第721話 年末の予定ですが何か?

 リュー達は無事、終業式を経て年末行事を前に休みに入ることとなった。


 就職活動中である四年生以外の学生にとっては、年末年始をゆっくり過ごせる期間であるが、リューにとって年末年始は色々とやることは多い。


 特に領主としての仕事はリューの担当であるから、商会や竜星組のように幹部達に丸投げも出来ないので、執事のマーセナルとその助手のタンク、メイド長アーサやその部下メイド・ダブラ達と共に、街長邸で忙しく動き回っていた。


 前世では十二月を師走というけども、今年は文字通りそれくらい忙しい!


 リューはそう内心で思いながら、執務室で書類整理に追われている。


 リーンもリューのサインを完璧に真似して書類の処理に当たっていた。


 もちろん、これはバレたらアウトなのだが、バレなきゃ犯罪じゃないということで、執事のマーセナルも目を瞑っている。


「年越しは、例年通りランドマーク本家でやるけど、マイスタの新年イベントは、ミナトミュラー家総動員で準備するから、その為の書類は全部大丈夫だよね? 王都にも魔法花火使用の申請書は出したはずだし……」


 リューは書類の山から、それらを探して確認する。


「リュー。年越しは昨年同様、本家にイバル達も連れて行くの?」


 リーンが、ふと思い出したように、確認した。


「あ、そうだった……。イバル君達はもちろんのこと、ラーシュやノーマン君、ココちゃんも招待するつもりだったんだ! ……スード君は家族と過ごすらしいから、大丈夫みたいだけどね」


 リーンの指摘で一家の若者達のことを思い出し、次は、招待状を一枚一枚書いていく。


 本当は、ミナトミュラー家所属のランスキー達幹部や職人達も招待したいところだが、さすがにみんなはマイスタの街に家族がおり、それぞれで過ごすから無理強いはできない。


 まあ、誘えば来てしまうのが、マイスタの街の身内の繫がりではあるのだが……。


 その中で、イバルは現在の実家であるコートナイン家に気を遣っているから、昨年同様、家族としてランドマーク家で過ごすだろう。


 ラーシュは実家のある西部地方に帰ってもいいのだが、遠いこともあり、わざわざ戻ると往復だけで日数が過ぎてゆっくりするどころではないから、帰らないと断言しており、これも誘って大丈夫のはずだ。


