第655話 祭りの余談ですが何か?

 ランドマーク家の大豊穣祭は二日間行われ、招待客も大満足のものになったようだ。


 というのも、申告した招待客はリューの『次元回廊』で、王都まではいつでも帰れるようにしていたのだが、用事がある者以外のほとんどのお客は宿泊することを選んだからである。


 この祭りの最中ということで、一人一人に一部屋とはいかず、学園の友人達一同はランドマーク家の城館にあるリューとリーンの部屋に簡易のベッドを敷き詰めて、その上で雑魚寝することになったのだが、それはそれで盛り上がった。


 前世でいうところの修学旅行のノリだろうか? リューの部屋は、勇者エクスやルーク・サムスギン辺境伯子息も一緒に寝たのだが、学内で行われた総合武術大会や魔術大会、剣術大会での活躍について話したりすることで距離が近づいた気がする。


 女子の方もリーンとリズ達を中心に盛り上がったらしいが、内容については秘密らしい。


 リーンもリューに話してくれなかったのだが、余程秘密にしたい内容だったようで、女子の間では緘口令が敷かれたようである。


 だが、女子の友情はさらに強固になったようで、その中でも一年生のエミリー・オチメラルダ公爵令嬢やレオーナ・ライハート伯爵令嬢からは楽し気な笑顔が漏れ、キャッキャッと浮かれている様子が見られた。


「二人があんな感じで笑うの初めて見るかも」


 勇者エクスやルーク・サムスギンは軽く驚いてそう漏らす。


「こういうお泊り会は、女子同士は距離を縮めやすいのさ」


 ランスが知ったかぶりで二人に話す。


「はははっ。こっちも同じじゃない? 女子と比べたら秘密にするような話はしていないけど、くだらないことで盛り上がって楽しかったし」


 リューが笑ってランス達にそう告げる。


「まあな。確かに楽しかったよ。特に山車の迫力が凄かったから、招待してもらって良かった。あれ、王都の祭りでもやれば盛り上がるのにな」


 ランスはリューの言葉に同調して、今回の祭りの盛り上がりを語った。


「そうだな。ああいう形でその地方の伝承を残していくというのは興味深かったよ」


 ナジンも感心したように頷く。


「ありがとう! あれがランドマーク領の大豊穣祭の売りだからね!」


 リューはみんなが満足してくれたことに、満足すると笑顔を漏らすのであった。



 二日間に及ぶ大豊穣祭は終わり、招待客も満足して王都の自宅へと帰っていった。


 ちなみにオサナ王子達はハンナの部屋にオイテン準男爵の子息ワースと三人で泊まって盛り上がった様子で、まだ、八歳の割に賢いところを見せていたオサナ王子も年齢相応の笑顔を見せて、お昼にはハンナに手を振ってリューの『次元回廊』で王都に帰っていく。


 こちらは後援であるマカセリン伯爵や王女リズ、その護衛であるヤーク子爵なども一緒だったので、一泊しただけでも異例だろう。


 一応、お忍びなので記録には残らないが、ランドマーク家にとっては名誉なことであった。


 ランス達友人も夕方には帰路につく。


 翌日は学校だからだ。


 だが、招待客の貴族達は二日間の祭りを大いに楽しんで翌朝一番に帰っていったので、リューは学校を遅刻することになったのは、仕方がないことであった。



「結局、招待客の貴族は宿屋の感覚で昼近くまで滞在する人もいたから、その人達を送り届けるまで学校にこられなかったよ」


 リューは苦笑しながら休憩時間の教室でぼやいた。


「はははっ! こればっかりは仕方ないさ。今回の催しは俺達にとっては友達同士の遊びだけど、ランドマーク家にとっては、接待も兼ねているわけだからな。与力貴族としては、働かないといけない場面だよ。でも、お忍びとはいえ王家をそこに招待できたのは凄いことだぜ? さすが『王家の騎士』称号持ちの家柄」


 ランスがリズ王女の横で、笑って茶化すように言う。


「オサナも楽しかったと興奮気味に話していたわ。私もみんなと楽しめてとても良かった。招待してくれてありがとう」


 リズ王女はランスのように茶化すことなく素直に感謝を述べる。


「みんなに楽しんでもらえてよかったよ。僕が想像する祭りの理想形があれだからね」


「「「理想形?」」」


 一同はリューの理想形という言葉に興味を持って疑問符を浮かべる。


「そう。──みんなで楽しみ、その中で関係を深め領民全体の活力になること。もちろん、一番は王家や先祖、守護神を祀って感謝するということだけどね」


 リューは祭りの意味である、神を「まつる」、「祈願」するということを大事にしていた。


 それに何事にも感謝を忘れないということもである。


 それは領民に対してもだし、家族や友人達に対しても同じであった。


 だからこそ、それらの思いを一年に一度の大豊穣祭に込めているのである。


「確かに祭りの目的は王家や神様への感謝だよな。あの山車もその象徴か。うちの祭りにも取り入れてもらえるか親父に話してみようかな……」


 ランスはボジーン男爵家の嫡男の顔になると、そうつぶやく。


 それはラソーエ侯爵家のシズやマーモルン家のナジン、そして、王家のリズ王女も一緒だったようで、小さく頷く。


「でも、少し、気になったんだが……、山車の最後のリューとリーンがドラゴンと対決したのは知っているけどさ? あれをなんで神として祀ることにしたんだ?」


 ランスが不思議そうに言う。


 ランス達はランドマーク家がその黄龍フォレスから加護を受けた事を知らないからだ。


 そして、その加護を与えた相手が、すぐそこにいることも知らない。


「ランス、言葉は慎もうね? あれだけ偉大なドラゴンを祀らずに誰を祀るの!」


 リューはすぐ近くの席に座っているイエラ・フォレスを意識してランスに怖い顔で注意する。


「お、おう……」


 リューのその勢いに圧されてランスは反論できなくなる。


「ともかく、あの時現れたドラゴンはランドマーク本家の守護神として祀っていきます! あと与力であるミナトミュラー家も同じく!」


 リューがそう力強く告げるとリーンとスード、イバル、ラーシュも深く頷き、一同もその勢いに圧されて理解を示すことになるのであった。

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