第25話「ネパール人」・前世。
「
冬子の母親が『じんぞう堂』に来ている。
「うん、いいよ。今日は予約もないしね」
「何が食べたい?」
「そうだな〜〜 インドカレー! おじいさんが御供えしてくれって言ってたから、テイクアウトでひとつ持って帰りたいわ」
「おじいさん、インドカレー好きなの? あずきちゃん、どうせ、おじいさんは寝てばかりなんでしょ」
母親は、黒猫のあずきちゃんをなでながら言っている。
インドカレー屋に歩いて向かう冬子と母、冬子の整体の店から15分ほどの所にある。
途中のネパールカレー屋のすみで男が二人何かをしている。
「何だろう、あれ。儀式っぽいね」
「ニワトリと簡易コンロと、上に乗ってるのは香炉かな? あーっ、なるほど」
「なに、お母さん分かったの?」
「冬子はわからない? たぶんあれは黒魔術だと思う。懐かしいコンロだな〜 あれは灯油を使うタイプの簡易コンロよ、私も山で修行した時に使っていたわ、火を付けるのにコツがあるのよ」
「お母さん、山で修行してたの?」
「あっ!コンロを蹴飛ばした」
一人の男が火の着いた簡易コンロを蹴飛ばして、さらに足でつぶしている。
コンロは潰れて火が噴き出してる。
もう一人の男は怒って、コンロを潰した男にビンタをした。右、左と往復ビンタである。
「ビンタされているわよ、大丈夫かな?」
心配そうに遠くから見る冬子と母親。
殴った男は怒ってどこかに行ってしまった。
「あのビンタされた人、前に店に来たことのあるネパール人だ」
冬子は以前、膝が痛くて店に来たネパール人のピーチューチャーを覚えていた。
「危ない人じゃないの?」
「そういう人じゃないと思う。行ってみましょう」
冬子と母親は殴られたネパール人の所に行った。
「大丈夫ですか?」
「ハイ、ワタシは大丈夫です」
「何があったんです?」
冬子と母親がネパール人を心配している。
「彼は、コロナウイルスでお客さんが店に来ないので黒魔術を使ってお客さんを呼ぼうとしたんです。しかし、それは、やってはイケナイこと、ワタシはトメマシタ。すると怒って殴られました」
「あなた、本当のネパール人ね」
「そう、ワタシはネパールで生まれて育った」
「殴った人はネパール人じゃないの?」
「彼は、店ではネパール人と言っているけど、本当はインド人」
「なるほどね〜 あなたは仏教徒ね」
「そう、ワタシは仏教徒。ネパールは、お釈迦様の生まれた国です。黒魔術は使ってはいけない技。ワタシはトメマシタ」
「そういうことか、あなたは、立派よ」
冬子の母親はネパール人の言うことがよくわかるようだ。
しばらく話してから、二人は目的のインドカレー屋に行き、インドカレーを食べている。
「あたし、よくわからなかったんだけど、あのネパール人の人は何だったの?」
「彼は、
「地仙って、お父さんみたいに地域を守るお地蔵さん?」
「そう、警察や法律とかの無い、ずっと昔から地域を守るために上の方にいる誰かによって地仙は配置されているのよ。本人達は気が付かないだろうけどね。天狗達も危ない人になって地域を守っているのよ」
「へ〜〜っ、あたしには信じられない……それは世界中にいるの?」
「私も世界中は知らないわよ。日本には昔からいるらしいけどね……今は、警官や自衛官、消防士、医療関係の中にけっこういるわよ。あと、芸術家やふらふらしている人の中にもなぜか多いのよ」
「天狗もいるの?」
「潜在的な天狗はね。動物からの生まれ変わりの人間は、まだ前世の記憶があって凶暴だったり我執が強いから人間の世界のルールを破る者が多いの、そういう者には仙人より天狗の方が厳しくあたるのでいいのよ。前世がケモノの人は天狗とよく似ているけど、天狗には地域を護る神様的な部分があるのよ」
「へ〜っ。天狗も必要なんだ」
「それは、そうよ。善人ばっかりの世の中にはならないわよ。腸内細菌だって善玉菌と悪玉菌があって日和見菌とのバランスが大切でしょ」
「なるほどね。わたしも、こいつは前世は犬じゃないかと思う男の人に何回か合ったことがあるわ」
「はははっ、それは冬子になつく人かな? 例えばね、生まれつきの天才っているじゃない!? 数学とか特に、小学生で難しい計算をすらすら解くなんて絶対に変よ。たぶん、ああいうのは前世で数学を勉強していたのだと思うのよね……」
「そうね、一緒に小学校で勉強してるのに、字や絵が上手い人とかいたね。あのネパールの人も前世は、お坊さんかな?」
「たぶん、そんな感じじゃない? 殴ったインド人は肉食動物だったかもね?」
冬子と母親は、そんなことを話しながらインドカレーを食べていた。
インドカレーを食べ整体の店に戻った冬子。仏壇にテイクアウトのインドカレーを御供えした。
「おじいさん、インドカレーよ。香りが強いから楽しめるでしょ?」
あずきちゃんが仏壇に近寄って匂いを嗅いでいる。しかし、インドカレーは気に入らないのかどかかに行ってしまった。
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