第625話 捕縛しましたが何か?
バンスカーをリューのドス『
リューは丸焦げになっているバンスカーを縛り、マジック収納から各種回復ポーションを取り出し、それを自分は飲み、相手にはかけると多少の治療を行い、意識を取り戻させる。
「うっ……」
バンスカーは目を開くとすぐに状況を把握した。
「あなたはエラインダー公爵の闇の部分を受け持っているんですよね? それについて話してもらいましょうか」
リューは尋問を始めることにする。
リーンとスードがサン・ダーロを救出してこちらに来るのを待って移動するつもりだから、それまでの時間潰しだ。
「……」
当然ながら、バンスカーは口を開くつもりはなさそうだ。
「バンスカーさん、あなた、本当に本物ですか? 想像より弱かったのでこちらも気抜けしているんですが」
リューは脇腹を刺されて負傷したことは置いておいて、挑発の為に少し馬鹿にして見せる。
「……黙れ」
黒こげのバンスカーは一言だけそう反応すると、また、黙り込む。
「黙れと言われても事実を言っているだけですよ。王都以外の周囲に大きな勢力を持つ巨大組織『屍』をまとめている人物とは思えない弱さですし、ちょっとがっかりです」
リューは続けて挑発する。
どうやら、バンスカーは自尊心が高い人物のようだ。
「それ以上、あの方を軽んじる発言は許さない……!」
バンスカー、もといバンスカーに化けている男は、リューの挑発に怒りを見せてそう答えた。
「あの方? やっぱりかぁ……。道理で、ここまで慎重だった人物が、なぜ、間者の一人相手にホイホイと姿を現すのかと思っていたんですよ。つまり、あなたはバンスカーの影武者ということですね? わざわざ幻術まで使用して、火傷跡を隠す手の込みよう。そもそも、その火傷跡もバンスカーの特徴に似せて付けた跡ですか?」
リューはずっと違和感を感じながら、戦っていたのだろう。
ようやくその理由がわかって納得した様子だ。
「くっ……」
バンスカーの影武者は、自白してしまったことに後悔の念を抱く。
「先程からバンスカーの悪口を言うと簡単に反応するのは、そういう契約魔法をバンスカーとの間に結んでいるからでしょうか? 本来は、部下などがバンスカーの悪口を言った場合、それに対して制裁を課す為の契約なんでしょうが、それを影武者のあなたに使用したのは失敗でしたね。挑発されるとすぐに反応してしまうから、正体がバレバレです」
リューは影武者がそれ以外では口が堅そうなので、こちらから相手の手の内を見抜き、敗北感を与えることで自白まで誘導する戦法に出たのである。
「くそっ……! ……だが、あの方の恐ろしさをお前はわかっていない。お前が何者か今は知らないが、この領都に入った以上、その正体は必ずバレて、あの方の耳に入る。そうなれば、お前もその背後の組織もこれからあの方の力で最後の一人まで追い詰められて死ぬことになるだろう……。恐れおののけ、あの方の真相に迫ろうとした自分の愚かさを悔やんで死んでいけ……!」
息も絶え絶えの影武者は、自分を捕らえた相手には必ず伝えなくてはいけないかのようにリューに脅し文句を伝える。
そして、急に静かになった。
「言うことはそれだけかな? 他に話してくれてもいいのだけど?」
リューは話さないよりは、脅しでも話してくれる方が、こちらも尋問がやりやすいのだ。
言葉の端々にはヒントが隠れていることも多いからである。
リューは、また、どう挑発しようかと頭を巡らせていると、影武者の頭がガクンと下がった。
「あっ! まさか?」
リューは、影武者の頭を上げさせる。
「しまった、『対撃万雷』で仕掛けのある自害方法は壊せたと思っていたのだけど、口の奥に毒を隠すなんていう古臭いやり方もしていたのか……、やられた……」
リューは悔しそうに影武者の顔を覗き込むと、後悔の言葉を口にする。
そう、影武者は奥歯に仕込んであった即効性の毒を飲み込み、自害していたのであった。
これ以上、この場にいる必要性がなくなったリューは、影武者の死体をマジック収納に回収し、リーン達の下へと戻った。
リーンとスードは死を恐れず次々に向かってくる『屍』の連中に消耗戦で疲れていたから、助っ人に入る。
網の中で大人しくしていたサン・ダーロも体力の回復を行っていたから、リューはそれを見てすぐに解放した。
「二人とも、こっちに!」
リューはリーンとスードにそう声をかけると逃げ道を作る。
サン・ダーロも走る気力くらいは回復していたので、そのあとについて行くと、敵の視界から外れる倉庫の角で『次元回廊』を使ってこの不毛な戦場から脱出するのであった。
リュー達一行は、マイスタの街、街長邸の前へと戻ってきていた。
「ふぅ……。主、助かりました。あいつら、腕も立ちますが、死を恐れないので加減している余裕がありませんでしたし」
スードが汗をびっしょりかいて、結構な危機であったことをぼやいた。
「情けないわね。確かに魔力はかなり消費させられたけど、体力はまだまだ残っていたわよ」
リーンが弱音を吐くスードを叱咤する。
「ボス、助かりました……。あのエラインダー領都自体が間者に対して大きな罠になっているみたいです。情報を収集していくと最終的にあの倉庫に辿り着く仕組みになっていて、あそこで必ず捕らえられる寸法のようです……」
サン・ダーロは悔しそうに、ここまでの掴まされた情報が全て偽物であったことを理解してそう告げた。
「なるほどね……。僕達は偶然にあそこに辿り着いたのだけど、サン・ダーロが連行される前で良かったよ。罠にはめられたのは悔しいけど、こっちもあちらの影武者を仕留められたから、やり返せたということで良しとしよう」
リューは、危うくサン・ダーロを失い、下手をしたらこちらの正体もバレる寸前だったことを考えると、安堵する。
「「「影武者?」」」
リューの言葉に、リーン達は思わず反応した。
「あっ! そうそう。バンスカーと思われた相手は、影武者だったんだ。一応、捕らえたんだけど、自害されちゃったんだよね」
リューはそう言うと、マジック収納から影武者の死体を出す。
「そうだったのね? ということはバンスカーの正体は結局わからず終いじゃない」
リーンが残念そうに言う。
そこに、街長邸からランスキーが部下と共に出てくる。
「若、こんな時間にどうなされたんですか?」
周囲はもう深夜になろうとしていたから、心配するのも当然だろう。
「丁度良かった。ランスキー、この遺体をマルコのところに運んで隅々まで調べて。バンスカーの影武者だから何か情報があるかもしれない」
リューは、そういうと影武者の遺体をランスキーに任せる。
ランスキーはそれだけで状況を把握すると、負傷しているサン・ダーロも一緒にマルコのもとに運んでいくのであった。
「今日はもう帰ろうか。──あ、スード君も自宅まで快速馬車で運ぶよ」
リューはそう言うと、ランドマーク製の最速馬車にスードを乗せると自宅まで運ばせる。
「リーンも今日は疲れたでしょ。お風呂に入って寝よう」
リューはそう言ってリーンの手を取ると、『次元回廊』でランドマークビルに帰宅するのであった。
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