僕の前では眼鏡をかけない眼鏡屋さん
やすだ かんじろう
第1話 流血事故
気づくと僕は床でうずくまっていた。鼻が熱を帯びていて、ズキズキと痛む。僕の鼻は無事だろうか。確かめるように右手で触ってみると、ぬめっとした嫌な感触がする。右手に視線を移すと、指先が真っ赤に染まっていた。
頭がぼーっとする。どうしてこんなことになったんだっけ。たしか名前を呼ばれて振り返ったら、顔面に何かがぶつかって…
「安田、大丈夫か安田」
何人かのクラスメートが僕のもとに集まってきた。そうだ、体育でバスケットボールをしていたんだ。よそ見しているときにパスがきて、振り返った瞬間にボールが顔面にあたったのだろう。それで鼻血を出して倒れていると。受験を控えた高校3年の秋だってのに、なんてこった。
視線を少し前に移すと、眼鏡がちょうど半分に、真ん中から真っ二つに折れていた。レンズにもヒビが入っている。眼鏡って、こんなに綺麗に分裂するのか。もはや眼鏡というより、ドラゴンボールのスカウターみたいになっている。
この手の事故はそこら中の高校で頻発しているだろう。体育のバスケは運動神経が悪い人間にとって、常に大きなリスクと隣り合わせだ。僕はいつもこのリスクに耐えきれず、運動神経悪いエピソード集に新たな一章を加え続ける。今日の出来事もエピソード集の新たな一章ではあるものの、不幸なことに三章くらい前にすでに同じようなエピソードが記載済みだった。
鼻血をぼたぼたと垂らす僕を心配してくれている友人もいるが、遠くでクスクスと笑っている陽キャたちの声も聞こえる。
バスケットボールは嫌いだ。別に今嫌いになったわけじゃない。話は3年前、中学のときにまで遡る。中3の夏、僕はバスケを明確に嫌いになったんだ。
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