第647話 兄妹の再会ですが何か?
リューはノーエランド王国からの留学生であるノーマンの妹ココを、孤立していた孤児院から引き取り、一旦ランドマーク本領に預かってもらうことにした。
その間に、王都の一角にココの為の住まいを用意し、仕事や勉強の世話の準備を行う。
ノーマンには驚かせる為に秘密にしているが、すでに留学生の責任者であるテレーゼ女男爵に話を通しているから、問題はない。
そう未成年であるこの兄妹の管理は国であり、その国から管理を任されているのが現在テレーゼ女男爵ということである。
リューはこの準備を一通り行ってから、ランドマーク本領に『次元回廊』を使用してココを迎えに行った。
すると、ココはすっかりランドマーク家の家族と仲良くなっており、特に妹のハンナとは友人としてかなり親しくなった様子である。
ハンナのペットであるムササビデビルのサビもココになついており、二人の頭上を飛んで移動していた。
「ココちゃん、迎えに来たよ。すっかり、うちの家族に溶け込んでいるね!」
「あ、若様! よ、よろしくお願いします!」
ココはリューが周囲からどう呼ばれているのかをハンナに聞いて、『若様』に決めたらしく、ハンナと目配せをして答える。
その足元にはノーエランド王国から来た時よりも荷物の量が増えていた。
どうやら家族のみんなが色々と持たせてくれたようだ。
そんな中、ハンナはサビを頭に乗せたまま、ココと笑顔でお別れを告げていた。
父ファーザや母セシル、兄タウロ、エリス夫妻、祖父カミーザに祖母ケイ、執事のセバスチャンに助手のシーマまで揃ってココを外まで見送りにきていたから、ココが数日の間にランドマーク家の家族にいかに可愛がられていたかがわかるというものである。
「リュー、ココのことはしっかりあちらで面倒みるのだぞ?」
父ファーザがみんなを代表して、そう告げる。
「はははっ、もちろんだよ。あちらでの住まいと職場、あとは勉強できる環境をしっかり整えたから問題ないと思う。兄ノーマン君の住まいとも近いし」
リューは家族がすっかりココ贔屓になっていることに、笑って応じた。
家族達はお別れということで、ココにみんなが声をかける。
その中でも妹のハンナは、この出来たばかりの親友と抱き合うと、
「ココちゃん、会いたくなったら、リューお兄ちゃんにお願いして会いに行くから!」
と熱い気持ちを伝える。
「それじゃあ、ココちゃん、王都に行くよ」
リューはそんな家族の熱の入り方に、微笑ましいものを感じながら、手を差し出す。
ココは少し恥ずかしそうにその手を握ると、空いた手でランドマーク家のみんなに手を振ってから荷物を手にし、リューと共に王都ランドマークビルまで一瞬で移動してしまうのであった。
「やっぱり凄いです……」
ココは改めてリューの『次元回廊』に感嘆の声を上げる。
「それが、僕の得意分野だからね。あ、ハンナと友達になってくれてありがとうね。それでは新たな住まいに案内するよ」
リューは笑顔でココに応じると、待機していた馬車とリーンと共に、新たな住まいへと移動するのであった。
移動した先は、留学生一団の住むミナトミュラー商会ビルの目と鼻の先にある同じミナトミュラー商会管理の大きな平屋で現在そこは小さく部屋を仕切られ商会で働く従業員達の住居となっている。
その一室にココを住まわせることになった。
最初はちゃんとした立派なところに一室を用意しようとも考えたのだが、あまり特別扱いしてしまうと孤児院の時と同じになるし、それを思い出して良くないかもしれないと判断した。
新たな住居は商会の従業員達が和気あいあいとしているところで、家の前はすでにリューがやってきたことで騒がしくなっている。
「若様、おはようございます! そちらのお嬢ちゃんがここに引っ越してくる子ですね?」
女性従業員が挨拶すると、ココを見て笑顔で理解した。
ココは、これまでノーマンと二人助け合いながら生活を送り、ノーマンが留学後は孤児院で特別扱いされたことでいじめられるという寂しい思いをしてきていたから、この騒がしさには少しびっくりした様子である。
しかし、ランドマーク家滞在での雰囲気を思い出したのかすぐ笑顔になり、
