第626話 友人同士で火花ですが何か?
エラインダー領都におけるバンスカーの影武者を倒すことが出来た翌日。
リューはリーンと共に、いつも通り学校へと通っていた。
「おはよう、みんな」
リューは、少し遅くの登校だったので隅っこグループのみんなはすでに揃っている。
それどころかいつもより人が多い。
というのも隣のクラスであるエマ王女とその一行も一緒だったからだ。
「「「おはよう(ございます)」」」
ランス達隅っこグループとエマ王女達が揃ってリューに挨拶を交わす。
「ところで、この集まりは……、何?」
リューは素直にエマ王女一行までいることを遠回しに指摘する。
「学内剣術大会でお互い健闘したからそれを労っていたところさ」
エマ王女の一行の一人で、剣術大会ではリューとの決勝を戦ったシン・ガーシップが代表してリューに答えた。
「あ、そういうこと? まあ、今回は対戦表の問題とかはあったけど、楽しかったね」
リューは当たり障りない言い方で応じる。
「リューの旦那には、こてんぱんにやられたが、それでもノーエランド王国の代表として決勝まで残れたのは良かったよ」
海軍大元帥ガーシップ公爵の孫、シン・ガーシップは初大会での好成績に満足している様子だ。
「優勝候補の一人であるリーンでも、対戦表次第では、初戦敗退があることを今回痛感したけどな」
ランスはシンの言葉に水を差すように応じる。
「さきほどから、リーン殿やスード殿の名が上がるが、そんなに強いのですか?」
宰相の孫であるサイムス・サイエンが、自分が対戦して負けたナジン・マーモルンに確認した。
どうやら、リュー達が来るまでその議論をしていたようだ。
なにしろ、リューの決勝までの対戦相手は学園内での強さでは折り紙付きのリーンにスード、イバルが入っている。
ノーエランド王国側の生徒と対戦したのは、シンとランス、ナジンとサイムスだけであったから、対戦どころかその試合も観ていなかったようで、疑問を口にしていた。
「リューとリーンは別格だからな。スードもリューの護衛に付いてかなりの経験を積んでいる。こう言っちゃなんだが、シン・ガーシップより強いと思うぞ」
三人をよく知っているイバル・コートナインが、シンとサイムスを諭すように告げた。
「シンより強い者がそんなにいるとは信じられない……。リュー殿が別格なのは試合を観ていて感じたが、……そんなに強いのですか?」
サイムス・サイエンはシン・ガーシップの強さを誰よりも知っている。
幼馴染だからだ。
それに、本来なら、四年生であったという自負もあるから、リューの強さは置いておいて、シン以上の人物が二年生にゴロゴロいることが信じられないのであった。
「言っとくけど、俺も二回戦で相性が最悪だったラーシュと対戦していなければ、体力的にシンには勝ってたと思っているぜ?」
ランスが負けん気を見せて応じた。
「むっ……。シンはノーエランド王国海軍の未来を担う男だ。そうそう負けてたまるものか」
シンに代わり、宰相の息子サイムスがランスに対抗意識を燃やす。
「まあまあ。──対戦表については色々あるけど、今回の結果も一つの指針ということでいいんじゃない? それに来週には魔術大会もあるわけだから、そちらも楽しみにしたいところだよね」
リューはこのままだと、「今から勝負だ!」とか言い合いになりそうであったから仲裁に入る。
「それだ! その魔術大会も私達は出場できるようだから、そこで改めて勝負をつけようではないか」
サイムス・サイエンは眼鏡をくいっと上げると、新たな勝負を口にする。
「うちのクラスからの出場者は前回大会と同じく五名だよね? 変更がなければの話だけど」
リューはイバルに質問する。
「ああ。今のところ変更はないはずだ。でも、その五名にはリューとリーンが入っていないのがな……」
イバルは出場選手の一人だが、リューとリーンの実力が桁外れすぎて代表から外されていることを暗に告げる。
「リュー殿とリーン殿は、体力系なのですの? こちらからは、アリスとサイムス様、ノーマンの三人が出るのですわ!」
剣術大会の話には縁がないので話題に入れなかったが、大臣の娘で十一歳で飛び級進学した才女、アリス・サイジョーがノーエランド王国代表としての自尊心を見せてそう告げる。
「……アリスちゃん、リュー君とリーンは、会場を破壊してしまう程の規格外だから出場できないだけなのよ?」
侯爵令嬢であるシズ・ラソーエがアリス・サイジョーの誤解を解くべく、その二人を軽んじる言葉に反論した。
「「「!?」」」
アリス嬢やサイムス・サイエン、シンはその言葉に驚いて反応する。
「会場を破壊!? ……大会規則を読んだが、会場は対魔法に対する万全の体制が敷かれていると思ったのだが?」
サイムス・サイエンが眼鏡をくいっと上げて、疑問を口にした。
「それでも、破壊してしまうのが、この二人なんだ。それに、あの規模で破壊されたらその後の試合運営が出来なくなるからな。あとは単純に対戦相手の命の保証が出来ない」
全魔法特性を持つイバルが、苦笑して上司の二人の凄さを簡単に説明した。
「そんな馬鹿な、はははっ! ──……え? ……本当なのか?」
サイムス・サイエンは最年少の天才アリス嬢と並ぶ魔法の使い手だから、イバルの言葉が大袈裟なのかと思ったが、みんながまじめに頷くので信じるしかなかった。
「二人は一年生の大会での模範演技の段階で、宮廷魔法師団の結界魔法を破り、会場を破壊してしまう程だったからなぁ。前回、あれで、みんな萎えたんだよな。まあ、今回、俺は出場できないから、みんな頑張ってくれ!」
前回出場したランスが、その時を思い出して説明するのだが、今回見物に回るので気軽に応援の言葉を口にする。
「うちのクラスからは、リズ、シズ、ラーシュ、ナジン、俺の五人だったな。対戦の際はよろしく頼むよ」
イバルは、サイムス・サイエンにこちらの出場者を明かした。
「王女殿下も出場なさるのですか!?」
これには、サイムスはおろかエマ王女も驚く。
「リズも出場なさるのですか? 私、応援しますね!」
エマ王女はこの友人であるクレストリア王国の王女が勇ましいことに感心すると、笑顔になって応援を誓う。
「うふふっ。ありがとう、エマ。──あら、もうすぐ授業が始まるわ。また、あとで話しましょう」
リズ王女は、友人の裏表ない言葉に感謝すると、授業の始まりが迫っていることを告げる。
「それじゃあ、みんな、あとで。来週の大会は僕達、今年も模範演技で出ると思うから楽しみにしていてね?」
リューはリーンと二人笑顔で自分達の教室に急ぐノーエランド王国の友人達の背中にそう告げるのであった。
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