第674話 組の危機的状況ですが何か?

 二学期の大きな行事も無事に終わり、リューはゆっくりできる……、ということはなかった。


 本来なら、クレストリア王国裏社会の密かな最大組織を率いるバンスカーらしき相手を、リューがワーナーの街で闇に葬ったことから落ち着きを見せるところであったが、リューの想像を遥かに超える大きさの組織が突如表に出てきた状態である。


 バンスカーが死んだことでその巨大組織『屍』は分裂し、エラインダー公爵の直接的な支配下に入ったらしい『竜星組』以上の巨大組織『屍人会しびとかい』が北西部から西部地方にかけての広範囲を縄張りにして実際生まれていたし、時をずらして南西部から南部地方にかけて財力が豊富な『亡屍会ぼうしかい』も誕生していた。


 この二つはどうやらエラインダー公爵の息のかかった勢力になりそうであったが、心配はこれだけで終わらなかったのである。


 それは、リューが『竜星組』本部事務所でマルコと話し合いをしていた時のこと。


「お知らせします! 王都周辺貴族領にあった『屍』の残党が結集されて『屍黒しこく』という組織を結成したようです!」


 ランスキーの部下が事務所に飛び込んでくると、緊張した様子でそう報告してきた。


「何!? またか!」


 その場にいたマルコがリューより先に反応する。


「……『屍黒』、……か。その組織もエラインダー公爵の系列組織になるのかな?」


 リューが、眉をひそめるとダメもとで確認する。


「それが、エラインダー公爵が接触する様子がなかったので、『屍』の元幹部が独自に設立したのではないかとサン・ダーロ隊長からの伝言です」


「サン・ダーロが? 彼がそう言うのならそうなのかな? 他には何か言っていなかった?」


 リューはノーエランド王国から連れ帰った逃げ足が自慢である元殺し屋サン・ダーロを評価していたから、その考えを確認した。


「へい、サン・ダーロ隊長が直接掴んだ情報では、『屍黒』のボスは、王都への進出を掲げ、『竜星組』『黒炎の羊』『月下狼』を潰すと息巻いているとのことです」


「……今までバンスカーの代では王都について、エラインダー公爵の領域ということで『屍』は進出することをずっと避けていたのに、そのバンスカーがいなくなったことで、その暗黙の了解も元部下は守る必要がなくなったってことだね……。──まあ、不幸中の幸いで『屍黒』はエラインダー公爵の傘下ではないということかな」


「……確かにそうですね。──それにしても、『屍人会』『亡屍会』だけでも『竜星組』と並ぶかそれ以上の大きさですからね。バンスカーという男、それだけの組織を一つにし、裏社会の俺達にも気づかれず作り上げていたとは……。とんでもない野郎でしたね。こうなると今まではエラインダー公爵とバンスカーの間にあった暗黙の了解で王都は守られていたと言っても過言ではないかもしれません……」


 マルコはリューの言葉に納得しながら、鋭い指摘をした。


「そこなんだよね……。『屍』という組織がその気になったら王都進出して僕達を潰すこともできたかもしれないのに、それをしなかったというのは、エラインダー公爵に余程義理立てしていたのかな? それにエラインダー公爵の後ろ盾がなくても『屍』単体でどうにでも出来そうな大勢力だったのにね」


 リューはバンスカーという謎のまま死んだ人物とエラインダー公爵の関係性を疑問に思った。


「もしかして、バンスカーはエラインダー公爵と対等な立場だったんじゃない?」


 リーンがふと何かを思ったのか突拍子もないことを指摘した。


「「対等?」」


 リューとマルコは思わずそう口にすると目を見合わせる。


「ええ。バンスカーが裏社会で勢力を作る際、王都には入らないという約束か誓いを立てたのかも。もし、対等でなければエラインダー公爵の命令で王都に手を出しているはずよ。エラインダー公爵が目の上のたんこぶとして『竜星組』は邪魔だと思ってもおかしくないわけだし」


 リーンはリューと自分の関係性からそんな発想になったようだ。


 従者ではあるけど対等な扱い、そんな関係性ならあり得ると思ったのである。


「なるほどね……。それなら『屍』の不可解な動きにも説明がある程度つくかもしれない……。そして、バンスカーが死んだ今、エラインダー公爵はその勢力を吸収し始め、『屍人会』『亡屍会』が結成。でも、王都周辺の勢力はその傘下に入らず、ボスであるバンスカーの死ぬきっかけになった『黒炎の羊』がいる王都進出を『屍黒』は口にしているのかもしれない」


 リューはリーンの発想のお陰で少し話を整理することができた。


「若、そうなると不気味なのは北東部、東部地方一帯です。ランスキーの調べでは、あそこも何気に『屍』の勢力がそれなりにいたみたいですから、それが表に出てくると思いますよ」


 マルコが眉をひそめて、リューにそう忠告する。


「そうなると、北部地方以外は『竜星組』と敵対しそうな勢力だらけだね……。不幸中の幸いは表だってうちが敵対行動を取っていないこと。多分、王都進出を狙っているという『屍黒』だっけ? その勢力だけがうちや王都の組織を敵対視しているみたいだけど、それも、多分、『黒炎の羊』が一番の標的だろうしね。うちはそれを利用してうまく立ち回るべきかどうか……。──あっ。『月下狼』にもこのことは知らせておいて。『屍黒』相手に単独で敵対したら危険だってね」


 リューは考えがまとまると、部下にそう伝えて『月下狼』のボス・スクラに連絡を入れさせるのであった。


「若、幹部会議を招集した方がいいと思うんですが?」


 マルコが、リューの考えをみんなに伝えるべく提案する。


「そうだね。忘れてた、ありがとう。それじゃあ、その方向でお願い」


 リューはマルコが気を利かせたことに感謝すると、幹部会議を招集することになるのであった。

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