第2話 中学3年の春

 中学3年の春、クラス替えがあり、新たな友達作りが始まる。友達は少数精鋭がベストというのが僕の信条なので、いたずらにあせったりはしない。コミュ力不足の言い訳かもしれないが、これまでだってなんとか、気の合う友人をクラスで数人は見つけてきた。


 休み時間に本を読んでいると、読書好きなの?なんて声をかけられることがある。そこからは僕お得意の、鬼の読書談義。趣味が合うというのは、友達探しで最も重要なポイントだと言えるだろう。経験上、読書好きで友達になれなかったやつはいない。


 しかし今年のクラスは読書好きが少ないらしい。本を読む習慣がある男子はクラスで3人しかいなくて、自然と3人グループが出来上がった。やはり行き着く先は少数精鋭なんだな。



 2ヶ月ほど経って、今のクラスにもなれてきた頃、クラスの端っこで本を読んでいる人がいた。本の背表紙に自然と目がいって、ちょっと目を凝らしてみると、僕も最近読んだばかりの本だった。

 あの本は結構面白かった本だ、話がしたい。読んでいる本人の顔に視線を向ける。


 しかしその顔を見るなり、僕は話しかけることをすぐに諦めた。


 本を読んでいるのは女子だった。


 女子に話しかけられるわけがないだろう。僕にそんな度胸はない。たしかあの人は今年初めて同じクラスになった佐藤さん。中学に入ってからまともに女子と喋った記憶はないから、当然佐藤さんとも話したことはない。


 黒縁眼鏡をかけた地味系女子の佐藤さん。地味系ではあるが、眼鏡を外すと美人なような気がしなくもない。

 窓から風がふいて、佐藤さんの顔に長い髪がかかる。佐藤さんはその髪をうっとうしそうに、そっと耳にかけた。僕はなぜかその仕草にドキッとしてしまう。

 恋とか好きとかはよくわからないが、その日から佐藤さんは僕の中で他の女子とはちょっと違う女子になった。


 次の日もその次の日も、休み時間になるたび僕は、佐藤さんが読む本が気になって仕方がなかった。佐藤さんの席を横切る際に、横目でチラッと、本の背表紙を確認する。見ているのが気づかれないように、なるべく一瞬で見極める。

 そんなことを1ヶ月ほど続けていると、佐藤さんの本の趣味がわかってきた。驚くべきことに、佐藤さんの本の趣味は僕とかなり近かった。少数精鋭グループの友人2人とも結構趣味が合うと思っていたが、それ以上かもしれない。

 佐藤さんとも鬼の読書談義をしてみたいが、やはり僕なんかが女子に話しかける勇気を持てるはずはなかった。

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