第26話「大根風呂」・皮膚。

 ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……

 若い女性が走っている。

 上下ジャージで細みの若い美人である。


「はっはっは……疲れた。今日はこれぐらいにしとくか」

 コンビニで冷えたジュースを買い、一気に飲んでいる。

「ぷは〜〜〜っ、最高! 走った後の冷えたジュースはいいわ!」


 ゆっくりと歩いている女性。

「こんなところに整体があったんだ、足疲れたな……」

 整体の店を見つけ、中を覗き込む女性。

(お客さんはいないと、店員さんは女性だね、やってもらおうかな……初めての店って入りづらいけど、ちゃんと看板もあるし料金も書かれているから大丈夫でしょう)


 店に入る女性。


「いらっしゃいませ」

 冬子とうこの店、じんぞう堂である。


「あの、足をやってもらえますか?」

「はい、足ツボですか?」

「あ、いや、足ツボじゃなくて、ふくらはぎとか腰とか……走って足が疲れちゃって……」

「はい、いいですよ。施術台にうつ伏せに寝てください」


 足の施術をしながら、お客さんの首を見て見ると湿疹しっしんのような赤くただれた部分が見える。よく見ると足にもある。

(これはアトピーかな? 皮膚病という感じでもないな……体を冷して免疫が暴走したかな? そういえば、おじいさんは、こういうのよく治していたな〜 でも、あたしはやったことないんだよね〜 今の時代はやりずらいんだよね)


「まいど! 冬子ちゃん、昼ごはん。今日の日替わりランチはカニ玉だよ!」

「ありがとう、後で食べるから机に置いといて」

 いつも昼ごはんを届けてくれる、そば屋『はまこう』の店主である。


「今日のお客さんはべっぴんさんだね。俺も足をもんでみたいな〜」

「奥さんの足をもんであげてください」

「若い娘がいいな〜 ん!? よく見たら顔に湿疹があるね。また薬草風呂の講習かい?    そういえば最近はやってないね。俺の家はたまにやってるから、ほら、肌が綺麗だろ!」

 はまこうの店主は、冬子に腕を見せている。


「じゃーねー」

 そのまま、はまこうの店主は店を出ていった。


「すいません、近所のお蕎麦屋さんなんですけど気にしないでくださいね」

 お客様が顔の湿疹を気にしなければいいと思っている冬子。


「私、自己免疫疾患で皮膚が荒れているんです。人に伝染ることはないので、お店に入ったんですが……薬草があるんですか?」


「あれはですね……この店の先代がやっていた薬草風呂のことを言っていたんです」

「その薬草風呂に入ると皮膚の荒れが治るんですか?」

 お客様は薬草風呂に興味を持ったみたいだ。


「先代は上手だったんですが、あたしはよく知らないんですよ」

「私、病院に通っているんですけど、全然良くならないんです。体を動かせば良くなるかと思って今日もジョギングしていたんですが、自己流ではうまくいきません。なにか、知っている事だけでも教えてもらえませんか?」


「そうですね……やり方は知ってるんですよ、でも、今の時代はやりにくいんですよ」

「どういうことですか?」


「昔のお風呂は湯舟に水を入れて沸かしたので、薬草を木綿の袋に入れて湯舟の水に入れておき、お風呂のお湯が沸けば、それで出来上がりだったんです。でも、今はお湯が直接出るでしょ」

「そうですね、直接出ますね」


「それとですね、薬草と言っても、ほとんどが干した大根の葉っぱなんです。昔は八百屋さんにいっぱいあったんで安くもらえたんですが、今は収穫の時に機械で葉っぱは切り落とされるので八百屋さんにもないんです」

「大根の葉でいいんですか?」

「ええ、他も混ぜたりしますけど……だいたいは……」


「スーパーで、味噌汁用に大根の葉を干したものが売ってますけど、あれではダメですか?」

「あ〜っ、有りますね。あれでもいいですけど、けっこう値段がするでしょ?」


「この皮膚が良くなるなら、多少高くてもいいです」

「そうですか? それなら漢方薬屋さんに行けば大根の葉を干したものは売っているんです。値段も、一袋7000円くらいだったかな? お風呂に一回入る分なら300

円〜400円くらいで出来たと思いますよ」


「それは、どのくらい入れば効果がでるのでしょう? 一年くらいですか?」


「たしか……1ヶ月くらいで綺麗になっていたと思いますよ」


「1ヶ月!? たしか、皮膚の入れ代わりはそのくらいだった。それなら、400円かける30日で12000円で良くなるんですか!?」


「そうですね、そのくらいかな?でも、あたしは直接やったことはないのでハッキリしたことは言えませんよ」

「私、やってみます。大根の葉なら食べ物だし、効かなくても12000円なら……やります!」


「そうですか……あたしも昔はよく入っていたので大丈夫だとは思いますが……」



 ❃



 大根風呂について、わし、仁蔵が解説しよう。

 干した大根の葉を木綿の袋などに入れ、大きな鍋やヤカン等で水からゆっくり沸かすんじゃ、その煮汁を風呂に入れれば出来上がり。簡単じゃろう。袋に入った大根の葉で体を軽くこするのもよいぞ。


 大根風呂は、昔から冷え性を治す効果があると言われて行なわれていたが、自己免疫疾患や皮膚のただれにも効くようじゃ。

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