第722話 年末ですが何か?

 リューは領主として、年末ギリギリまで仕事を行っていた。


 その代わり、年末年始は予め休みを貰っていた者達が年末年始、街長邸の管理や街でのトラブルに対応する任に当たる。


 ちなみに、ノーマンとその妹ココは、ランドマーク本家に『次元回廊』を使用して先に送っていた。


 妹のハンナがココと遊びたいとリューにお願いしていたので、ノーマンと一緒に休みを早くとらせた形である。


 イエラ・フォレスも先に行っているはずだから、本家は今頃、賑やかなことだろう。


 護衛役のスードとイバルにラーシュは、それぞれの職場でギリギリまで仕事だ。


 本人達が希望していることもあるが、スードはリューが仕事である限り、護衛の任に当たるつもりでいたし、イバルはランスキーの下で不穏な動きを見せる周辺情勢の為、ただ忙しいというだけではあったが。


 そして、ミナトミュラー商会の従業員であるラーシュもノストラの下で仕事を覚えることに一生懸命であったから、リューと同じだけ働くつもりのようであった。


「みんな、休んでいいって言っているのに、働くなぁ」


 リューがみんなのスケジュールを聞いて呆れる。


「そういうリューが一番働いているじゃない。それを見てみんなも働いているのだから、リューが範を示して休むべきよ?」


 リーンが中々鋭いことを指摘した。


「うっ……。そうなるのね……? それじゃあ、今年は今日一杯で仕事納めにしようか! ──マーセナルさん、みんなにもそう伝えてください」


 リューは執務室で書類の山から顔を上げて執事のマーセナルに言い渡す。


「わかりました。若様。皆のものにもそう伝えておきます」


 執事のマーセナルはリューが休んでくれるとわかって、安堵した。


 休むといって休む気配が全くなかったからだ。


 マーセナルは、リューの気が変わらないうちにと助手のタンクに伝え、各方面に伝達させるのであった。



「それではみんな、今年もお疲れ様でした。昨年同様、今年もみんな頑張ってくれたお陰で仕事が滞りなく行われたと感謝しています。年末年始は家族や友人達とゆっくり過ごしてください。──それでは、今年も臨時ボーナスを配ります」


 リューはみんなを集めた広間でそう言うと、メイドのアーサと執事助手のタンクに沢山の封筒がうず高く積まれたお盆を持ってこさせる。


 昨年も頑張ってくれている職員達に感謝を込めて上げたのであったが、今年も配ることにしたのだ。


 昨年も貰っている職員達は素直に喜んでいたのだが、今年から務めている職員達はそれを知らないので、


「え? どういうこと?」


「臨時ボーナス?」


「年末年始、休みが貰えるのに?」


 と口々に驚きを口にする。


「それでは名前を呼ぶから、呼ばれたら取りに来て」


 リューがそう言うと、一人一人の名前を呼んで手渡ししていくのであった。


 初めての職員達は、リューから感謝の言葉と共に、渡される臨時ボーナスに感動している。


 昨年貰った者達もそれは同様で、改めてリューの為に来年も頑張ると誓っていた。


「──貰っていない人はいない? 大丈夫そうだね。──それでは来年、よろしくお願いします。良い年を迎えてね」


 リューはそう言うと、職員達に挨拶して、街長邸をリーンとアーサと共にあとにする。


 職員達は整列してそのリューを見送るのであった。



「今年もみんな喜んでくれていたね」


 リューは馬車の中で満足そうにリーンに言う。


「ふふふっ、そうね。そう言えば、商会や竜星組本部のみんなにも配ったの?」


「うん、そっちは幹部のみんなに任せているよ。さすがに僕一人でやると時間がかかるからね」


 馬車内でそう話していると、マイスタのミナトミュラー商会本部に到着する。


 本部前には、ラーシュが旅行用の鞄を手に待機していた。


 そう、ランドマーク本領に帰省するからその前に、ラーシュとイバルを拾うことにしていたのだ。


「ラーシュ、お疲れ様! さあ、乗って乗って!」


 リューは鞄をマジック収納で回収すると、ラーシュを馬車に乗せる。


「本当に、ボクも一緒に行っていいのかな?」


 最近では私言葉になっていたラーシュであったが、仕事納めで気が抜けたのかボク言葉が口から洩れていた。


「もちろん! 本当なら僕が西部地方の実家まで送れると良いのだけどね。今年はうちで我慢してもらえるかい?」


 リューは当然だが、西部地方に行ったことがないので『次元回廊』で送ることはできないから謝る。


「そんな、とんでもないよ。招待してもらえるだけでも嬉しいくらいだから……」


 ラーシュは顔を赤らめて嬉しそうにした。


「なら良かったよ。あとはイバル君だけど……。城門傍で待っているんだよね?」


 マイスタの街の南門のところで、イバルが鞄を傍において立っている。


 そのうしろには数人の若者が、顔を腫らして一緒に立っていた。


「あれは?」


 リューはそれに気づいて首を傾げる。


 リュー達の馬車はイバルの前で停車した。


「イバル君、お疲れ様。──ところでそのうしろで顔を腫らしている若者達は?」


「ここに来る途中、こいつらが俺からお金を脅し取ろうとしたから、教育しておいた」


 イバルがそう言って振り返ると、若者達は顔を腫らしたままの状態で、自分達をボコボコにしたイバルと話す相手が領主のリューとわかって驚いている。


「君達、マイスタの街うちの住人だよね? よりにもよって僕の直属の部下であるイバル君の顔を知らずに金銭を脅し取ろうとか自殺行為だよ。──今回は被害が出ていないし、大目に見るけど、顔は覚えたから、次は無いよ? ……言っている意味、わかるよね?」


 リューが若者達をじろりと睨んで、そう警告する。


「まさか若様の部下の方とは知らなかったんです! 本当にすみませんでした! ──わ、若様。……俺達を部下にしてもらえませんか!?」


 若者集団のリーダー格なのか体格の良い子が、前に出るとそう申し出てきた。


「部下に? ──舐めたことを言う前に、これまでのことを反省してまずは身を正せ。話はそれからだよ。その上で、イバル君に認められた時、下っ端に加えるか考えてあげる」


 リューは厳しい口調で若者達を𠮟りつけると、それだけにとどまらず、更生の機会を与える。


 マイスタの住人である以上、それくらいはいいだろう。


 しかし、この機会をものにできないようであったら、その時はその時だ。


 自分達の未来は自分次第である。


 若者達が今日をきっかけに反省して来年変わってくれたらと考えるリューであった。


 仕事明けのイバルを拾ったリューの馬車は、そんな整列した若者達に見送られながら、王都の自宅であるランドマークビルへと戻り、そこから『次元回廊』を使用してランドマーク本領に帰郷するのであった。

─────────────────────────────────────

         あとがき


ここまで読んで頂きありがとうございます。


先週の新作1本目に引き続き、今週金曜日から新作2本目の投稿が始まっております。


こちらは作者の作風とはちょっと毛色が違うものとなっておりますが、読んで頂けたら幸いです。


また、作品のフォロー、レビュー★、いいね♥、コメントなど頂けましたら作者が間違いなく喜びますので、よろしくお願い致します<(*_ _)>


「異世界童話禁忌目次録(副題略)」

https://kakuyomu.jp/works/16818093084547438520


あ、ついでになりますが、この「裏稼業転生(副題略)」も、今後ともよろしくお願い致します<(*_ _)>

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