第652話 大豊穣祭開始直前ですが何か?

 ランドマーク本領で行われる大豊穣祭当日。


 この日は、学園も休日に当たることから、リューは一年生の勇者エクス達のグループから二年生のランスら友人達やエマ王女の一行、そして、リューの交友関係にあるオイテン準男爵ら貴族なども招待することにした。


 その中で極秘だったのが、友人でもあるリズ王女の繋がりから、オサナ第四王子とその後援になっているマカセリン伯爵も招待することになった。


 オサナ王子はリズ王女と仲が良いということもあったが、後援についているマカセリン伯爵は、リズ王女の南部視察団の時の責任者でランドマーク家とは知らない仲ではない。


 それにランドマーク伯爵は王位継承権を持つどの王族も支持声明を出しておらず、我関せずという態度を取っていた。


 もちろん、リズ王女が息子のリューと友人であることは別にしてである。


 そんな中立を保つランドマーク伯爵家の招待でリズ王女が参加することになり、その際に弟のオサナ王子を誘ったのだが、そうなると事は単純な祭りの観賞どころではなくなる。


 領民も王族が来るとわかれば、大騒ぎになるし、何よりランドマーク家がオサナ王子の後援の一人になるという誤解を与えかねない。


 だから、リズ王女、オサナ第四王子、マカセリン伯爵、そして護衛で同行しているヤーク子爵近衛騎士隊長と護衛騎士達には全員仮面を付けてもらい、完全なお忍びということにしてもらった。


 当初、リューもオサナ第四王子が来るとは思っていなかったので、リズがオサナ第四王子一団を引き連れてランドマークビル前にやって来た時には驚いたのだが、リズ王女とオサナ第四王子が完全に姉弟のような関係でお祭りを楽しみにしているという姿勢を見せられたので、リューも難しいことは言わずに変装してもらったのである。


「仮面は一切取らないということでお願いします。まあ、尾行がいても『次元回廊』で移動した時点で追えないので問題ないのですが念の為です。──マカセリン伯爵、いえ、そちらの紳士も言葉遣いにはお気を付けください」


 リューは知った仲であるマカセリン伯爵にリズ王女やオサナ王子を敬称で呼ばないように口止めした。


「わかっておる。今日は、エリ……、リズ様のお誘いでオサ……、ーナ様も乗り気であったからな。それに王都から遠く離れた南東の地とあっては誰にも迷惑をかけることもないだろうから、お二人の息抜きをさせてもらえれば助かる」


 マカセリン伯爵はリューの注意通り呼び方を気にしながら答える。


 僕と本家が一番気を遣うんですけどね?


 リューは内心でそうツッコミを入れるのであったが、友人でもあるリズ王女のお願いだから断れない。


 それに、オサナ第四王子はまだ八歳で王位継承権争いからは遠い存在であったから、あまり気にすることもないだろうとは思っていたし、何よりこの王子は聡明そうだったので仲良くしておいた方がよいだろうとリューは考えていた。


 なにより、後援がマカセリン伯爵でもある。


 元々はマカセリン伯爵は王位継承とは関係ないリズ王女を世話する一人であったのだが、元の後援であった侯爵が食中毒で亡くなったということで、弟の身を守る為にも、不憫に思ったリズ王女がマカセリン伯爵にお願いしてオサナ第四王子の新たな後援についてもらった経緯がある。


 そのマカセリン伯爵にも息抜きは必要だろうから、リューは快く承諾したのであった。


 一行はランドマークビルの一階駐馬車場から『次元回廊』でランドマーク本領まで一瞬で移動する。


「うわー、本当に一瞬なんですね、姉上!」


「ふふふっ、何度も説明して上げたでしょ?」


 オサナ第四王子は、八歳の子供らしくランドマーク城館前に到着すると素直に感動する素振りを見せ、腹違いの姉リズ王女にそう漏らす。


「お祭り開始は正午からだから、城館内でみんなと待っている?」


 リューがそんな姉弟のやり取りを微笑ましく思いながら、リズ王女に聞く。


「ええ、みんなにも紹介しておきたいから、そうするわ」


 リズ王女はリューの提案に頷くと、ヤーク子爵以下護衛の騎士達(私服に仮面姿だが)に囲まれて城館に入っていく。


「ミナトミュラー男爵、この度は本当に無茶を言ってすまなかったな」


 マカセリン伯爵が、リューに頭を下げる。


「いえ、お二人の姿を見ても、こういう気楽な場での息抜きは必要だなと思いましたから、僕も問題ないですよ。それよりもうちの親達は知らないので、説明をお願いしますね? はははっ」


 リューはこの豪快なマカセリン伯爵も急遽オサナ王子の後援についたことで心労が絶えないだろうと思っていたので冗談で気持ちをほぐす。


「そうだった! ランドマーク伯爵と会うのは久し振りだな。挨拶がてら説明しないと。──それではミナトミュラー男爵、また、あとでな」


 マカセリン伯爵はこの年の離れた頼りになる男爵の肩を叩くとすぐにリズ王女達の後を追うのであった。


「それじゃあ、リーン。今日はリズに付いておいてね」


 リューはそう言うと、リーンに護衛をお願いする。


「わかったわ」


 リーンも二つ返事をするとすぐにリズ王女の元に向かう。


「リュー、もうすぐ開始の魔法花火を上げるから、その前に職人達に声をかけてくれるか?」


 そこへ先にランドマーク本領入りしていたイバルが、やってきてリューに声をかけてきた。


「イバル君、お疲れ様! ──了解、それじゃあ、今回は王家の方々が観賞することになったから、みんなには気合いを入れてもらわないとなぁ」


 リューは笑ってイバルにそう応じる。


「王家の方々? リズ以外に誰か来ているのか?」


 イバルはオサナ王子が来ていることを知らなかったので、首を傾げる。


「ふふふっ。今日はお忍びだから秘密だけどオサナ第四王子殿下が来ているよ」


 リューは驚かせようと勿体ぶって答えた。


「マジかよ……!? 職人達もこれは気合が入るな……。ってお忍びなら来ていること話せないだろ」


 イバルが重大なことに気づいてツッコミを入れる。


「あ、そうだった! ──それじゃあ、タウロお兄ちゃんの結婚やジーロお兄ちゃんの婚約祝いということで気合い入れてもらおうかな」


「職人達にとっては親であるリューの兄達は伯父貴? に当たるんだろう? それで十分だ!」


 イバルは友人であり上司であるリューの言葉にそう答える。


 リューはイバルとスードを連れて職人達が待機する場所へと向かうのであった。

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