第16話「しのぶ 2」・足ツボ。
「しのぶちゃん、足を出してくれる? 目のツボは痛いよ。悪くなければ痛くないんだけどね」
しのぶは、恐る恐る靴下を脱ぎ足を出した。しのぶは足ツボをやるのは初めてだった。
「目のツボは第2指と第3指なんだ。人指し指と中指だね、足の指で人を指す人は少ないけどね。この指の付け根に尿酸が貯まって結晶になってることがあるんだ」
「尿酸ですか? 痛風の……」
「さすが薬剤師、よく知ってるね! さーて、結晶があるかな?」
冬子の父親は、しのぶの足の裏を触っている。
「ここだな、骨のきわにあるね。けっこう貯まっている。この、ジャリジャリと言うのが分かる?」
「はい、分かります。砂っぽい物があるような」
「そう、これが尿酸の結晶だと思うよ、実際には何かわからないから、汚れと言ってるけどね、薬を飲んでいる人は薬が貯まっているとも言われるね」
「それを取ると目がよくなるんですか?」
「緊張した目の筋肉がリラックスするんだ。足ツボだけでは難しいけど、この汚れを取ってやるとだいぶ楽になると思うよ」
「そうですか、1回で取れますか?」
「1回では無理だ、何回もやらないと。こうやって結晶を崩すと腎臓で汚れを濾過してくれるんだ。やり方を覚えて自分でやるといいよ」
「この、人指し指と中指を揉めばいいんですか?」
「指自体ももんだほうがいい。本当は足の裏全体を揉んで、ふくらはぎも揉むんだ。しのぶちゃんは、まだ若いからここだけでも大丈夫だと思うけど、100円ショップでプラスチックの青竹を買って踏むといいよ」
「はい、買って来ます」
「指の付け根は痛くなかったかな?」
「それほどではないです」
「じゃあ、指もやってみよう。痛かったら言ってね」
冬子の父親は、ゆっくりと足の指をもみだした。
「あっ、痛い! 痛いです」
「こっちの方が痛いか、普通の人は足の指を揉むなんてことはないからね。一生足の指を揉まないかもしれないね。でも、手や足の指を揉むと全身の血液の流れが良くなって“長寿の秘訣”と言う人もいるんだよ」
「これが長寿の秘訣ですか……」
「痛いのは最初だけだよ、何回かやればなんともなくなるよ」
「すごく痛いんですけど……」
「最初は軽くしとこうね。痛いってことは効きそうだ。あと、頭と首のツボがある足の親指もやるよ、頭痛はあるかい?」
「頭痛はたまにあります。痛み止めの薬はいつも持ってます」
「痛み止めの薬は使い過ぎると危ないらしいよ。鎮痛剤は怖いからね」
「そうですね、本当は使わないほうがいいんですが、とにかく痛みを取りたくて……」
「親指もちょっと硬いな、痛いよ」
足の親指の付け根から指までを丁寧にもんでいる。ハイヒールをはくので親指が少し内側に間がっている。
「痛い痛い痛い! 痛いです」
しのぶは体をよじらせて痛みに耐えている。
「やめとくかい?」
「いや、やって下さい。頭がスッキリしました」
しのぶは涙目になっている。
「じゃあ、やるよ。首もこってるみたいだね」
しのぶは痛いのを耐えた。足の痛みとは逆に頭の痛みが引いていくのを感じていたからだ。
「良く頑張ったね、次は気持ちいいよ。腎臓のツボだ」
足の裏のまん中あたりをもみだした。
「あ~っ、そこは気持ちがいいです」
「ここは、痛くないんだ。尿酸がたまるのは腎臓の機能がおちてるからだと言われるね、後で腰も揉んであげるよ。足の裏全体も揉んで、足首ももんで、次はふくらはぎだ。冬子はふくらはぎのもみ方を知っているのかな?」
「ふくらはぎは適当にもめばいいんじゃないの?」
冬子が答える。
「適当でもいいんだけど、骨のきわと芯の部分、それと腱を意識したほうがいいね。詰まっていたら、もんだ後で動きだすんだ」
「動きだすって、血液が?」
「たぶんね。歩いていると動きだすのがわかるよ」
信じられないという顔をする冬子。
「しのぶちゃん。次、ふくらはぎをもむよ。パンツが見えないように、ちゃんと隠してね!」
しのぶは膝下までのスカートをはいていた。
「はい。バスタオルをしっかり上にかけときます」
「若い娘のふくらはぎは柔らかいから揉むのが楽だ」
ふくらはぎの筋肉を揉んで足の骨にそって軽く血管とツボも押す。
「そこは、ちょっと痛いです」
身をよじってバスタオルが落ちてパンツが見えている。
「白だね」
「えっ、なんです?」
「いゃ、なんでもない」
足の施術が終わった。
「足、軽い! いいですね、たまに足を揉んでもらうの。私は初めてだけど」
「たまにやるといいよ。何回かやると自分でできるから。次、背中をやるよ。施術台にうつぶせになってね」
❃
☆冬子とおじいさん。
「おじいさん、目に良い食べ物ってあるの?」
「ああ、いっぱいあるだろうな。ありすぎてどれがいいのかわからんくらいだ。目の症状にもよるが、わしは血液サラサラで玉ねぎとアマニ油を使っていた」
「そういえば、納豆にアマニ油かけてたね」
「あと、赤い魚がいいみたいだな。鮭とかカニ、エビなんかだなアスタキサンチンだったかな? 魚じゃないけど赤いニンジンもいいようだ」
「サプリメントもあるね」
「食べ物も大切だが、目の機能を保つには、やはり首を柔らかくすることだろうな」
「やっぱりそうか」
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