第648話 人材の引継ぎですが何か?

 ノーエランド王国留学生一団の一人ノーマンは、リューに何度も勧誘を断っていたが、離れ離れになっていた妹ココの世話をしてもらったことにより、遂に折れてリューの部下になることを承諾した。


 これは当然ノーエランド王国側のエマ王女達にも話を通しているので、大した問題にはならない。


 強いて言えば、エマ王女の護衛役としての任務があるのだが、それはあくまでも留学資金の為の対価としてノーエランド王国側からの提案で契約は結ばれており、リューがそれを肩代わりすることで、それも、契約破棄は可能であった。


 すでにノーマンの妹ココもリューが引き受けていたので、ノーエランド王国側は契約の一部である留守中の妹の世話というのも無くなっており、お互い問題なく契約は打ち切ることになりそうだ。


 ただ、エマ王女の護衛は現在、サイムス・サイエン、シン・ガーシップ、アリス・サイジョー、ノーマンという学生身分の四人で行っていたので、残りの三人の負担が増えることになるから、リューの好意でノーマンを今後も付けるということでお互い納得することになった。


「リュー殿、これからよろしくお願いします……」


 ノーマンは学園の空いている一室でリューに頭を下げた。


 その背後にはエマ王女殿下とサイムス・サイエンら一行が並んでいる。


「ノーマン君、硬いって! ──エマ王女殿下、改めまして、すみません。国を跨いで引き抜くような形になって」


 リューはすでに話を通しているが、改めてエマ王女に頭を下げた。


「いえ、リュー様からは何度も話を頂いていましたし、手紙でも答えた通り、ノーマンは国を代表する留学生の一人ではありますが、国の所有物ではないので就職先をどこに決めるのかは自由です。それに、それがお世話になったリュー様のところなら、我が国の面子は保たれると思っていますので、一切問題はないです」


 エマ王女はこれまでの経緯を鑑みて問題ないことを笑顔で応じた。


「それにしても、リューの旦那も人が悪いぜ。俺やサイムスじゃなく、ノーマンとはさ」


 シン・ガーシップが、笑ってリューとノーマンに茶々を入れる。


「いや、ノーマン君と違って君達、しがらみ多いじゃん!」


 リューは宰相の息子サイムスと海軍総帥の息子シンという肩書のある二人に対し、ツッコミを入れる。


「その通り! これがサイムス様、シン様だったら、即刻外交問題ですわ!」


 最年少十一歳のアリス・サイジョーが、興奮気味に金髪巻き毛をかき上げて指摘した。


「我が国がお世話になっているリュー殿相手だから、大目に見られることだと思ってもらいたいです」


 眼鏡をくいっと上げて、サイムス・サイエンが警告する。


 どうやら、サイムス・サイエンはノーマンを評価しているのか、他国の貴族の配下になることが国家の損失と考えているようだ。


「はははっ……、本当すみません」


 リューは苦笑して、お詫びする。


 と言っても、リューはそれで済むのならいくらでも頭を下げる気でいた。


 良い家臣が頭を下げるだけで手に入るのなら、安いものである。


「面子なんて、いいじゃない。ノーマンと妹のココちゃんもこの国で一緒に居られて幸せなんだし、あのまま孤児院にいたら不幸だったわ。それを考えるとリューの下に来て正解だったと思うのだけど?」


 リーンは核心を突く指摘をした。


「「「うっ……」」」


 これにはサイムス・サイエン達も言葉を詰まらせる。


 ノーマンの妹ココの待遇について、本国で問題が発生していたことを聞かされたからだ。


 ココは孤児院で特別扱いされたことにより孤立し、いじめにあっていた。


 それに対処することなく放置されていたのだから、耳が痛いだろう。


「まあ、全て問題解決ということで」


 リューはノーマンに笑顔でそう告げる。


「これからは、リュー殿の為に生涯をかけて尽くします……!」


 ノーマンは言葉の抑揚こそ淡々としているが、その言葉の端々にはリューへの感謝と忠誠心が滲み出ていた。


「はははっ、そんなに硬くならなくていいから。それじゃあ、これからお願いね。──そして、最初の仕事は日中のエマ王女殿下の護衛の継続、それでいい?」


 リューは今度は上司として仕事内容を再度確認する。


「もちろんです」


 ノーマンは迷いなく承諾した。


「これでノーマンは休日や下校後の時間は自由になったわけか。羨ましいな」


 シン・ガーシップが茶化すように言う。


「うふふっ。シンも望むなら、そうしていいのですよ?」


 エマ王女が冗談か本気かそう応じる。


「じょ、冗談ですよ! 俺は姫様を守る為にこの異国までサイムスと一緒に来ることを決めたんですから!」


 シンは慌ててそう答えた。


「シン、俺の名を出すな! ──ですが、姫様。確かに王家から留学の打診を受けましたが、姫様の護衛を兼ねていたからこそ承諾したのです。我々は姫様を護衛できることを誇りに思っております」


 サイムス・サイエンはそう言うと恭しく頭を下げる。


「皆様、ありがとう。──ノーマンもリュー様の部下としてこれからも護衛を頼みますね」


 エマ王女はそう言うと、引き続きこの頼れる人物にお願いした。


「はい、これまでのご恩もお返しするべく、護衛の役目を今後もしっかり果たします」


 ノーマンはエマ王女に深々と頭を下げるのであった。


 こうして、両者の間でノーマンという人材の引継ぎが無事行われ、リューの部下になった。


 このノーマンもリューの部下としてイバル、スード、ラーシュ同様、同年代の優秀な部下として活躍していくことになるのである。

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