中国で簡単で効果の高い気功を探したことがあって、一番になった技だって言ってたな」

「……ちょっとわからないですね」

「そうか、失敗したな〜 肩こりとか目にも良いって言ってたんだ」


 なんだか様子がおかしいカワモト氏。

「どうかしましたか?」

「いゃ、ちょっと……さっき、お腹が少し痛かったんだけど、だんだん痛みが強くなってきたんだ。吐き気もして気持ち悪い」

 油汗を流すカワモト氏、かなり苦しそうだ。


「救急車を呼びましょう!」

「そうだね、そのほうがよさそうだ……」

 電話で救急車を呼ぶ冬子。


「手術する病気かな?」

「たぶん、結石じゃないですか?」

「結石? 俺、野菜もいっぱい食べてたんだよ」

「紅茶とか、苦味のある野菜にはシュウ酸があるのでカルシウムと一緒に食べるようにしないと結石ができやすいんです。さらにパソコンの勉強で座りっぱなしだったんでしょ?」

「カルシウムか、スペシウムなら小学生の時に遊んでいたな……野菜と肉じゃだめなの? アマニ油飲んでるから魚は食べなくてもいいと思ったんだ、紅茶飲みながら、ひたすらパソコンの勉強で座りっぱなしだったよ」


 救急車で運ばれていくカワモト氏、冬子もついていった。医師の診断は、尿路結石だった。

 なんとか尿で出せそうな大きさらしく、手術はしないで、薬で様子をみることになった。



 あたしも紅茶は好きだけど、ミルクティーか、食後の楽しみにしたほうがよさそうね。


 でも、カワモトさんが言ってたスワンって何だろう? お父さん知ってるかな? 電話して聞いてみるか……


「もしもし、お父さん」

「はい、なんだ?」

「スワンて技知ってる? 気功なんだって」

「……スワン? なんだろう? ツルの技なら知ってるが……」

「ツルかな? カワモトさんが、昔、おじいさんに勧められたんだって。中国で、気功で一番とか言ってた」


「札幌で一番なら、あのインスタントラーメンだろうが、気功で一番と言えば……スワイショウだろう!」

「スワイショウ?」

「なんだ、知らないのか? 有名な技だぞ」

「知らない……」

「教えてやろうか? 三千円で」

「え〜〜っ、金取るの?!」

「パチンコ代だよ、勝ったら何か買ってやるから」

「う〜〜っ、わかった」


 ❃


 わし、仁蔵が『スワイショウ』を解説しよう。

 中国で無数にある気功の中から効果が高くて一般の人ができる技を探したそうだ。

 そこで一番になったのが『スワイショウ』と言う技で”振り捨てる“と言う意味らしい。


 日本でも一時期ブームになって、いろんなスワイショウが生まれたようじゃ。


 基本となるスワイショウのやり方は、

 まず足を肩幅に開いて直立。

 腕は下に下げている。

 両腕を伸ばしたまま肩の高さくらいまで上げる。映画のキョンシーみたいな姿じゃ。

 そこから腕を下に“振り捨てる”んじゃ。

 まるでブランコのように。

 あとは、それを繰り返す。


 これを20分くらいやるといいらしいが、けっこう20分は大変で、わしは三日月流の立ち技をしている時に深呼吸の代わりに、1~2分くらいよく使っておる。


 縦にブランコのようにするのが基本だが、横に腕を振り回すのもあるようだ。


 不思議なのは、この技、まったくスワイショウを知らないだろうと思う人も何気なくやっておるんじゃ。おそらく、疲れを取るために何気なくやっている動きがスワイショウになっているんじゃろう。


 導引では何気なくやる動きを大切にして、そこから技に発展しておる。

 何気なく腰をさする、叩くなどは代表じゃろう。

 自分が、何気なくする動きには意味があるかもしれないぞ。


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