第631話 無事開始ですが何か?

 何者かによる会場の結界の張り直し、舞台の修復、魔導具の強化がなされている間に、対戦表が少し遅れて闘技場広場前に張り出された。


 急遽、シード無しで全員くじ引きでの対戦表であるから、都合上不戦勝で二回戦に進む者は八名でてくることになっている。


 その中に、これも運だろうか? 不戦勝での二回戦出場枠にリューとリズ王女が含まれていた。


「運も実力のうちっては言うけど、リューとリズの二人は……、確かに強運持っていそうだよな」


 友人のランス・ボジーンが対戦表を確認して、そうぼやいた。


「それもだが、結局、リューとリーンの二人は出場できることになったのか?」


 そこに、シズ・ラソーエ侯爵令嬢の幼馴染であるナジン・マーモルンが桁違いの魔力の持ち主であるリューとリーンの二人が出場することに驚いて疑問を口にする。


「……ナジン君。さっきの強力な結界が張られ、会場の尋常じゃない修復速度を見たでしょ? 宮廷魔法士団の人達が本気出したんだよ」


 シズは先程感じた強力な魔法に感心してそう指摘した。


 リューはその言葉に内心で、


 宮廷魔法士団関係者も心当たりがないんだよなぁ。


 と苦笑しながらツッコミを入れるのであった。


 そんなリューを見て何かを察したイバルは、


「とにかくこの結界のお陰でリューとリーンは無事参加できるわけだが、リーンの初戦は留学生のサイムス・サイエンだぞ。いきなり注目カードだな」


 と話を対戦表の内容にみんなを注目させた。


「それな! さらにはそのリーンとリズも三回戦で当たるぞ」


 ランスがイバルに同調する。


「リズさん、せっかく初戦が不戦勝なのにリーンさんとその次で対戦とは運が良いのか悪いのか、って感じですね……」


 同じ女性陣としてラーシュが残念そうにつぶやく。


「ラーシュも人のことを心配している場合じゃないわよ。勝てば二回戦で昨年ベスト4のイバルと対戦することになるんだから」


 リーンが対戦表を確認してラーシュのことを指摘する。


「……ナジン君はまた、剣術大会に続いて勝ち進めばリュー君と対戦だね」


 シズが幼馴染の対戦表を確認して少しからかうように言う。


「うっ……! シズはいいよな。目ぼしい相手は、準決勝まで当たらないみたいだから」


 ナジンはシズの言葉に、ため息混じりにそう告げる。


「こうしてみると、シズ以外はみんな固まっているなぁ。イバルとラーシュの勝者は情報通りの実力なら留学生のアリス・サイジョーと準々決勝で当たり、勝ち進んでも準決勝でリューだろうな。リューのブロックには同じく留学生のノーマンと三回戦、そして準々決勝でナジンだろ。リーンは初戦で留学生のサイムス・サイエン、三回戦でリズ。準決勝で前回優勝のシズ辺りか。そして、決勝でリューとリーンという感じだな」


 ランスが、対戦表全体を見てそう予想した。


「まあ、試合は何が起きるかわからないし、予想はあくまで予想。しっかり、一戦一戦最善の結果を出せるようにがんばろう!」


 リューはそう言うと締め括る。


「「「おー!」」」


 その場にいた全員は、その言葉に声を揃えて返事をすると、結界、会場修復、魔導具の安全確認がなされた各々試合会場へと向かうのであった。



 初戦の注目試合は、何と言ってもリーン対留学生でノーエランド王国宰相の嫡男サイムス・サイエンだろう。


 そのサイムスはエマ王女の声援を背中に感じながら、気合いを入れていた。


「対戦相手のリーン嬢は模範演技でとんでもない魔法を連発していたから驚いたが、試合であんな大技はそうそう使えるものではない。それに、あれだけの魔法を使用しておいて、試合の時、疲れていないわけがない。これは好機だ。それに私はノーエランド王国の学生代表としてここにいるから油断はない。手数が出せる下位魔法で相手に魔法を使わせず、得意の水魔法で封殺してみせる!」


 サイムスは剣術で海軍大元帥の孫で友人であり好敵手のシン・ガーシップには劣っていたが、魔法では優っており、以前の学校では四年生の首席でもあったから、それなりに才能はあると自負していた。


 それだけにエマ王女の応援もあり、実力者であるリーンに負けるつもりはないのであった。



「──勝者リーン選手!」


 サイムス・サイエンは人生初めての完封負けを食らっていた。


「……この私が全く手も足も出ないとは……」


 サイムスは前のめりに膝をつくほどのショックを受けるのであったが、それと同時に、背後からエマ王女のサイムスに対する優しい言葉が投げかけられる。


「サイムス、胸を張って。今回は相手が悪かったわ」


「姫様……」


 サイムスはその言葉に救われた気がして、立ち上がる。


「さすが、リーンさん! やっぱりお強いですね!」


 だが、続けてエマ王女のリーンに対する黄色い声援が聞こえた。


「……!(姫様はあっちを応援していたのか!)」


 立ち上がった直後のサイムスは改めてショックでその場に膝をつくのであった。


「……サイムス・サイエン君、お気を確かに……」


 同じ控室にいたリズ王女が、それを見てなんとなく状況を把握し、その背中に慰めの言葉をかけるのであった。


 他の隅っこグループと留学生達は順当に初戦を勝ち進んだ。


 そして、続く二回戦も好カードである。


 一回戦で圧倒的な力を見せたリーンと初戦は不戦勝のリズ王女が対戦だからだ。


「これは凄い事になってきたぞ……」


「前回大会準優勝の王女殿下と模範演技と初戦で圧倒的な力を見せたエルフの戦いか……。これはどちらを応援すればいいんだ……!」


「実力的にはエルフ娘か……。だが、臣民としては王女殿下を応援せねば!」


「前回大会では、決勝戦で不覚をお取られになったが、実力的には王女殿下が圧倒的だった。だから今回こそ王女殿下がお勝ちになるさ!」


 観戦している魔法関係者や貴族達などは複雑な思いの試合であるが、注目の試合であることは確かであった。


 当然ながら、王家からの視察に来ているオサナ第四王子もそれは一緒で、腹違いの姉リズ王女を応援しているが、対戦相手が強敵であることは初戦を見てわかっており、複雑である。


「姉上はどう戦うのだろう?」


 オサナ王子は側近に聞く。


「王女殿下の光魔法はあらゆる魔法の中でも攻撃速度は最速の種類ですから、いくら相手が強いと言ってもあの速度で攻撃されると対応はかなり難しく、かなり良い勝負になると思います」


 宮廷魔法士団の隊長がそう分析を口にする。


「……うむ。それでは期待しよう」


 オサナ王子は、その言葉に頷くと、二人の試合を身を乗り出して観戦するのであった。

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