第642話 家族での会話ですが何か?

 ある日のこと。


 リューはリーンと共に、いつもの日課として、朝一番でランドマーク本領に『次元回廊』を使用して訪問していた。


 いつも通り家族に挨拶し、自宅城館の傍にある大倉庫に積んである荷物を回収する。


 倉庫の前で父ファーザに母セシル、兄タウロに妹ハンナと少し話をすると、王都に戻って荷物をランドマーク商会の従業員に引き渡してから学校に通うのだが、この日は倉庫の前での話が少し盛り上がった。


 というのも、


「村長たちから嬉しい報告があってな、今年はかなり大豊作になりそうだ」


 と父ファーザが荷物を次々に回収するリューの背中にそう報告したのだ。


「へー? そんなに豊作なの?」


 仕事中のリューは背中越しにファーザに聞き返す。


「過去一番なのは確かだろうな。小麦はもちろんのこと、コヒン豆やカカオンだけでなく魔境の森果樹園の作物全て大豊作なんだ」


 荷物を回収し終わったリューは、父ファーザの方に振り返ると、予想以上の収穫が本家に見込めそうな話なので興味を持った。


「これまでのやり方が実を結んできたのかしら?」


 リーンが不思議そうに問う。


「どうなんだろうな? 夏休み前まではいつもの育ち方だったらしいんだが……。あ、他にはこれも不思議なんだが……、実はうちの領地の治療院からの報告で、最近、病人の直りが早いらしい。怪我も自然治癒での直りが結構早いらしくてな。軽傷なら魔法治療要らずなので、「最近暇を持て余して困っています」なんて愚痴っていたよ」


 父ファーザも理由がわからず首を傾げる。


「リューを見ていてふと思い出したんだけど、以前、リューが話していた加護が関係しているんじゃないかな?」


 長男タウロが疑問が解けたかもしれないとばかりに指摘した。


「あ、忘れてた……。そう言えば皇帝竜・黄龍フォレスにこの領地に対して加護を貰ったんだっけ!」


 リューは大事なことを、また、忘れていたとばかりに驚きながら応じる。


「……本当だわ。私も忘れていたわ……。なんだか黄龍フォレス関連って忘れやすくなっているわね。……やっぱり、『認識阻害』系の力が働いている気がする……」


 リーンもリューの従者として大事なことはしっかり覚えているはずなのに忘れがちになっていることを悔しそうにした。


「……ということは、豊作や不思議な現象は黄龍フォレスのご加護ってことなのか!  とてもありがたいことなのに、記憶が薄いのは残念だね。それにしても、タウロお兄ちゃん良く気づいたね」


 リューは認識阻害が働いていると思われる中、タウロが気付いたことに感心した。


「実は僕もさっき自分の日記を読み返すまで忘れていたんだよ。エリスと結婚式の日の日記を読んでいた時にふとその前のことを読み返して気づいたんだ」


 タウロは思い出したのは偶然だったことを伝える。


 ちなみに、エリスとはベイブリッジ伯爵の元令嬢で、現在、長男タウロの妻である。


「お兄ちゃん、日記書いてたんだね? でも、そのお陰でまた、僕も忘れかけていたことが思い出せてよかったよ。──黄龍フォレスはどうやら周囲に自分の存在を忘れさせる能力を持っているのかもしれない……。僕も日記書こうかな、忘れたくない存在だし」


 リューは長男タウロに感謝しつつ、自分も日記を書こうと考える。


「私は日記に書かなくても、ほとんどのことは覚えていられる自信があったのだけど……、それはリューに任せるわ」


 リーンは面倒臭いと思ったのか、日記を書くという案は拒否するのであった。


「だが、そのお陰でうちの領地の収穫量は大幅に増しそうだからな。黄龍フォレス様には感謝しないといけない。これも元はと言えばリューのお陰なんだが……。──よし、セバスチャンに相談して今年の豊穣祭の山車だしはリューと黄龍フォレス様の対決シーンを追加しないといけないな」


 父ファーザは真面目な顔でそう告げる。


「やめてよ、お父さん! あれは黄龍フォレスの昼寝を僕が邪魔した事が原因の喧嘩なんだから、それを題材に取り上げられたらどっちも恥ずかしいだけだよ!」


 リューは慌てて父ファーザの案を止めに入る。


「それなら、黄龍フォレス様単体だけでも山車を作ろうよ。その加護があって豊作にもなりそうなんだし、感謝の為にも忘れないように山車を作って形にするのは大事だと思うよ」


 長男タウロが父ファーザの案に多少の修正を入れる提案をした。


「それならいいかも。記録と記憶に残す為の山車なら僕も賛成!」


 リューもここで山車を作ることに賛同する。


 父ファーザもリーンも賛成したので今年の豊穣祭のトリは黄龍フォレスになりそうであった。



「あ、やばい! 結構時間経ってる!? リーン、早く戻って学校に行くよ! ──じゃあ、お父さん達、行ってきます!」


 リューはリーンに手を差し出し掴むと、家族に挨拶も早々に『次元回廊』で王都に戻る。


「やれやれ……。リューの奴は『次元回廊』の性能上昇で、一度行ったところは出入り口を作っていなくても行けるのだろう?」


 父ファーザが妻の母セシルに確認した。


「でも、一日に一回しか使用できないみたいだから、緊急時とか大事な場面でしか使わないみたいよ。学校へ遅刻する時に使う子じゃないわ。ふふふっ」


 母セシルは夫の言葉にそう指摘すると、その腕を取って自宅の城館に二人で戻っていく。


「はははっ。お父さん達は相変わらず仲いいよね」


 長男タウロは傍にいた妹ハンナに笑って尊敬する両親の仲睦まじさを嬉しそうに聞く。


「『夫婦はそんなものよ』ってお母さん言ってたよ。それにそれはタウロお兄ちゃんも一緒じゃない」


 ハンナは長男タウロの言葉に、不思議そうに答える。


「はははっ、確かにね! ──まあ、僕達夫婦はお父さん達を見習っている最中だよ。夫婦仲良く、喧嘩をしてもすぐに謝る。それが秘訣だとお父さん達から学んだよ」


 どうやら、タウロは新婚だが喧嘩も早速したようだ。


 そして、謝ることの大事さを、教えてもらったらしい。


「それは、ハンナにもわかるかも。お父さん、いつもお母さんに謝っているもの」


 ハンナは納得したように頷く。


「ハンナ、多分、いつもじゃないからね? お父さんの名誉の為にもそれは注意しておくよ」


 長男タウロは尊敬する父親をしっかり? 擁護すると、ハンナと共に城館に戻っていくのであった。

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