第649話 同じ気持ちですが何か?
ノーマンという優秀な人材を得て、ミナトミュラー家の陣営はさらに強化された状態になり、リューはランドマークビルの自宅でホクホク顔であった。
「ふふふっ、リュー、ご機嫌ね。気持ちはわかるけど、明日から中間テストよ。リズも毎回頑張っているし、今回はエマ王女殿下達、留学生グループもいるから、気を引き締めていきましょう」
リーンはご機嫌のリューの気持ちを察しながらも、注意は忘れない。
「おっと、そうだった。前回の轍を踏まないようにしないとね」
リューは前回の夏休み前のテスト結果は、順位は変わらず一位だったものの、担任が心配する程、点数が下がっていたのだ。
それだけに、リューとリーンは前回のように勉強する暇がない程、スケジュールを埋めるようなミスは犯していない。
二人は頷くと、早々に勉強を終わらせると明日に備えて就寝するのであった。
それからテスト期間の一週間、リューとリーンはしっかり油断することなくテストを乗り切った。
「リュー殿、前回までテスト結果は連続一位らしいですが、今回からはノーエランド王国を代表する我らが上位を独占させてもらいますよ」
リューが教室に入ってきたのをサイムス・サイエンが気付いて、眼鏡をクイッっと上げるといきなり宣戦布告をしてきた。
テスト明けの教室に登校したリューとリーンを待っていたのは、クラスメイトとエマ王女の一行である。
「こちらの教室に来ているなんて珍しいね」
リューは直接それには答えず、サイムス・サイエンにそう応じる。
「余裕だな、リューの旦那。サイムスの言うように、うちはサイムスや俺、ノーマンにアリス嬢も今回のテストに手応えを感じているからな。二人が上位を独占していた時代は終わらせてもらうぜ?」
海軍元帥の孫シン・ガーシップが、幼馴染の優等生サイムスの代わりに改めてリューに勝負を挑む。
「みんな落ち着いて。テスト結果は一週間後だよ? 今から息巻いてどうするのさ。はははっ!」
リューは余裕の表れか、サイムスやシンに正面から反論することなく宥める。
「そうよ、二人とも。私も手応えはあったけど、みなさん優秀だから、上位に入れるか心配だわ」
エマ王女もリューの言葉に賛同してサイムスとシンを宥めた。
「私もリュー君やリーンの背中を追っていたけど、三位の座も危ういわね。ふふふっ」
リズ王女もエマ王女に話を合わせてそう告げる。
「リュー、リーン、リズ王女の上位三人の牙城は崩すのが難しいから、俺は諦めていたんだが、そこまで自信があるなら、傍観者として楽しみだな」
イバルが他人事のようにニヤリと笑みを浮かべて言う。
「そういうイバルも前回四位だろ? 抜かれると思って予防線を張っているんじゃないか?」
ランスが茶化すようにイバルに指摘する。
「……ランス君、それは私達も順位が下がる可能性があるのは一緒だからね?」
シズが、危機感を持ってそう告げる。
そう、前回シズは六位、ランスは八位だったのだ。
今回、ノーエランド王国組が上位に入ってきたら、上位十人から弾かれる可能性も上がるのである。
「そこに挟まれている自分も危ういんだよな……」
前回七位であるナジンがシズの言葉に同調するように、頷く。
ナジンは何気に順位を落とし続けている一人である。
「私も心配です……」
ラーシュは、前回五位と好成績だったのだが、慢心どころか心配していた。
「おいおい、うちの上位陣がそんなに心配していたら、他の生徒にも影響あるから自信持ってくれよ?」
ランスがラーシュの背中をポンと叩くと励ます。
「そうだよ、みんな。留学組には悪いけど、僕達も学園の生徒として意地を見せて上位を守ろう!」
リューもサイムス達の自信満々な姿に、弱気なクラスメイト達を励ますのであった。
そして、テスト結果発表当日。
結果は以下の通り。
一位イエラ・フォレス
二位リュー・ミナトミュラー
三位リーン
四位エリザベス・クレストリア
五位サイムス・サイエン
六位イバル・コートナイン
七位ノーマン
八位ラーシュ
九位ナジン・マーモルン
十位シズ・ラソーエ
十一位アリス・サイジョー
十二位ランス・ボジーン
十三位シン・ガーシップ
十四位スード・バトラー
・
・
・
十八位エマ・ノーエランド
「「「そんな馬鹿な……!?」」」
リューをはじめ、ほとんどの上位を狙っていた生徒達は、想像の順位よりも下だったことにショックを受けてがっくりと膝をついていた。
「……忘れてた……。今回はイエラさんがいることを……!」
リューはイエラ・フォレスが強力な『認知阻害』能力を持っていたから、忘れないように気を付けていたつもりであったが、いつの間にか完全にノーマークになっていた。
これには、リューはおろかリーンも驚きであったし、イエラ・フォレスの正体を知らないランス達も一番ありえないと思っていた上位陣が全員順位を下げるという前代未聞の出来事に唖然とするのであった。
「「「イエラ・フォレスって誰?」」」
と言うのが、他所のクラスの生徒達の感想だったし、同じ隅っこグループであるランス達もつい忘れていた存在であったから、二年の生徒達はこの結果によりリューとリーン、リズ王女の順位が下がったことで大騒ぎになる。
「なんてことだ……。リュー殿を一位から引きずり下ろすのは我々だと思っていたのに……。この私でも五位とか穴があったら入りたい……。というかイエラ・フォレスって誰だ……!」
留学組の最高位はサイムス・サイエンの五位だったから、大口を叩いてこれは恥ずかし過ぎると赤面するしかない。
「前の学校では四年生でサイムスに続いて二位だった俺が十三位!? この学園はレベルが高すぎないか!? というかイエラ・フォレスって誰だよ!」
シン・ガーシップは上位五位以内に入ると思っていたから、ショックより驚きが勝ったのだが、その中で一位を奪っていった謎の人物にツッコミを入れる。
「今回も十位以内を狙っていたのに! 逆に下がってるよ……! というかイエラ・フォレスって、うちの班じゃん! 忘れてた!」
ランスも自分の順位が下がったことにがっくり来ると同時に、忘れていたクラスメイトを思い出すのであった。
各生徒、テスト結果に対していろんな思惑があったのだが、全員が必ず思ったのが、「イエラ・フォレスって誰!?」であったのである。
そのイエラ・フォレスはというと、
「……しまったのう……。ついあのリューのレベルに合わせてテストを受けたら一位になってしまった……。目立つつもりは全くないのだが……」
と内心ぼやいていたことは誰も知らないのであった。
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あとがき
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興味がある方、詳しくは下のリンクから近況ノートへGO!✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*
https://kakuyomu.jp/users/nisinohatenopero/news/16818093080200896760
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