第8話「ぴんぴんコロリ」・がん。

 ニャ〜 (冬子……)

 ニャ〜 (冬子……)


「……ん?」

 あずきちゃん? ごはん欲しいの……

 

 寝ている冬子とうこを猫のあずきが前足で起こそうとしている。

「冬子……わしじゃ……」


「おじいさん? どうしたの? こんな夜中に」

「今夜は体調がハッキリとしてるんで冬子に秘伝を教えてやろうと思ってな」

 祖父、仁蔵は亡くなっているが、幽体となり猫のあずきちゃんの中にいて、たまに出てくる。


「えっ、秘伝教えてくれるの?」

「あ〜っ、何でもいいぞ」

「おじいさんが、よくやっていたブイって技あったじゃない、あれ教えてよ」


「V(ブイ)か……あれは簡単そうで実は難しいぞ」

「いいよ。教えて」


「そうだなー、あの技自体は昔からあるんだ。ヨガにも似たようなものがあるんだが、こう、お腹を無限のマークに横に8の字に動かして胃腸を整えるやつのVバージョンだ。縦に8の字もあって、和式のトイレではよく使っていたが、洋式トイレでは使いづらいな」

「いろいろあるのね」


「わし、肺ガンじゃったろう。医者に余命半年って言われたんだぞ。ショックだったな……あと半年で死んでしまうと思ったら、高齢者でも悲しいもんだ」

「やっぱり悲しかったの? 平気な顔してタバコも止めないから、平気なのかと思ってた……」


「平気なわけないだろ、できれば死にたくないさ。そこで、わしは考えた。高齢だから治らなくても悪化しない方法はないかと」

「それがブイ?」

「そうじゃ。がんは健康な人にもできるが、毎日リンパ球が退治してるんだ」

「キラーTとかNKとか?」


「そうだ。わしは免疫の衰えをなんとかできないかと考えた」

「体を温めて免疫力を上げるとか」

「そう。体も温めた」


「リンパ節ってあるだろう。あれをどう思う?」

「リンパ液とかリンパ球があるのかな?」


「わしは加齢でリンパの流れが悪くなっていると思うんじゃ。そのポイントが左の鎖骨と『乳びにゅうびそう』じゃ」


「乳び槽? それは知らない」

「解剖図に書いてあるぞ。リンパ節の最大のもので、へその上あたりの背骨のそばにあるじゃ」


「背骨のそばだと、お腹をもむ技でも難しいかな」

「そうなんだ。腹をもむ技で乳び槽まで届くにはヨガみたいに腹をペタンコにしないと届かない。普通の腹もみでも、他の免疫には効くけどな。ほら、笑うと免疫力が上がるって言うだろ、笑いヨガとか」

「うん、テレビでよくやってる」


「あれは、笑うと腹が揺れるから免疫があがるのではないかと思うんじゃ」

「揺らしてるだけ?」

「たぶん、腹をもんでも免疫は上がると思が、笑うと腹全体が揺れる。ブイは意識と呼吸を使って乳び槽を狙うのじゃ。わかるかな? わかんね〜だろうな〜 イェイ」

 仁蔵が指でVサインを出している。


「昔のギャグ? 乳び槽がよくわからないわ」

「そうだろう。乳び槽は痛みもないし、やっても効いているのかいないのかもわからないから難しいのじゃ。よく膵臓すいぞうがんは最悪だと言うが、悪くなっても痛みがないので痛み出したらあっという間に亡くなる。乳び槽も膵臓の裏にあって詰まっても痛みを出さないと思うんじゃ」


「前にお客様の左の鎖骨に触ったら『痛い』って怒られたけど、あれはリンパが詰まっていたの?」

「たぶん、そうだろう。鎖骨は骨が出てるから冷えやすいから骨の下の血管やリンパ管が冷えて詰まるんじゃろう。冬子は風呂上がりにちゃんと鎖骨をさすっているか?」


「うん、ちゃんとやってる、ドライヤーで髪を乾かす時に鎖骨にもあててさすってる。鎖骨を触って痛がる人はがんになりやすいってこと?」


「たぶん……がんだけじゃなく免疫の病気になる確率は高くなるじゃろうな」

「流れを良くしてやりたいけど、痛みで怒りだすからな~っ。鎖骨は触られたくない人が多いみたい」

「しょうがないんじゃ。そういう人は仙縁がないと思って無理にしないほうがいい」


「そうね、無理にやってもダメだし、しょうがないね……」

「わしらは医者じゃないんだから、仙縁のない人には技を教える必要もないじゃろう」


「そうだね、鎖骨とブイをマスターすればがんにはならないかな?」


「それはわからないな、ブイは観念行かんねんぎょうに近いから人によって効果がばらつくだろうな、予防としてなら教えてもいいだろうが、治るとは言えないな……」

「難しそうだから、みんなやらないかな? わかりにくいしね」


「そろそろ消えそうじゃ、冬子、蕎麦の御供え頼むぞ。ダシの匂いを嗅ぎたいんじゃ。はまこうのダシは旨いからな」

「うん、わかった」

 仁蔵はあずきちゃんの中に入って行った。


 これが、ワタノベ氏が来る数日前で、ちょうど冬子はがん対策にブイを研究していた。


 ワタノベ氏を施術した後、がんを気にしているワタノベ氏に冬子はブイを教えようとしている。 


「ワタノベさん、これは、おじいさんが研究していたがん予防の技なんですけど、やってみませんか?」

「あ〜っ、やる。仁蔵さん最後まで元気だったもんな〜っ、末期ガンにはみえなかったよ」


「本当に……がんだったのかな? おじいさんは余命半年って言われてから病院に行かなかったから、その後の病状はわからないのよ」


「ひょっとして、がんを治したんじゃないのか? タバコもずっと吸ってたし……」


「どうなんでしょうね。余命宣言されても、それから10年平気で暮らしましたね」


「ぴんぴんコロリか、理想だね」


 ❃


【縦8・横8の導引】

 お腹をへこませて縦に8の字に回したり、横に8の字に回す技。


 姿勢は、あぐらか正座、または和式トイレでしゃがんでいる姿勢。


 呼吸を使い、お腹をへこませて8の字にお腹を動かします。

 手をそえて観念で8の字に回してもいいです。

 免疫力アップ、便秘解消、内臓の調整などに良いでしょう。


※内臓に病気の有る人やお腹の手術をした人は危険ですのでひかえてください。



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