第704話 生徒会の仕事でしたが何か?
放課後のこと。
リューとリーン、スード、王女リズ、シズとナジンは、生徒会役員としての仕事を行っていた。
生徒会長であるジョーイ・ナランデール達先輩と今年の年末行事についての話し合いである。
二学期の残り行事は、期末テストと終業式を残すのみであったが、何か各クラスの楽しいイベントが出来ないかと、二年生であるリュー達に案を求めたところ、リューがクラス単位でのプレゼント交換会はどうかという提案をしたのだ。
これには、理由があって、前世では孤児として過ごした子供時代、クリスマスを祝うことがなかったリューは、密かに親のいる同年代の子供達が羨ましかったのである。
しかし、こちらではクリスマスという行事がないので、考えたリューは、一年間共に過ごした同級生への感謝の意を込めて、プレゼントを用意し、交換会をしてはどうかと提案したのであった。
それが、生徒会長は気に入ったのでその案を受け入れ、現在最終的な詰めの話し合いをしている。
「──予算は、生活が厳しい生徒もいることを考慮し、最低ラインは、生徒会から一人一人に配る銅貨五枚(約五百円)。生徒自身がそこにいくらかお金を足してプレゼントを購入するということにする。そして、あえて上限設定はしないということでいいかな?」
ジョーイ・ナランデール生徒会長は、リューのユニークな提案が楽しみなのかウキウキ気分で役員達に確認した。
「「「賛成!」」」
役員である三年生、二年生のリュー達も最終確認に同意する。
「それじゃあ、期末テスト後すぐに、各学年、各クラスで生徒各自に銅貨五枚ずつを支給。そして、その翌週末に、『一年間の感謝を込めてのプレゼント交換会』を行います。交換の仕方については、クラス単位で円陣を組み、担任教師が一旦回収したプレゼントを生徒にランダムに配り、それを歌に合わせて回し、終わったところで手元に来たプレゼントを貰う、でいいかな? このルールは各クラスに徹底してもらいます」
「「「はい!」」」
リューの提案で承諾された交換会は、生徒に貴族や商会、お金持ちの子息令嬢も多数いることで、異様な盛り上がりをすることになる。
だがそれは、また、少し先のお話。
生徒会室を出て、全員が帰宅しようと玄関に向かっている途中。
「リューは何を買う予定なの?」
リーンが交換会用のプレゼントについて、参考にしたいのか聞いてきた。
「……私も気になる。みんなが喜びそうな物、難しいよね」
シズも提案者であるリューの買う物が気になるようだ。
「僕? 僕はあんまり難しく考えていないよ? 例えば、ランドマークブランドやミナトミュラーブランドをアピールする為に、自分のところの商品でもいいわけだしね。まあ、無難に喜んでもらうなら、チョコの詰め合わせとかかな?」
リューは、深く考えていなかったのか、それともみんなに気を遣わせない為か、単純な答えをする。
「そんな感じでいいのか? なら、自分も用意できそうだな」
ナジンは何を買って用意すべきか早くも悩んでいたのだが、リューの答えを聞いて気が楽になったようだ、安堵している。
「あまり、難しく考えないでいいと思うよ。まあ、感謝の気持ちだから、あげる相手を想像すればプレゼントは選びやすいかもしれないけどね」
リューは、真剣な表情のナジンに笑って助言をした。
「私も難しく考えすぎてたかもしれないわ。王女として、恥ずかしくない相応しいものをと思ったのだけど」
リズ王女も真面目な顔で、リューの言葉に反応する。
「リズがまじめに考えたプレゼントは、誰もが気になるところだね。はははっ!」
リューは、予算も大きさも気にしないかもしれないリズ王女のプレゼントは敢えて難しく考えてほしい気もした。
「自分は主のことを考えて用意したいと思いますが、主は何でも手に入るでしょうから、何を用意していいかわからないです」
護衛役であり、生徒会では監査職のスードも、真面目な顔で悩む素振りを見せる。
「だから、みんな難しく考えなくていいんだってば。あっ! 僕は、良いこと思いついたかな」
リューは年末のプレゼント交換会ということで、三学期の楽しみになるようなものを思いついた。
「何を思いついたのよ、リュー。従者である私には教えてくれるわよね?」
リューが何を思いついたのか見当がつかないリーンは、従者であることを理由にそれを知ろうとする。
「はははっ、それを言ったらお楽しみが無くなっちゃうじゃない! まあ、手掛かりを言うとしたら、クラスの誰が引いても喜んでもらえるものかな。みんな来年、そのことで多少は悩むだろうし」
リューはリーンの問いにも、笑って誤魔化すとヒントだけ意味ありげに告げた。
「もう、いいわよ。──それじゃあ、私も秘密にするからね!?」
リーンはリューに珍しく秘密にされたので少し不貞腐れる。
リューはそれを楽しそうに笑って応じると、
「みんなも、当日までは秘密にするんだよ? 秘密にすることも徹底しないといけないね。明日、そのことを生徒会長に改めて伝えないと」
と注意して、クラスのみんなが、どんなプレゼントを用意するのか想像すると楽しくなってくるのであった。
下校する為、玄関付近に来ると、外は暗くなりかけている。
そこへ、教頭のコブトールが、急いだ様子で尚且つコソコソと何やら紙の束を両手いっぱいに抱えて廊下を横切っていく。
その手から、数枚の紙が落ちるが、気づかずに玄関に待たせてあった馬車に乗り込む。
リューは紙を拾って声をかけようとしたが、その紙に記された内容を見て、思わず躊躇した。
その間に、コブトール教頭は、馬車で学校を立ち去る。
リューが拾った紙の内容をリーンが覗き込んで確認した。
「どうしたのリュー? ──これってリューや私、イエラ・フォレスさんの個人情報じゃない」
それが生徒の個人情報が記された資料だとリーンはすぐに気づいた。
その言葉に、リズ王女が、
「え!?」
と真剣な表情でリーンと同じようにリューの傍に来て覗き込んで確認する。
そして、続けた。
「生徒の個人情報は、学外への持ち出しが禁止されているの。コブトール教頭はその束を持って外に出かけたということでしょ? ──これは、一大事だわ」
「そうなの!? あの量からすると、うちのクラスだけでなく隣のクラスの分もありそうじゃない?」
リーンも事の重要性を理解して、そう指摘する。
「僕の馬車であとを追いかけてみる。シズとナジンは学園長にこの件を伝えて、責任の追及を。リズは、護衛の近衛騎士と共に、王宮にこのことを連絡して」
リューはそう告げると、玄関に待機していた馬車にリーンとスードと共に乗り込む。
「「「わかった!」」」
リズ王女、シズ、ナジンは、それぞれがリューに言われた通りに行動するのであった。
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