第713話 格差ですが何か?
一週間程かかる期末テストは、無事終了した。
そこでテスト勉強に励んで手応えを感じている者、いまいちだった者、全く勉強せずに臨んだ者など生徒達の想いも人それぞれだっただろうが、ほとんどの者は、来年に向けての大事な時期のものであったから、その結果を早く知りたいというのが本音であった。
特に、リズ王女クラスの面々は、成績上位を占める優秀な生徒がひしめいているから、テスト終了後はリューやリーンのもとに行って答えを聞いて喜んだり、悲しんだりしている。
「──マジかよ! あの問題は絶対、二番が正解だと思ってたのに!」
ランスが、リューとリーンに答えを確認して悲鳴を上げた。
「……あの問題難しかったですよね。私達は勉強会で事前に解いていたのでわかりましたけど」
ラーシュがランスに同情するように、だが、自分は解けたことを告げる。
「勉強会? 俺、そんな話聞いてないぞ!?」
ランスが、初耳とばかりにラーシュに聞き返す。
「そりゃそうだろ。俺達はリューの身内として集まっての勉強会だったからな。ランスだけでなく、リズやシズにナジンも参加してないぞ」
イバルがランスに問い詰められるラーシュを庇うように答えた。
「そういう事かよ。まあ、俺は家庭教師つけられているから、先生とサシで勉強してたんだけどな。でも、あの問題についてはやらなかったなぁ……」
ランスが悔しそうに答える。
「……ランス君、安心して。私もあの問題間違ってたから」
シズは親指を立てると、ランスと同士であることをアピールした。
「間違いで意気投合してどうするんだよ」
そこへシズの幼馴染であるナジンがシズの頭にチョップを落としてツッコミを入れる。
「……痛いよ、ナジン君! ──でもそれは、ナジン君も一緒でしょ?」
「うっ……! 確かに自分も間違っていたけどさ……。リズはどうだったんだ?」
ナジンは矛先が自分に向いたので慌ててリズ王女に話を振る。
「私は、その問題は後回しにして、最後にゆっくり解いたわ。でも、私は王宮の学者先生から教えてもらっていたからなんとか時間をかけて解けたけど、普通は解くの難しいかもしれないわね……」
リズ王女も、厄介な問題であったことを指摘した。
「なんだよ、リズでもギリギリ解ける問題だったのかよ! そんな問題、俺なんかだと無理だよ!」
ランスが不満を漏らす。
「あれは多分、僕達の点数調整の為に出された難問だった気がするなぁ」
リューがそう言うと、他のテストの内容も思い出す。
「私もそう思うわ。他のテストの内容も所々難しい問題があったもの。魔法の実技なんて採点基準がかなり厳しくなっていると感じたわ」
リーンがリューの指摘に同調したうえで、他のテスト内容についても言及した。
「そうなのですか? 自分は魔法苦手なので、点数が気になります……」
静かにしていたリューの護衛役であるスードが、思わず口を出す。
「俺も一緒さ。魔力操作で要求される基準がかなり厳しかったから、焦ったぜ。あれはリュー達のせいだな」
ランスはそう言うと、リューのせいにする。
「なんで、僕達のせいなのさ!」
思わぬとばっちりに、リューも声を上げた。
「学期の初めにあった魔術大会で、リューやリーン、イバルに隣クラスのノーマンなんかが、複数同時詠唱からの併合魔法とか使ってたからさ。あんなの魔力操作を完璧にこなさないと普通使えないぜ? あれ見せられたら先生達も採点基準変わるって!」
ランスが指摘するのも仕方がない。
これは事実であったからだ。
ただでさえ、ノーエランド王国からの優秀な留学生であるエマ王女一行が入ってきたことで、学園に求められるレベルが上がったうえに、大会で想像を遥かに超える生徒が次々に現れれば、教師陣もそれに合わせた問題作りをしないと生徒の実力を伸ばす機会を奪うことになりかねない。
それがリューとリーン、リズの三人だけなら、まだ、その基準も上げずに様子を見られていたが、他の生徒の実力も伸びているのを見せられると、自ずと上げるしかないのであった。
「一年生時に比べると、みんな実力を大きく伸ばしているからね。はははっ」
リューは笑って誤魔化す。
確かに指摘通り、現在の二年生の実力は、王立学園では過去例を見ない程、高い水準にある者が多い。
その原因がリューとリーンにあるであろうことも、教師陣は理解していた。
隅っこグループが、一人残らず成績上位を占めていれば当然ではあるが……。
「──それも、リュー達に教えてもらう機会がある自分達はまだいいが、そうでない普通クラスの者達にとってはたまったものじゃないだろうな」
ナジンが、苦笑してそう指摘した。
きっと、普通クラスの生徒達によっては、平均点数が下がったことで親に怒られる者もいるかもしれない。
それも全ては採点基準を上げてしまったリュー達に問題があるのであった。
「でも、学んで成長している結果の話だからなぁ。……そうだ。三学期は望む人を集めて塾みたいなものを開いたら、喜ばれるかもしれないね」
リューがまた、突拍子もないことを告げる。
「「「塾?」」」
これには、みんなも聞き返す。
そもそも、この世界で塾という発想がない。
勉強するのは学校であり、個人的に学ぶのは家庭教師と相場が決まっているからだ。
「うん、塾。──三学期って、四年生の就職活動時期でテストは基本、小テストだけじゃない? そしてパーティー時期だから勉強も少し後回しにされるでしょ? その期間にみんなで勉強して進級に備える為の塾だよ」
リューは、前世では通ったこともない塾がどういうものか理解していなかったが、何となくのイメージで提案する。
「面白そうだが、リューがそれを提案すると参加したい生徒は多いかもしれないぞ?」
イバルが、この上司の突飛な提案の難点を指摘した。
「そうかな? パーティー時期だから勉強よりも遊びに力を入れる人が多そうだけど?」
リューは何となくの想像で答える。
「リューとリーンは一括りだからな。自ずとリーンファンが押し掛けてくるぞ。それなら、くじ引きによって参加できる生徒を決めたらどうだ? もちろん、お金は取るのだろう?」
ランスが二人の普通クラスでの人気を指摘しつつ、参加者を選ぶ方法を提案した。
「それいいかも。あとは、金銭的に厳しい人には、出世払いとかうちの商会でバイトしてもらうとかにすれば、不平等は生まれないかな」
リューはランスの意見に賛同すると、学習意欲がある者は拒まない姿勢を見せる。
それに、王立学園の生徒という優秀な人材が労働力として一時的に使えるというのは、魅力があった。
「おいおい、テストが終わってその結果の心配をしていたはずなのに、いつの間にか商売の話になっているじゃないか。その話は生徒会にとっておいた方がいいな」
ナジンが、苦笑してリュー達を注意する。
「あ、そうだった! リューが変なことを言い出すから、面白くなっちまったぜ」
ランスが呆れた様子でそう答えると、一同も笑ってそれに同意するのであった。
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