第712話 学生の務めですが何か?

 王立学園において、誰もが嫌がる行事、期末テスト期間にいよいよ入る。


 リューは、前回、黄龍フォレスこと、イエラ・フォレスに一位を取られて順位を下げていたから、領主業、商会長業、組長業は全て部下に任せ、返り咲く為に勉強に励み、リーンもその二番目は自分とばかりに一緒に勉強に必死だ。


 王女リズは父である国王の配慮で公務がかなり減ったので、その時間を利用して、さらに勉強に励んでいる。


 部下のイバル・コートナイン、ノーエランド王国からの留学生で同じく部下になった天才少年ノーマン、商会の従業員で兎人族のラーシュ、そして、護衛役のスード・バトラーもリューとリーンと共にテストに向け、一緒に勉強していた。


 もちろん、クラスでの隅っこグループの他のメンバー、ランス・ボジーン、シズ・ラソーエ、その幼馴染ナジン・マーモルンもそれぞれ家で必死に勉強していたことは言うまでもない。


 やはり、これまで順調に順位を上げていたところに、イエラ・フォレスという謎の編入生とノーエランド王国からの留学生の登場で、中間テストの順位を落とした者がほとんどで、みんな危機感を抱いていたのだ。


 イバルもそんな一人であり、優秀な上司であるリューの部下としてリーンやリズ王女の次くらいの順位は維持したいと密かに思っていたのだが、そこにイエラ・フォレス、宰相の子息であるサイムス・サイエンの二人が入ったことで無念の六位になっていたから、いつもはリューやリーンと一緒に勉強しないのに期末試験勉強会に積極的に参加していた。


 ラーシュも一時は、四位まで成績を伸ばしていたが、イバルと同じく現在は八位まで順位を下げている。


 これは、同じくリューの部下になったノーマンも混ざっていたからであるのだが、ラーシュとしては、下手をしたら今回の期末テストは十位以下に落ちる可能性もあると危機感を抱いていた。


 ラーシュは王立学園で上位の成績を取って一流商人としての箔を付けたいと考えていたから、こちらも必死だ。


 ノーマンはノーマンで、普段、エマ王女の護衛任務や、裏方仕事が多いルチーナ率いる総務隊の隊員として地味に仕事をしており、目立つ事が全くないから、リューの部下として頑張っているところを見せたいと思っていた。


 あとは妹のココに良いところを見せたいという想いもあるようだ。


 そして、護衛役のスードは、ずっとリューの傍で学んでいることで確実に成績を伸ばしているというこれまでの実績がある。


 本人は成績が伸び続けている理由がリューとリーンに学んでいるからと、公言していたので、イバル達もそれならば、上司ではあるが教えてもらおうと、連日、ランドマークビルの五階住居に集まっているのであった。


「リューこの問題、教えてもらっていいか?」


 イバルが、自分では解けない問題を恥を忍んで上司兼友人に聞く。


「これは──」


 リューが簡潔かつ、わかりやすく教える。


「リーンさん、こっちの問題の答えはこれでいいのでしょうか? ちょっと自信が無くて」


 ラーシュが小難しい顔をして、リーンに確認した。


「この問題? これであっているわよ。ただし、この計算だと、解く時間がかかるからこっちの式で試してみて、これなら、半分の時間で大丈夫なはずよ」


「そうなんですか!? ──本当だ……。こっちの方が断然解きやすい……!」


 ラーシュがリーンに教えてもらった式を使って早く計算できたので素直に驚く。


「どの問題ですか? あ、それ自分は全く解けないです!」


 そこへスードが、リーンとラーシュに一から教えてもらう。


「……リュー殿。この問題の例に挙げられている法則、間違っていませんか?」


 無口で大人しいノーマンが、解いていた問題の不備に気づいてリューに質問する。


「どれどれ? ──あ、本当だ。この問題を作った人、最新の論文で否定されていることを知らないで作ったみたいだね。──ノーマン君、それにしてもよく気づいたね!」


 リューはこの天才少年であるノーマンが問題の間違いに気づく程の知識に感心した。


 これには、イバルやラーシュ、スードも驚く。


「ノーマン、あなた、中間テストでも手を抜いていたんじゃない?」


 リーンがノーマンの頭の良さにその指摘をする。


「……本番に弱いだけです」


 ノーマンは痛いところを突かれたのか、視線を外して答えた。


「あの時は、ノーマン君もエマ王女一行に気を使っていた時期だからね。──今回の台風の目はノーマン君になりそうだ!」


 リューが、以前のラーシュが四位に入ってきた時のように、そう指摘をする。


「すでに、前回の中間テストでノーマンは七位だったからな。台風の目どころか俺は危機感しかないぞ?」


 前回六位であったイバルが、ノーマンの頭の良さに今回抜かれる可能性が高そうだとため息混じりに、リューへ危機感を漏らす。


「私も八位だったのでノーマンさんの背中を追っていますよ」


 ラーシュもすでにノーマンを強力なライバルと見ていたから、イバルに相槌を打つ。


「そうだったね。サイムス・サイエン君も五位だったから、イバル君とラーシュはその彼にも勝って順位を上げないといけないよ?」


 リューは何気にこの部下達二人に発破をかけた。


「「もちろん(だ!)(です!)」」


 イバルとラーシュは、リューの発破にそう炎を燃やした目で応じると、わからないところをリューとリーンに改めて質問するのであった。


 この後も、勉強だけでなく、ダンスや剣、魔法、礼儀作法などの実技についても一緒に練習をして大いに学習したことは言うまでもないところである。


 こうして、連日の勉強会のもと、リューとリーン、その部下達であるイバル、スード、ラーシュ、ノーマンは一心不乱に勉強に励み、期末テストを迎えることになるのであった。

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