第650話 存在確認ですが何か?

 リューはリーン、スードと共に、学園の体育館裏でイエラ・フォレスと対面していた。


「……なんじゃ話とは? まあ、ある程度わかっているのじゃが……」


 金髪のポニーテールに茶色い目、着崩した制服姿が特徴的なスタイルの良いイエラ・フォレスは、リューに面と向かって呼び出した理由を問うた。


「イエラ・フォレスさん、君の正体って……、やっぱり、黄龍フォレス様ですよね?」


 リューは前置きもせず、核心部分を突いた質問をした。


「……はぁ……。──なんじゃ、ミナトミュラー。今さら何か文句でもあるのか?」


 イエラ・フォレスはリューの問いに真っ向から否定せず、認めるように聞き返してきた。


「いえ、文句どころか黄龍フォレス様のご加護のお陰でランドマーク本領は色々と恩恵を受けているみたいです。ありがとうございます」


 リューはお礼を言うと頭を下げる。


「なんじゃ、そんなことか。まあ、今は黄龍フォレスではなく、イエラ・フォレスとしてここにいるから、気にするな。それにあれはお主の希望を少し叶えてやったまでのことよ」


 イエラ・フォレスは少し笑うと当然とばかりに応じた。


「リュー、他にもお礼を言うことあるでしょ? ──黄龍フォレス様、──いえ、イエラ・フォレスさん、大会での結界や魔法での強化などありがとう、助かったわ」


 リーンが黄龍フォレスに媚びることなく、堂々とお礼を告げた。


「あれは面白いものを見せてもらったから、その礼じゃ。思った通りあの後はお主らが面白かったからのう。かっかっかぁ」


 イエラ・フォレスはリーンの言葉遣いも気にすることなく応じた。


「──ところで、なぜ、その姿でうちに来たんですか?」


 リューは最大の疑問を口にした。


 初遭遇した時に、確か黄龍フォレスは人との関わりを絶って数百年、いや、千年を超えるような物言いだったからだ。


 それが、急に人の姿でリューのいる学園に編入生として同じクラスに来たのは偶然ではないだろう。


「これは、我が作った分身体だ。我が知る遥か昔の若者の姿と今のお主の能力を参考にさせてもらった。理由は再び人間に興味を持ったから、というところじゃな。情報収集の為、一番近くの国の王都に送り込んだのだが、お主らがいたわけだ。それとお主らのクラスになったのは偶然じゃぞ? まあ、お主の能力を基準にこの分身体を作ったら、成績優秀者になってしまったのは誤算だったがのう」


 イエラ・フォレスはそう言うと自嘲気味に溜息を吐く。


「僕を基準って……、──何割増し……ですか?」


 リューはイエラ・フォレスの物言いに呆れて、再度聞く。


「基準がわからなかったからのう……。お主のような若者が現在の世には沢山いるのかと思って二倍程にしたのだが、この学校ではそれだけで一番になってしまったのじゃ。かっかっかぁ!」


 イエラ・フォレスはリューの疑問に答えると笑う。


「主の二倍って……」


 戦闘狂のスードもこれにはワクワクよりも青ざめながらつぶやく。


「もう、どうしてくれるのよ! 私はともかくリューの成績連続一位記録が途絶えちゃったじゃない!」


 リーンは相手が黄龍フォレスであろうとも、リュー優先は変わりなく、圧倒的な強者相手に怯えることなく非難した。


「はははっ! リーン、僕の記録はどうでもいいから。それにお陰で連続一位のプレッシャーは無くなって良かったよ。──それにしてもまた、こんな形でお話しできるとは思っていませんでした。これからどうなされるんですか?」


 リューは黄龍フォレスには恩しかないから、場合によっては黄龍フォレスを崇める建築物を作っても構わないと思っているところである。


 前世で事務所に神棚設置は必須だったからだ。


「我か? 数百年ほど人間達の様子を観察して楽しもうかと思っておる。今のところ他の皇帝竜も静かなようだしのう」


 イエラ・フォレスは考える素振りを見せると、そう答えた。


「それじゃあ、うちに来ませんか? 今、その体での生活をどうしているかわかりませんが、僕らの隅っこグループに入っている以上、多少の人間関係を持って人を観察する方が、効率的で良いと思うのですが?」


 リューが思わぬ誘いをする。


 これはもうリューの病気というべきだろうか?


 良い人材であれば、相手が人類以上の高位の存在であっても誘わずにはいられないようだ。


「かっかっかぁ! お主の魂胆はわかっているぞ? 我を後ろ盾にでもしようと思っているのじゃろう? 打算が過ぎるわ。 ──まあ、すでに加護を与えているから、それもやぶさかではないがのう。だが、我も目立つつもりはない。我が関わると国が滅びることもあるからじゃ」


「もちろん、の生活範囲で大丈夫ですよ。僕もこの国に滅んでほしくはないですから」


 リューも欲をかいて大事にはしたくないから、そう答えた。


「……ふむ。それも本心か。よいじゃろう。短い期間だがお主の世話になっておこうかのう」


 イエラ・フォレスはそう言うと、リューの勧誘に乗る。


「やったー! すぐに、住まいを用意しますね。あと、各事務所にも神棚を作らせます! あ、これはただの興味本位なんですが……、今まではイエラ・フォレスさんはどこで生活していたんですか?」


 リューはふとこの黄龍フォレスの分身体であるイエラ・フォレスの扱いが気になった。


「この分身体はお主の能力を参考にしたと言ったじゃろう? 『次元回廊』も使用できるから、本体である我の下まで帰っておるのじゃ」


 イエラ・フォレスはそう言うと、『次元回廊』を使用して、その場から消えて、数秒後には戻ってきた。


「もう、無茶苦茶ね。リューと私は努力して今の実力があるのに、その二倍の能力を持つ分身体をあっさり作っちゃうんだから」


 リーンがイエラ・フォレスに呆れて気持ちをそのまま漏らした。


「かっかっかぁ! 我とお主らでは格が違うのじゃ。だが、お主らも我に傷をつけた実力はあるのだからそれを誇るとよい。もし、他の皇帝竜が相手であったなら、傷をつけた罰として祖国が滅ぼされる事態になってたかもしれんがのう」


 イエラ・フォレスはしれっと怖いことを告げる。


 確かに、イエラ・フォレスの言う通り、その可能性はあったのだ。


「あははっ……。今考えるとあの時、フォレス様次第では全てを失っていたかもしれないのか……」


 リューは本人からの指摘で、最悪の未来があったことを改めて知って冷や汗をかくのであった。

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