 そして、ノーマンと妹のココは、元々孤児で二人で過ごす予定だと確認しているから本家に呼ぶつもりである。


「他に本家に来たい人、うちにいたかな?」


 リューが考え込んでそう漏らす。


「ボクも行きたいよ、若様!」


 隣でお茶を入れていたメイドのアーサが、不意にそう申し出た。


「そうなの? まあ、今年はアーサもかなり頑張ってくれたから大歓迎だけどね」


 リューは意外な参加希望に軽く驚くと答える。


 アーサは両親がすでに他界しており、それで実家の仕立屋を継いでいたから、今では天涯孤独であるのは確かだ。


 まあ、マイスタの街の住民が大きな括りでの家族ではあるのだが、アーサはその中でも少し浮いた存在ではあったので、うちに呼ぶ方が良いのかもしれない。


「やったー! 若様の家族はみんな強いからなぁ、楽しみだよ」


 アーサが不穏なことを口にする。


「ちょっと待って、アーサ。いつものノリで余計なことをしたら出禁にするからね?」


 リューがじっとりした視線をアーサに向けた。


「も、もちろんだよ若様! ボクだっていつまでもそんな癖を引きずったりしないよ!? ──(残念……)」


 アーサはリューの視線が痛いので、慌てていつもの癖をやらないことを誓う。


 いつもの癖とは、元殺し屋の職業病で、強い相手を見るとどうしても殺せる距離を測ってしまうのだ。


 その為、その気配をリューなどは感じて、仕事中に気になることが度々あり、普段からよく注意をしている。


 それを家族にまでやられると、せっかくの一家団欒が台無しになるから、その辺はリューもしっかり注意するのであった。



「リュー、私も忘れていたけど、イエラ・フォレスさんも招待しないと駄目よ?」


 リーンが不意にそんなことを口にする。


「あ! そうだった! 本当に忘れてたよ……。でも、終業式は終わったから連絡の取りようがないんだけど、どうしよう!?」


 リューは大事なことを忘れていたとばかりに、慌てだした。


 イエラ・フォレスは黄龍フォレスの分身体であるから、学園が休みの間は本人も暇なはずである。


「……イエラ・フォレスさん、聞いてる? ……リューが年末を一緒に過ごしたいから実家に招待したいんだって」


 リーンが突然天井を見上げるようにして、空中に話しかけ始めた。


「……何やってんの、リーン?」


 リューはリーンらしからぬ思春期の若者にありそうな意味不明な行動に、心配して声をかける。


「ちょっと、私が頭がおかしくなったみたいな反応しないでよね!? イエラ・フォレスさんなら、どこかでリューのことを観察しているのかなと思って」


 事実だったらちょっと怖いことを、可能性がありそうなこととしてリーンが答えた。


「はははっ。さすがにそれはないでしょ。……ないよね? ──イエラ・フォレスさん?」


 リューはリーンの言葉に一度は笑って答えたが、あり得そうな気もしてきて思わず、天井に向かって聞き返す。


 コンコン。


 すると、執務室の外であるバルコニーに続くガラス扉からノックする音が聞こえてきた。


 そこには、イエラ・フォレスが立っている。


「なんじゃ。我を呼んだか?」


 当然のようにイエラ・フォレスがガラス扉を開けて入って来た。


 初めて遭遇するメイドのアーサは、無言でリューとの間に入ると、いつの間にかナイフを構えている。


「うわ!? イエラさん本当に来たの!? ──それとアーサ、待って! この人は本家のみならず、うちの守護者でもあるイエラ・フォレスさんだよ!」


 リューは慌ててアーサの肩を掴んで止めた。


 その肩はイエラの恐ろしさを本能で感じたのか少し震えている。


 どうやら、アーサも勝てない相手ということはわかっていても、リューを守る為に体を張ってくれたようだ。


「そうなのかい……? ボクはここで死ぬのだと覚悟したよ……」


 アーサはホッとしたようにナイフをスカートの下に戻すのであった。


「それで、何の用じゃ? 我を呼んだであろう?」


 イエラ・フォレスはアーサのことは眼中にないのか、気にすることなくリューに用件を聞く。


「なんで僕の声が聞こえているのやら……。まあ、それはまた、あとで聞くとして……。──イエラ・フォレスさん、年末、お暇なら実家で僕の家族と一緒に過ごさないですか?」


 リューは用件を先に聞くことにした。


「暇は暇じゃが……。そこでは美味しい食べ物は出るのか?」


 どうやらリューについてイエラ・フォレスは、食べ物で判定することにしているようだ。


「もちろん、出ますよ。それに、イエラ・フォレスさんは我が家の守護者ですからね。大歓迎します!」


 リューは誘えそうだとわかり、望むものがあるなら提供する意思を示す。


「うむ、よいじゃろう。──それに安心せよ。この体なら、沢山食べなくても満足するからな。かっかっかぁ!」


 イエラ・フォレスは美味しいものが食べられるとわかって、満足そうに応じるのであった。

─────────────────────────────────────

         あとがき


ここまで読んで頂きありがとうございます。


先週の新作1本目に引き続き、今週金曜日から新作2本目の投稿が始まっております。


こちらは作者の作風とはちょっと毛色が違うものとなっておりますが、読んで頂けたら幸いです。


また、作品のフォロー、レビュー★、いいね♥、コメントなど頂けましたら作者が間違いなく喜びますので、よろしくお願い致します<(*_ _)>


「異世界童話禁忌目次録(副題略)」

https://kakuyomu.jp/works/16818093084547438520


あ、ついでになりますが、この「裏稼業転生(副題略)」も、今後ともよろしくお願い致します<(*_ _)>

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