第23話「シンギョウジ氏 2」・腰痛。
「
「きみ?」
「そう、朝もぎたてのやつを茹でたんだ」
今日のお客様は、おもちゃ屋『ポイパ』の店長でミドリさんのご主人、シンギョウジ氏である。
「とうきびですか」
「そう。俺は『きみ』って言うけどね」
「あずきちゃん、きみだって……」
冬子は黒猫のあずきを抱いている。
「あずきちゃんも食べるかな?」
「この子は、たいがいの物はたべますよ。ね、あずきちゃん、とうきび食べる?」
「にゃべる」
「食べるそうです」
「みんなで食べよう。まだ温かいから」
二人と一匹でとうきび(スイートコーン)を食べている。あずきも器用に食べている。
「俺が子供の時に食べてたのと、最近のは味が違うんだよな〜」
「そうなんですか? あたしは変わらないけど……」
「俺が子供の時に食べてたきみは茹でて次の日に食べると旨かったんだ」
「品種が変わったのかな?」
「たぶん変わっているね。昔のは実が柔らかかったよ」
「そうなの? あずきちゃん」
「そうそう」
「そうなんだ……」
「あずきちゃんって、昔からいるよね……」
「この子は、あたしが生まれる前からいるんですよ」
「猫って長生きなんだね……」
「たぶん特別だと思います。化け猫……」
「ところで、今日は腰をやってもらいにきたんだ。あと右肩と」
「痛いんですか?」
「腰は鈍い痛みで動きにくいんだ。年取ったらなるような痛み。肩はシビレるんだ、電気に触ったような感じで、いつもじゃないけど、最近、パソコンを触っているとなるね」
「わかりました。肩からもんでみましょう」
冬子はシンギョウジ氏をイスに座らせた状態で右肩を動かしながらもんでいる。
(分かりづらいな〜 腕全体が疲労しているけどシビレは血管の圧迫かな?)
(冬子、これは寝てる時、自分の二の腕を伸ばして枕にしてるんじゃないか?)
(おじいさん? 昼間でも出てくるの!?)
(季節的なものかな? とうきびの匂いにつられたよ)
冬子の祖父は、すでに亡くなっているが、幽体となって黒猫のあずきの中にいて、たまに出てくるのであった。
「シンギョウジさん、寝ている時に二の腕の上に頭を乗せてることはありませんか?」
「ああっ、腕に……たまにあるよ」
「それかな? 腕の神経を頭が圧迫しているんじゃないですか?」
「そうかな? そうかもね……」
(あと肩の下の筋肉が詰まってるんじゃないか? 経絡を見てみろ)
「ちょっとすいません、肩をもう一回」
冬子は肩の経絡を詳しくみている。
(肩の下? これか!?)
「あっ、そこかな? すごくひびく」
「右肩の下の筋肉が疲労していますね。ここももみましょう。神経は回復するのに時間がかかるので気長にやりましょう」
(おじいさん、腰も痛いらしいんだけど慢性の腰痛かな?)
(たぶん、シンギョウジさんは、パソコンのやり過ぎとプラモデルの作り過ぎだろ。イスに座る時間が長くて仙腸関節を動かさないことで炎症がおきて痛いんじゃないかな? 骨盤低筋の体操をやってみろ、それで仙腸関節に痛みを感じたら、それで良くなるだろう)
「シンギョウジさん、骨盤底筋の体操をやってみましょうか?」
「体操? もんでくれないの?」
「体操の後でもみましょう」
「骨盤底筋の体操は尿もれの予防にやるんですが、仙腸関節のうっ血にもいいんですよ。やり方は、こう、仰向けに寝て膝を立てます。そのまま腰を上げて仙腸関節を押し込むようにしてうっ血をとります」
「こんな感じかな?」
「そうです、そうです」
「なんか仙腸関節が痛いよ。どのくらいやるの、これ」
「2〜3回でいいですよ、やり過ぎたらかえって痛くなりますから。午前と午後に1回づつやるといいですよ」
施術を終えて帰っていくシンギョウジ氏。
(わしも昔のとうきびが好きだな)
「そうなの? 今のも美味しいよ」
(なんか違うんだ……)
そう言いながらもらったとうきびの匂いをかいでいる祖父の仁蔵(幽体)
❃
3日後。
「冬子ちゃん、腰の痛みが無くなったよ。あんな簡単な体操でいいんだね。不思議だ」
シンギョウジ氏は腰痛が良くなったようだ。
「全部じゃないですけどね、腰痛の原因にはいろんなのがありますから……」
「そうそう、ミドリさんが耳鳴りを小さくする方法を勘蔵さんに聞くのを忘れたって言っててね。今度、施術を受ける時に教えて欲しいって言ってたけど、冬子ちゃんも知ってるの?」
「えっ、えっ、えっ、耳鳴り!? たぶんわかりますよ。たぶんですけど……」
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