第673話 学園祭後の話ですが何か?
学園祭での王女クラスの出し物である『ロミロウとジュリアンナ』は、高い評価を受けて終幕することになった。
立見席というこれまでにないやり方も受け入れられた形で、王都演劇界でもマネされることになるかもしれないが、それは客入り次第ではあるだろう。
学園祭の出し物とはいえ、大入りの大盛況に終わったこの演目は主演にリズ王女が、そして、相手役には元とはいえエラインダー公爵子息であったイバルが見事な演技を見せたことにも大きな影響がある。
そして、最年少男爵の一人であるリューが終始、妙に上手い草役を演じきったことも笑い話として話題になっていた。
それらが総合的な理由として学生の演劇にも拘らず高い評価を受けた結果の観客動員だったのである。
「リュー君の持ち込んだ台本が、話題になりそうね」
リズ王女が、学園祭が終了した放課後、楽しそうにみんなに話した。
「僕? それよりも主役のリズやイバル君の演技が素晴らしかったから成立したんじゃないかな? 他のみんなの演技も良かったし、総合的に良い評価がされたと思うよ?」
リューはこの時はまだ、王都演劇界に今回のハッピーエンドの台本がここまで高く評価されることになるとは思っていなかったので、演劇が大きな失敗もなく成功したことを喜んでいた。
「確かに本物の王女様が主演を務めたという話題性は大きかっただろうな。でも、有名な悲劇をハッピーエンドの新喜劇に変えてしまったリューの大胆な案は見事だったと思う。有名ってことはファンも多いってことだからな。普通、中途半端に内容を変更したら叩かれるのがオチだ。でも、誰もが喜ぶ内容に仕上げたのは凄いよ」
同じく主演を務めたイバルもリズ同様、リューの台本を高く評価する。
「俺もそう思うぜ。それに、お客さんの中には貴族も多かったからな。すぐに、このことは演劇界にも広まるんじゃないか?」
ランスもリューの貢献を評価して、少し先の未来を指摘した。
「大袈裟だよ、みんな。素人の案から生まれたものだよ? まあ、家のお抱えの芸術家が形にしてくれたから完成度は高いのだろうけどね」
リューは部下の芸術家イッセンの働きを強調して答える。
「……さっき、午前と午後の劇二つともを観たらしい貴族の人がいたのだけど、『劇中で草役が終始素晴らしい形態模写をしていたことが、午前の悲劇では暗い話を中和する役割をし、午後の新喜劇では全体にまとまりを与えていた! あれは計算され尽くしての演出にほかならないだろう!』って絶賛していたよ」
今回、裏方に徹していたシズが、リュー、リーン、イエラ・フォレスの草役を褒める人物に遭遇したことを告げた。
「さすがにそれは褒め過ぎだろ」
ランスが笑って指摘する。
「ちょっと、ランス! 私達の劇中での頑張りを否定しないでよ!」
リーンがランスに怒って見せた。
「結果的に草役の見事な演技が劇全体に、しまりを持たせる形になったのは事実だと思います……」
ラーシュが上司であるリュー達を評価しておこうと思ったのか、それとも本当にそう思ったのか、草役に対して高い評価をする。
「ふふふっ。リュー君もリーンもイエラさんも素晴らしい草役だったのだから、評価されるべきよ」
リズ王女がそう褒めると、笑っていたランスやナジン達もその結論に頷くことで今回の学園祭は、『草役』が意外に良い結果を残したということになるのであった。
それから王都演劇界でも、この新喜劇の台本がすぐに広まっていく。
その際、主役は当然ロミロウ役とジュリアンナ役だが、準主役として『草役』もなぜか重要視されることになる。
舞台監督によっては、主演よりも重要視する者もいたとか、いなかったとか。
実際、この劇を直接観たどこかの貴族が演劇界の重鎮で、その人物が高く評価したことに大きく起因するらしいのだが、リュー達の熱演はそのくらい舞台関係者の心を動かしたということになる。
「草はあくまで端役のはずだったんだけどなぁ……。でも、改悪とか言われなかった分、いいか!」
原案を出し、演じたリューでさえそう思っていたので、想像の上をいく評価に困惑するしかなかったが、前向きにとらえるのであった。
「あの者が目立たない役というからやったのに、注目されてしまったではないか……。でも、まあ、たまに褒められるのも悪くないかもしれないのじゃ」
イエラ・フォレスはそう言うと鏡を前に緑の全身タイツを着てポーズを取る。
彼女は現在、ランドマークビルでリュー達のところに居候させてもらっており、自室があったからその部屋での一場面だ。
どうやら、イエラ・フォレスは衣装を買い取ったようだ。
彼女はその衣装を脱いで折り畳むと、大事そうにマジック収納に戻すのであった。
そして、王城では──。
「エリザベスが主演で注目されたのだろう? 観たかったのう……」
国王が午後の休憩中に残念そうに漏らした。
「陛下が学園祭に現れたらそれだけで大騒ぎですぞ?」
一緒に休憩を取っていた宰相が現実的な指摘をする。
「だが、娘の活躍を見れないというのは、親として悲しいことだろう?」
「言いたいことはわかりますが、もう終わったことを言っても仕方がないでしょう? それに、今回の演劇の台本はミナトミュラー男爵が用意したものだとか。演劇界からの内容が高い評価を受けているそうですぞ?」
「なんと? ミナトミュラー男爵は芸術方面にも才があるのか? ──うん? そう言えば、あ奴はどんな役を演じたのだ? 主役は確かエラインダー公爵の元倅だったと聞いているが……」
「草だとか」
「草?」
「ええ、草です。なんでも舞台を観た者が言うには、『劇の良し悪しを決める重要な脇役で、それを見事に演じきっておりました』と申しておりました」
宰相は報告を聞いていたので、そのまま報告する。
「なんと……。敢えて主人公ではなく、『草』とな? ……どこまでもミナトミュラー男爵は王家を支える忠臣だのう。主役であるうちの娘を盛り立てつつ、そんな重要な役を見事にこなす……、か」
国王は感心して一層リューのことを気に入った様子だ。
こうして、学園祭の演劇の内容が業界を騒がせ、国王になぜかさらなる評価を受ける形になって学園祭を終えたのであった。
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