第628話 着々と進めていますが何か?

 リューは『王家の騎士』の称号を利用して、王家には直接ノーエランド王国訪問時の王族暗殺未遂の証拠となるいくつかを提出している。


 その一つが海賊が使用していた魔法大砲であり、このことについては王位継承権持ちのヤーボ第三王子やエリザベス王女の暗殺未遂、さらには王子の後援であるヤミーイ侯爵の死もあり、問題が深刻であったから、国王が直々に近衛騎士団諜報部に命令して密かに捜査をさせていた。


 その近衛騎士団諜報部とは現在、リューのミナトミュラー家は情報交換を行っている。


 ほとんどは魔法大砲関連のことで、リューの下に開発者のマッドサインがいるからではあるのだが、何度も情報交換を行っていると、それ以外のものも雑談程度にやり取りが増えていく。


 そこでリューはある情報を流すことにした。


「先日の魔法大砲の再調査の件、ご協力ありがとうございます。こちらの捜査状況はなかなか言えませんが、進展がありましたのでお礼を」


 近衛騎士団諜報部の隊員は、王都のとある建物の一室でそう言うと、マッドサインとの間に入っているランスキーの部下に謝意を述べた。


「いえいえ。我が主も陛下にご協力できるならとのことなので。お礼など無用ですよ。──あ、そう言えば、まだ、調査段階なのですが、最近、裏社会で噂になっている『屍』について、怪しい情報を得まして……」


「ほう? 確か王都周辺以外の各貴族領の裏社会で拡大しているという組織でしたよね?」


「ええ。そこがいくつかの幽霊商会を動かしているようなのですが、その一つが例の魔法大砲と関わりがあるようで、お知らせしておいた方がよいかなと……」


「なんと!? ということは王家襲撃事件の黒幕の一つにその『屍』が関わっているということに……?」


「こちらも物流の流れを調べていて浮上してきた情報なんですが、例のあの人(エラインダー公爵)との関係性があるとしたら、相当闇が深いのではないかと……」


「(ゴクリ)……それはこちらでも掴んでいない情報です……。それに例のあの人の近辺を調査していた間者は現在、ほとんどが失踪しており、調査継続が難しいのではないかと考えていたところなので、この情報は別の角度から調査するいい機会になります」


「その『屍』ですが、いろんな貴族領を跨いで勢力を伸ばしているので主であるミナトミュラー家のみで調べるのは難しく、ここはそちらに任せるしかないな、と」


「これだけの情報、こちらでも掴んでいないので大いに助かりますよ」


「そこでなんですが、王家の旗振りで王都周辺の『屍』一斉検挙を行うのはどうかと」


 ランスキーの部下は大胆な提案を近衛騎士団諜報部の隊員にした。


「……それはまた、大掛かりになりそうな案ですね……。ですが、王家襲撃に関わっている疑いがある組織ですから……、陛下に提案してみます」


 隊員は少し考え込むと、ランスキーの部下の提案について検討することを承諾した。


「あと、これはうちもなんで、確証がないのですが……。近衛騎士団諜報部は、バンスカーという名に心当たりがありませんか?」


 これはもちろん、自分達で調べた情報であるが、あくまでよそで最近密かに広まりつつ話として提供した。


「バンスカーですか? 私は直接知りませんが、確か元近衛騎士団第二隊長にその名があったと記憶しています。それが何か?」


 隊員は近衛騎士団の中でも特別である諜報部の所属なので直接的な関りを持つ事がなさそうである。


「実在するのですね? そのバンスカーという人物が、その『屍』という組織のトップだという噂があるようなんです。これはうちも全く確証がなく、まさか元近衛騎士団が関わっているとは信じていないのですが……」


「えぇ!? ──……それはどの方面からの情報なんでしょうか?」


 これには隊員も慎重に聞き返す。


 事実ならとんでもないスキャンダルになる話だからだ。


「ただの噂ですよ。今、その『屍』と敵対しているグループがあるそうで、どうやらそこから流れてきている情報ではないかとこちらでは睨んでいます」


 ランスキーの部下はもっともらしい言い方で答えるが、もちろん嘘である。


「……わかりました。こちらでも調べてみますが、近衛騎士団の元隊長ということは、元部下も多数いるはずなので慎重にやってみます……」


 隊員は貴重かつ、重大な情報に冷や汗をかいて頷くと、ランスキーの部下に提供を感謝してその場を去るのであった。



「お頭、これで良かったですか?」


 ランスキーの部下は、そう言うと、奥に控えていたランスキーに確認する。


「ああ。これで、近衛騎士団内部にバンスカーの裏の情報が流れることになる。若の予想では近衛騎士団内部にもバンスカーの間者が深く入り込んでいるだろうとのことだから、この情報であちらにも自然な形で早く届くことになるだろう。仕込みは各方面にしてあるが、味方からの内部情報が一番、あちらは信用するだろうとのことだからな」


 ランスキーはリューの命令通り、舞台を用意し、色々な仕込みを他の幹部達と行っている最中であった。


「さすが、若ですね。普通、近衛騎士団内部にバンスカーの情報源のひとつがあるとは思わない、というこちらの先入観を、敵は利用しているでしょうから、まさかそこから仕入れる事実が多く含まれた嘘の情報を掴まされることになるとは思わないでしょう。やつら、こっちの情報を鵜呑みにしてしまいますよ」


 部下はリューの作戦に感心して称賛する。


「あっちの隊員には悪いが、今後も少しずつこちらから嘘の情報を流して、敵を罠に引き摺り込むぞ」


「へい!」


 ランスキーは部下にそう告げると、他の準備の為にも自ら動くのであった。



 マイスタの街の街長邸。


「ランスキーから報告、仕込みの第一段階、終了だって」


 リューは、書類に目を通すと、後ろに座っているリーンにもその書類を見せる。


「この作戦はミナトミュラー家総動員だから、報告書だけでも結構な量ね」


 リーンがリューの前に積まれた書類の山を見て呆れる。


「幹部もみんな動いているからね。お陰でこの街の防壁増築作業も一旦、停止だよ。はははっ」


 リューはみんなが張り切ってバンスカーと『屍』討伐の為に動いているので、それがおかしくて笑う。


「でも、失敗は許されないわよ? 下手をしたらこちらの正体がバレるのだから」


 リーンも張り切っているうちの一人だが、真面目な顔でリューに念を押す。


「一応、存在する組織を用意しているから、そこから辿っても最悪『竜星組』で止まるようにはしているよ」


 リューもその辺は抜かりがない。


 ランスキー達も謀略に長けているノストラ、マルコを中心に動いているので、その辺りは信用している。


「それでも、今のところバンスカー本人の喉元まで刃が届くかはわからないのでしょう?」


 リーンが残念そうに聞く。


「バンスカーは相当慎重なようだからね。そんな相手を表に引きずりだすのは難しいよ。まあ、今回はあちらに大きなダメージを与えるのが目的だから、成功させる為に頑張らないとね」


 リューはそう言うと、計画に必要な出費に頭を悩ませるのであった。


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     あとがき


 ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


 今日、5月20日はこの作品、「裏稼業転生」4巻の発売日です。


 4巻も文字数大目の分厚い巻となっております。


 WEB版にはない書下ろしSSの特典もありますので、書店や電子書店などでご購入頂けたら幸いです。


さらに、5巻の続刊も決定しましたのでご報告をさせて頂きます。


 作家さんの間では、4巻までは出せても5巻からが難しい! なんて話もあり、正直ドキドキしていましたが、出せる事になりました。


 これからも、WEB版、書籍版共々、よろしくお願いいたします!<(*_ _)>

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