第15話「しのぶ」・疲れ目。
魚は目が横に付いている。
動物も広い範囲を見てないと襲われて食べられてしまう。
机の上だけの仕事は目にとっては辛いんじゃないかな?
祖父、仁蔵は、そう言っていました。
❃
じんぞう堂の今日のお客様は、冬子の高校の同級生、しのぶである。
「冬子、元気?」
「久しぶり、しのぶ、元気だった」
「元気だけど、最近、目がダメなの……」
「目がどうしたの? 病気?」
久しぶりに合う同級生のしのぶ、冬子は嬉しそうだ。
「病気とも言えないんだけど、疲れ目がひどいの、もう目を開けているのも嫌なくらい」
「どういうこと、病院には行った?」
「病院には行ったんだけど、目には異状はないって」
「目薬はもらったんでしょう」
「うん、目薬はもらった。すこしは良くなるんだけど……あなた整体師じゃない、何か治し方しらない?」
藁にもすがる思いで冬子にたずねるしのぶ。
疲れ目か……お父さんが昔なったって言ってたな~っ。治し方も聞いたけど、思い出せない……しのぶの目はなんとかしてやりたいしな~っ。
電話してみるか……
「目に詳しい人に電話してみるね」
「詳しいって、お医者さんには見てもらったわよ」
「たぶん、病気じゃない不調はこっちのほうが詳しいのよ。もしもし、お父さん、あたし。疲れ目の治し方知ってるでしょう? うん、今、暇なんでしょ、来てよ。パチンコ代? わかった3,000円あげるから」
「今来るから」
「お父さんなの?」
「うん、お父さん、昔、疲れ目で苦しんだらしくて詳しいのよ。前に会ったことあったっけ?」
「高校の時、一緒に運命ゲームやったよ。ボードゲームのやつ」
「あー、やったね。お父さんボードゲーム好きだから」
しばらくして冬子の父親がやってきた。
「しのぶちゃん、久しぶりだね」
「ご無沙汰してます」
「疲れ目だって? あれ、つらいんだよ。おじさん、昔やったから知ってるよ」
「視力はあるんですけど、目を開けてるのがつらいんです」
「たぶん、目を動かす筋肉のコリかピントを合わせる筋肉のコリだと思うよ」
「筋肉のコリなんですか」
「たぶんね。同じ所を何時間も見続けなかった?」
「はい、今、薬剤師の仕事をしているんですが、最近は1日中パソコンで薬の種類を整理しているんです」
「しのぶちゃん、薬剤師になったのか凄いね。藤の花とかも使うの?」
「藤の花? それは使いませんけど……鬼のような上司もいませんし」
「そうか、そうだろうね。俺も会社で図面を書いていた時があって、その時は、朝から晩まで書いて、さらに夜中も会社で書いていたんだ。しかも残業代は出なくて、夜食もなかった」
(あの頃はひどかった……会社が傾いて給料が出ないのが半年も続いて、嫁に食わせてもらってたもんな~っ。あれから嫁に頭が上がらなくなった……)
「なんの話だっけ? 目か!? そうだ目だね。目って自然な状態は真っ直ぐ前じゃなく、少し外側を向くんだよ」
「視線ですか?」
「そう、個人差はあるけど全体を見ていないとケモノに襲われるからね」
「ケモノは近くにはいないですけど……」
「人間の体は、まだ最近のハイテクには適応していないと思うよ。パソコンの画面や机の上の一点を1日中見ているのは目にとってはすごい負担になるんだ」
「目を動かす筋肉ですね」
「そうそう、自然な状態で少し外向きだから、画面のように中央を見るには目の筋肉を使って中央に視点を合わせるんだけど、長時間だと目の筋肉も疲れるんだ。それが毎日続けば目もストライキを起こすよ」
「そうなんです。最近、目を開けているのが辛くて」
「目を休ませないと」
「どうすればいいんでしょう?」
「簡単なのは目を洗うんだ」
「あ~っ、売ってますね目を洗うやつ」
「あれは使ったことないけど、洗面器にお湯をコップ2~3杯分くらい入れて少し待つんだ。洗面器の殺菌を兼ねて1分くらいしてから水道の水をいれて室温より少し低い温度にして、顔を付けてまばたきするだけ。プールの後にやらなかったかな?」
「やったっけ?」
しのぶが冬子を見る。
「しのぶは、やってなかったんじゃない? やってた人もいたけどね」
冬子がこたえる。
「蛇口から直接、目に当ててたんじゃなかったっけ?」
「そうだね。洗面器もあったけどね」
「蛇口から直接目に水を当てるのは危ないな。冬子は知ってるだろ、目の洗い方くらい」
父親が言う。
「あたしは知ってるわよ!」
当然という顔で父親を見る冬子。
「そうだろうな、それで、目を洗うと目の疲れが取れるんだけど、白目が赤くなっちゃうんだよな~ 寝る前なら別にいいんだけど。俺は風呂の時、湯船に入りながら、ひまなんで目を洗うんだけど、できればシャンプーの後に洗いたいんだ。いつも、うっかり前後するけどね。シャンプーをすると、シャンプーもけっこう目に入ってると思うぞ。それで、目を洗った後に目薬をさすんだ」
「目は足ツボが効くんでしょう?」
冬子が言う。
「あ~効く。俺は眼精疲労で困って、足ツボをやってから回復してきたんだ」
「お父さん足ツボやってよ。あたしもたまに、お父さんのやり方を見てみたい」
「あぁ、いいぞ。若い娘の足は柔らかいから簡単だ。男の足は、裸足で歩き回ってガチガチの奴がいるんだ。デカくて硬いし、歳をとると足首も動かないのもいるんだ」
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