第633話 三回戦ですが何か?

 三回戦のほとんどは順当にリーン、シズ、ナジン、イバル、そして、留学生で十一歳で飛び級進学した才女アリス・サイジョーが勝ち上がった。


 それぞれ圧勝に近い試合が多かったが、それはそれで観戦者達も納得の試合であったから、不満は生まれていないようだ。


 それどころか三回戦最後の試合が、一番の好カードという評価になる。


 それは、リューVSノーマンの試合であった。


 リューはノーマンの才能が未知数であったから、どう戦おうか迷うところであったが、自分の部下として勧誘していることもあったので正攻法で戦うことにした。


 それは無詠唱の下位魔法を無数に放つ力攻めだ。


 リューの長所は無詠唱でいろんな魔法を発動できること、さらには膨大な魔力が、最大の武器であるから正しい選択だろう。


 対戦相手にしてみたら止めてほしい選択ではあるのだが……。


 そんな無慈悲な攻撃にノーマンは為す術もなく敗退してもおかしくないところであったが、そこはノーエランド王国から平民でありながら留学生の一人として選ばれた人物である。


 リューの土魔法による間断の無い石礫攻撃を魔法で防ぐことはせずに自力で躱し、その間に魔法を詠唱し始めた。


 これには、観戦者もその軽快な身の動きに、


「おお! あの石礫の雨を躱せるのか!?」


「剣術大会でも地味な戦い方ながら上位進出していたので注目はしていたが、これほど動けるのか!」


「彼はノーエランド王国からの平民の留学生か! それならば条件次第でうちで雇えないか?」


 と感心の声が沢山あがる。


「動きは合格。でも、魔法はまだ無詠唱とはいかないのか」


 リューは攻撃の手を緩めず、さらに石礫の量を増やした。


 その瞬間である。


 ノーマンの魔法詠唱が終わり、魔法を発動した。


「『岩火砕流!』」


 それはなんと、中位の土と火の混合魔法だったのである。


 これは当然ながらリューの下級魔法である石礫を上回る威力であり、それらを呑みこんでリューに襲い掛かった。


「うわ!? 口では火魔法を詠唱しながら、土魔法は無詠唱で発動したのか! やるなぁ! ──それなら、『大岩障壁』!」


 リューは無詠唱で発動した防御魔法でノーマンの火に包まれた岩の雪崩を防ぎ切る。


 しかしそれはノーマンにとって、最初から狙っていたことであった。


 というのも、ノーマンの目的はリューとの視界を一旦切ることにあったからだ。


 ノーマンはその間にリューとの距離を詰めながら、無詠唱で火魔法を発動直前の準備をする。


 そして、至近距離でとっておきの火魔法でリューのポイントを一気に削る算段だったのだ。


 ノーマンはリューの『大岩障壁』の右から回り込み、リューを視界に捉える前に発動する。


 確認してからでは遅いくらいだと考えていたからだ。


 ノーマンが中位の火魔法を発動し、このタイミングなら反応できないだろうと確信した時であった。


「い、いない!?」


 ノーマンはすでに魔法を発動していた為、火魔法を止められず、リューのいるはずだった場所を焼いて溶かすことになる。


 その背後で、


「残念! 狙いは悪くないけど、同じことを僕も右回りで考えていたんだよね!」


 とリューがノーマンの背後まで高速で回り込みそう告げる。


「くっ!」


 ノーマンは反射的に振り返りながら下位火魔法を無詠唱で発動させた。


 それが最速の反撃方法だったからである。


 それだと、僕の方が一歩早い!


 リューは内心でそう告げつつ、同じく無詠唱で中位の雷魔法を発動し、雷がノーマンを襲う。


 ノーマンは、下位の火魔法を発動直前で、減点ポイントを一気に加算され、魔導具が負けを示す。


「そこまで! 勝者ミナトミュラー選手!」


 審判がすぐに止めに入り、勝敗を決するのであった。


「……参りました」


 ノーマンはどういう心境であったのかリューというノーエランド王国の恩人にもあたる貴族相手に本気を見せてくれていた。


 これまでなら、自国の貴族や関係者相手なら気を遣って負けを選択したであろう彼がである。


「やっぱり僕が睨んだ通り、君はかなりの才能の持ち主だ。剣も魔法もいいし、その場の判断もなかなかだった。僕に対して本気で挑んでくれたのも、嬉しかった。ノーマン君、改めて君に聞くよ。僕のところに来ないかい?」


 リューは、その場に座り込んでいたノーマンに手を差し出し、立ち上がらせながら再度の勧誘をした。


「もう少し考えさせてください……」


 ノーマンはリューの誘いに抗うように言葉を絞り出す。


「ふふふ。僕は諦めないよ。ノーマン君」


 リューはニヤリと笑みを浮かべると、ノーマンの背中をポンと叩くと、手を挙げて勝利宣言とし、控室へと戻っていくのであった。



 控室に戻るとリーンが待っていた。


「また、フラれたわね」


 リーンがクスクスと笑ってリューに声をかける。


「彼の性格も才能もうちに向いていると思うんだけどなぁ」


 リューはリーンに苦笑しながら、そう告げる。


「そうね。彼なら表でも裏でもやっていけそうな気がするわ」


 リーンもリューに賛同する。


「次は攻め方を変えて、今度は外堀を埋めていこうかな」


 リューはノーマンがもう一押しという手応えがあったから、そうリーンに答えるのであった。

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