第632話 二回戦ですが何か?
注目カードであるリーンVSリズ王女は、白熱したものになった。
リズ王女が開始と同時に自分の得意な光魔法を駆使して速攻に出たからだ。
リーンは無詠唱で土魔法による防壁を作って対処するが、リズ王女の光魔法は当然ながらその攻撃の速さは沢山ある魔法の中でも随一だったから、リーンであっても反撃する時間を与えなかったのである。
「やるわね、リズ! 土魔法による防壁も光魔法と相殺されて、使い続けなくてはいけないから、反撃が難しいもの」
リーンは無詠唱でリズ王女の攻撃を全て防いでいるから、感心する。
本当ならもっと無詠唱で強力な防御魔法も使えるのだが、発動が少し遅れるから、光魔法に対すると若干不利になるからだ。
だが、その口ぶりにはまだ、全然余裕がある。
「……でも、それは他の出場者が相手の場合の話。リューや私なら下位魔法でも強力なものにすることは可能なのよ?」
リーンはそう言うと、先程から光魔法と相殺される土魔法の防壁をまた、発動した。
すると、リズ王女の光魔法を一つの防壁で数発防ぎ始める。
「え!?」
リズ王女もこれには、驚くしかない。
先程まではお互い一つの魔法同士で相殺されていた。
それが、リズの魔法は最低でも三発分でようやくリーンの一つの魔法しか相殺できなくなったからだ。
こうなると、リズ王女の前回大会でも見せた必勝パターンである反撃の糸口を与えず、勝利するという戦法は成立しなくなった。
リーンはいくつかの防壁を無詠唱で自分の前に作ると、同じく無詠唱で発動が少し遅れる風魔法をその陰から放つ。
リズ王女はそこで初めて攻撃の手を休め、その風魔法を防ぐ為に防御魔法を唱える。
リーンの風魔法はリズ王女に直撃する前にギリギリ防御魔法が間に合い防いだ、はずだった。
だが、その威力が強すぎてリズ王女にダメージが入る。
「おお!? 王女殿下の光による防御魔法を越える威力の風魔法だと!? なんて威力をしてやがる!」
「魔導具に減点ポイントが入ったな。王女殿下の残りポイントは!?」
「次も来たら耐えられるのか!?」
観戦者達は一様に、この戦いに息を呑み驚く。
勝負の行方が分からなくなってきたからだ。
そして、観戦者のほとんどが、上から観ている為、リーンの攻撃がその一発だけでないことに気づいた。
「「「あ!」」」
と観戦者達から声が上がる。
リズ王女からは防壁により死角になっていたから、リーンが仕掛けた立て続けの攻撃魔法に気づくのが少し遅れた。
リーンは風による攻撃魔法は一発ではなく三発、四発と繰り出していたのだ。
リズ王女はそれを防ぐことが出来ず、立て続けにその魔法はリズ王女に吸い込まれていき、ダメージを与えていくのであった。
腕に付けてある魔導具の腕輪は、減点ポイントの立て続けの加算ですぐにリズ王女の負けを判断する。
「……勝者、リーン選手!」
審判はリズ王女の腕輪をすぐに確認して勝敗を告げた。
「「「おお!」」」
これには観戦者達も地響きのような声を上げて驚く。
そして、歓声を上げてその試合を称える。
結果はリーンの圧勝になるが、途中まではリズ王女の善戦が光るものだったからだろう。
リズ王女は、はっきりと実力差を痛感させられる負けに清々しい表情でリーンと握手を交わす。
「完敗よ。リーンったら、この会場に強力な結界が張ってあるから容赦ないのね。うふふっ」
リズ王女は試合前に張られた強力な結界のことをわかっていたので、そのことと一緒にリーンを評価した。
「この結界のお陰で友達相手に中途半端な手加減をせずに済んで良かったわ。ふふふっ」
リーンもリズ王女にそう応じると、一緒に笑う。
その姿に、また、観戦者達は拍手を送るのであった。