「ココです! これからよろしくお願いします!」
と女性従業員をはじめ、他の住人達にも挨拶をする。
「若様、大人しい子だって聞いてましたけど、元気に挨拶ができるじゃないですか。──ココちゃんの部屋に案内するよ、ついてきな」
女性従業員は、リューに頭を下げると、ココについて来るように促す。
「はい!」
ココは返事をするとリューとリーンに頭を下げると両手いっぱいの荷物を持って女性従業員の後を追っていくのであった。
「数日様子を見て、慣れてくれたらこのまま。慣れることができなかったら、また、考えようか」
リューはココの背中を見送りながら、リーンにそう告げる。
「大丈夫じゃない? すっかり最初の時とは見違えるくらい印象が変わったわ。この数日間本家で何かあったのかしら?」
リーンがリューに聞く。
「家族がココを大歓迎してくれたみたいだからね。それにハンナとは親友になったのも大きいのかもしれない」
リューは笑ってリーンの疑問に答える。
「心強い友人や家族が出来て、心にゆとりが生まれたのね。その気持ちわかるわ」
リーンはリューの説明ですぐに納得した。
「それじゃあ、明日の朝はノーマン君を驚かせるとしようか!」
リューは笑うと、明日の登校時間を楽しみにするのであった。
ノーマンはいつも通り、エマ王女の護衛として朝から登校準備を誰よりも早く済ませると、住まいの三階から一階に下りていった。
そして、待機している通学用の馬車の確認をし、一階にあるミナトミュラー商会のお店の従業員達に朝の挨拶をするのが日課である。
「みなさんおはようございます」
ノーマンはいつも通り、抑揚のない挨拶をすると、店先の従業員達が元気よく挨拶を返す。
「お、そうだ。うちの店に新入りが入りましてね? これから毎朝、顔を合わせることになると思うので、よろしくお願いしますよ。──おーい、新入り! 若様の客人に挨拶しておきな!」
「はい!」
お店の奥から声がすると、小さい子が下を向いたまま出てくる。
ノーマンはその姿を見て妹に年齢の近い子供だな、と思いながら、顔だけ覚えておこうと思い、相手の顔が上がるのを待つ。
「ここで今日から働くことになったココです。よろしくお願いします!」
そう挨拶をしてから、ようやくここでノーマンに見えるように顔を上げた。
ノーマンは妹と同じ名前に少しはドキッとするのであったが、まさか遠く離れたこの異国の地にいるとは思わない。
「ノーマンです。よろしくお願──」
挨拶の途中でココの顔を見たノーマンは言葉に詰まり固まる。
当然ながらノーマンは混乱していた。
妹にそっくりだと思ったからだ。
名前もココで一緒だし、まさか同名のそっくりな子がこの国にもいたのかと錯覚する。
「ノーマンお兄ちゃん、これからは近くにいられるね!」
ココがそこで嬉し涙を浮かべて笑顔でそう告げる。
そこでようやく間違いなく妹ココなのだと理解した。
「え……? 何で……? ココ、何でここにいるんだい!?」
ようやく本人であることを理解したが、遠く離れた土地からここにいる理由がわからないので、ノーマンの混乱は続く。
「若様──、ミナトミュラー男爵様がお兄ちゃんの近くで一緒に暮らせるように手配してくれたの」
ノーマンの疑問に対し、ココは笑顔で答える。
その瞬間、普段淡々としているノーマンはそこで全てを理解すると涙を浮かべ思わずココを抱きしめた。
「そうか、そうなのか……! それはお礼を言わないといけないな……! ──ココが元気そうでよかったよ……!」
ノーマンは嬉し涙を浮かべる妹の笑顔を見られたことに安堵するのであった。
「感動の再会だね」
二人の様子を笑顔で見つめるリーンにリューはそう言う。
「良いことしたわね。それじゃあ、これ以上盗み見するのは野暮だし、ちょっと早いけど学校に行きましょう?」
リーンはそう言うとリューの制服の裾を掴んで馬車に乗り込むように促す。
リューは素直にリーンの言葉に従うと、馬車に乗り込んでこの場をあとにして、学校へと向かうのであった。
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