第669話 裏社会の新たな動きですが何か?
ミナトミュラー商会の新たな飲食業の店舗として、天ぷら屋を形にすることにしたリューは大忙しであったが、裏の顔である『竜星組』の方も今はかなり忙しくなっている。
というのも、大きさが未だ判明していない『屍』が、分裂して王都周辺の貴族領では治安が一気に悪化していたからであった。
王都内においても、『黒炎の羊』のボスであったドーパーが死んだことにより代替わりしたので、その動向は気になるところであったし、何より、周辺が荒れることになって、王都にもその気配が波及するのではないかとミナトミュラー家の幹部達は注視している。
「若、先日、エラインダー公爵領を含む北西部から西部地方一帯に広がる範囲に『
「『屍人会』か……。それって『屍』の後継組織になるんだよね?」
リューはランドマークビルの自宅でランスキーの報告を聞いて、嫌な顔をする。
元がこちらの想像を超える大組織だったので、もう少し混乱して、再組織化は早くても来年以降になると思っていたからだ。
「へい。うちの情報分析部門もエラインダー公爵が動いていたことを確認したうえで、そのように考えています」
「でも、それって他の地方の『屍』の残党はかなり無視されていることにならない?」
リーンが王国全土の色々なところで密かに勢力を伸ばしていた『屍』はもっと大きい組織と考えていたから、これでもかなり小さい方だろうという意味で指摘した。
「いや、多分、エラインダー公爵は自領周辺だけは固めておこうとしてすぐに再結成できる範囲で組織を作り直したんだと思う。逆に言えば、バンスカーの影響力に対してエラインダー公爵の裏社会への影響力は『屍人会』を作るくらいということになるんだろうけど……、十分大きいよね」
リューは『竜星組』より大きい新組織が短期間で出来たことに呆れるしかない。
もちろん、リューとしては危機感を抱く場面ではあるのだが、以前の『屍』程の脅威は感じていない。
「へい。それにここまで大きい組織が表に知られる形で出来たので、西部地方一帯を縄張りにする『聖銀狼会』がどう動くかも気になるところです」
ランスキーは王都で死闘を繰り広げた『聖銀狼会』の動向も注視している様子である。
「『聖銀狼会』か……。王都郊外での『手打ち式』以降、うちとは休戦状態だけど、そもそも敵対していたのは『闇商会』と『闇夜会』だからね。それが消失した今となっては、また、王都進出を企んでもおかしくないわけだけど、その間を遮るように『屍人会』という巨大組織が出来たとあっては、黙っていられないだろうね」
リューはランスキーの指摘に対してそう答えると考え込んだ。
急に出現したように思える強敵の『屍人会』を利用して『聖銀狼会』と同盟を結べないだろうか? もしくは両者をぶつけて、漁夫の利を得るか? いや、エラインダー公爵の表と裏からの影響力を考えると純粋な武闘派勢力である『聖銀狼会』では政治面で不利かもしれない。やはり、協力体制を敷いてエラインダー公爵に対抗する方が利口だろうか?
リューはいろんな思考を巡らすのであった。
「リューどうするの? 『屍』の元の勢力範囲はランスキーが調べ上げただけでも『シシドー一家』のある南部地方やコーエン男爵が率いる『蒼亀組』がある東部地方まであったのでしょ? その一帯が混乱している間にうちがそれらを飲み込むということもありなんじゃない?」
リーンがとんでもない提案をする。
「リーン、確かにそれは理想的に聞こえるけど、『竜星組』の元々の勢力圏は王都とその周辺、そして、シシドー一家を使っての南部地方だけだからね。下地の無い他の地方にゼロから勢力を伸ばそうとしたら、王都周辺が人手不足で、がら空きになるから現実的じゃないよ」
リューはそう言うとリーンの意見を却下する。
「結局、今まで通り、地道に勢力を伸ばすしかないってことね?」
リーンは残念とばかりに溜息を吐く。
「そうだね。今できることを考えたら、各地元の裏の組織と連携して『屍』の残党勢力を一つ一つ確実に潰す方がまだ現実味があるかな。南部は『シシドー一家』、東部は『蒼亀組』、王都周辺はうちと『月下狼』なんかとね。西部方面はすでに『屍人会』結成されてしまったからあとは『聖銀狼会』の動き次第だし、これは何とも言えないかな」
リューはリーンにそう答えると、続けた。
「ランスキー、あとは幹部を招集して報告会議で話し合おう。マルコやノストラ、ルチーナの意見も聞かないと大まかにしか今は結論を出せないしね」
リューは今の判断を保留するとそう告げる。
「へい、幹部を招集します!」
ランスキーはそう答えると、ランドマークビルをあとにするのであった。
翌日の夕方。
マイスタの街長邸には、全体を統括する大幹部のランスキー、ミナトミュラー商会の副会長ノストラ、『竜星組』副組長マルコ、表裏の実働部隊である別称『総務隊』代表のルチーナをはじめとした幹部達が一堂に会していた。
そこには将来の右腕候補であるイバルや護衛役であるスード、ルチーナの下でミナトミュラー家の表と裏を勉強中であるノーマンなど若い幹部候補達もいる。
ラーシュがいないのは、一応、『聖銀狼会』関連についても話題になるので、足を洗った形の本人を関わらせるのは筋が通らないということで、招集をかけなかった。
「──なるほどね。確かに若の言うことが一番無難だろうな」
ミナトミュラー家の参謀役でもあるノストラが、リューの話を聞いてそう答える。
「先程、新たな報告があった通り、南西部から南部の周辺にかけての勢力圏にいた『屍』系の組織をまとめて『
ランスキーが残念そうにそう答えると、リューに謝罪した。
「ランスキーの旦那が失敗したんなら、ここにいる連中でも無理だったさ。ねぇ、若?」
『総務隊』のルチーナが幹部達の声を代弁するようにリューに聞く。
「そうだよ、ランスキー。さすがに僕もこの速度で『屍人会』に続いて『亡屍会』が結成されるのは想定外だったよ。バンスカーの部下にも優秀な連中がいたということだろうね。この調子だと、王都周辺地域や東部方面にも近いうちに新たな組織が出来るもかもしれない。みんな、最悪の場合を想定しておいて」
リューは想定以上に早く裏社会が動き始めているので、幹部全員に注意喚起する。
「「「へい!(はい!)(おう!)(了解!)」」」
一堂に会した幹部達は気を引き締め直して返事をするのであった。
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