その後も好カードは続く。
イバルVSラーシュ戦がそうだ。
イバルは前回大会からさらに急成長を続けており、その全魔法に対する特性を持つという強みを生かしてラーシュに対した。
ラーシュの得意魔法は風、水で、序盤に前回大会でシズがリズ王女に使用した、生活魔法『水』での相手の顔を水没させるという戦法を使用してきた。
もちろん、イバルはリズ王女VSシズ戦を前回観ていて、初見ではないからすぐに上着で水を拭って対処する。
ラーシュは二年生からの転入で、前回大会のシズの戦いを知らなかったから、冷静に対応されたことに驚く。
「ラーシュ、その戦法は前回大会でシズが使ったものなんだよ」
イバルが、驚くラーシュにタネ明かしをする。
「そ、そうなんですか……!?」
ラーシュはまさか自分で考えた奇策がすでに使われたものだと知ってまた、さらに驚く。
イバルはその隙を突いて下位の火魔法を無数にラーシュに放った。
当然ながら無詠唱だから、観戦者達からは、
「「「おお!」」」
という驚きの声が上がる。
だが、ラーシュも奇策が不発に終わってからの判断が早かった。
すぐに、同じく下位の水魔法でイバルの火魔法を相殺し、立て続けに風魔法を繰り出す。
「ラーシュ、慣れてるな!」
イバルは、ラーシュがかなり練習してきたのであろう、テンポの良い攻撃に感心すると、土魔法の防壁で風魔法に対抗して相殺し、その防壁の陰から火魔法、水魔法、土魔法、風魔法と立て続けに放った。
これにはラーシュも、
「その数はずるいです!」
と文句を言いながら水魔法による障壁と風の防風壁で応じるのだが、イバルはそれに対して雷魔法を使用する。
雷魔法を使用できる者は当然ながら少なく、勇者の得意魔法として有名なのだが、イバルはリュー経由でその魔法特性のお陰で使用できるようになっていたのだ。
当然ながら威力はまだまだだが、それでもポイント制の勝負の中で少しでもダメージを与えれば蓄積されて有利になる。
ラーシュの腕輪も当然、そのダメージを確認して減点されていく。
「くっ……! ならば!」
ラーシュはそこで何を思ったか、イバルに接近戦を挑む。
これには、イバルも不意を突かれた形である。
ラーシュはゼロ距離で魔法を当てればイバルの七色の魔法でも対応できないと考えたのだ。
その作戦は功を奏して下位水魔法の攻撃を一発ヒットさせ、ポイントを稼ぐ。
しかし、そこはリューの下で実戦を重ねているイバルである。
怯むことなくラーシュに雷魔法を自爆覚悟で放つ。
これにはラーシュが思わず怯んだ。
ダメージを受けて両者ポイントが減点されるが、当然ながらラーシュの方が減点は多い。
そして、つい後ろに下がって手が止まったのだが、これが敗因であった。
イバルは火魔法を連射して放つとラーシュはそれを躱すことが出来ずに、減点ポイントが溜まり勝負がつくのであった。
「勝者、イバル・コートナイン選手!」
審判が興奮気味にイバルの勝利を宣告する。
「「「わぁ!」」」
観戦者も興奮気味に声を上げた。
「今の試合、ヤバかったー!」
「紙一重の攻防だったからな!」
「自爆覚悟の雷魔法には鳥肌立ったぜ!」
観戦者達は、息もつかせぬこのギリギリの戦いに惜しみない称賛をするのであった。
「ひゃー。イバル君、絶対、実戦でもあんなことしてるよね? 迷いがなかったもの」
「ラーシュも奇策が不発になった後の対応が早くて良かったわよ。あとはやっぱり経験の差かしら」
リューとリーンもこの試合を大いに評価して、二人を控室で出迎えるのであった。
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