第623話 敵との決戦ですが何か?

 リューはドス『異世雷光いせのらいこう』を抜き放つと、勿体ぶらずにその力を発揮した。


 包囲する敵の中央に飛び込み、『対撃万雷』を発動したのだ。


 ドスから発せられた雷は、多数の敵を巻き込み、一瞬で黒焦げにする。


 それは、失神という生易しいものではない。


 下手をしたら致命傷というレベルだ。


「なっ!?」


 バンスカーらしき人物は、その恐ろしい一撃を確認すると、屋根の上からすぐに消えた。


 どうやら、危険な相手と即座に判断し、念の為退避するようだ。


「……判断が早いな。リーン、スード君。あとは任せたよ」


 リューはそう言うと、サン・ダーロの救出は二人に任せて屋根に飛ぶ。


 そして、バンスカーらしき火傷跡のある男のあとを追うのであった。



「もう、一人だけずるいわよ!」


 リーンはそうぼやきながら、手にした刀を一閃する。


 リーンの一振りは、鎌鼬を起こし、見えない斬撃となって敵を襲う。


「「「ぎゃっ!」」」


「風が起きたと思ったら、みんなが斬られた!?」


「ヤバいぞ、あれは魔剣だ!」


 リーンの手にしている刀は、以前からミナトミュラー商会の研究開発部門責任者マッドサインが研究を進めていたもので、リューの『異世雷光』と同じように刀に能力を備わせる技術を用いて作られた魔刀である。


 本当はドスの予定だったのだが、リーンの注文であった魔力を込めることにより鎌鼬が起きるという仕組みが非常に難しく、刀の長さでようやく完成できたという。


 その名も『風鳴異太刀かざなりのいたち』、リューが名付けたのだが、リーンはとても気に入っている様子であった。


 そして、スードはすでに専用ドスを持っており、そのドスに魔力を込めると、聖騎士スキルの専用上位剣技、『聖光剣』が使用できるようになっている。


 二人共、互いの得物で自分達を包囲する敵を返り討ちにしていく。


「……なんて、強さだ。……姐さんの強さは十分承知しているつもりだったが、ここまでとは……。それに護衛役のスードとかいう学生もとんでもない身体能力だな……」


 そんな光景をサン・ダーロは内心でそう思いながら網に捕らえられた状態で見つめていた。


 サン・ダーロが驚くのも当然だろう。


 さっきまで自分が苦戦を強いられた連中である。


 確かに圧倒的な数と頭上から降り注ぐ特殊な投網に抵抗も難しい状況であったが、リーンとスードは投網もその手にしている武器で完封していた。


「このドスも俺と相性が良いと思ったんだがな……」


 サン・ダーロはボロボロの体で、支給されているドスを眺める。


 ちなみに、サン・ダーロのドスは一般構成員に支給されてたもので、元から雷魔法が使えるサン・ダーロと相性がよく、元の能力を増大させることが出来ていたのだ。


 それだけに、お気に入りだったのだが、二人の活躍の前には、少し自信を無くすサン・ダーロであった。



 人気のない倉庫通りはバチバチと空気を振るわせる雷が広範囲に何度も起き、暗いその場所が一瞬照らされてまた、暗くなる。


 その後には雷に焼かれた連中のうめき声が響くという有様だ。


 バンスカーらしき男は、追手の子供を相手にすることなく部下に挑ませて自分は逃げていた。


 あの三人の登場は計算外だったからだ。


 それに、見る限り、魔剣の類を扱っているところを考えると、それだけの腕を持ち合わせている人物だろうと判断したのである。


 そんな未知の相手と戦い、リスクを負うつもりは全くない。


 こちらは、このエラインダー領都の裏の部分を担う人間だ。


 それだけに、もしもの場合を避ける必要があったのである。


「逃げ足早いけど、僕も負けないんだな」


 そこにリューが、追いついてきた。


 すでにバンスカーらしき人物の周囲には部下が一人しかいない。


 他はリューの足止めに使ってしまったのだ。


「ボス、ここは俺にお任せを!」


 最後の部下が、剣を抜いてリューの前に立ちはだかる。


「……ここは、二人で戦った方が良さそうだ。一人だと不利過ぎる」


 ボスと呼ばれた男はそう言うと、サン・ダーロの調査報告通り、幻術を使って闇に溶けるように消える。


 リューの部下のマルコ同様、幻術で相手を惑わすのが得意のようだ。


「そんなこと言って、逃げるつもりでしょ?」


 リューはバンスカーらしき人物をここで逃がすつもりはない。


 何しろこれまでその姿どころか存在確認も難しかった相手だ。


 この千載一遇の機会を逃せば、また、その姿を見失いかねない。


「それが出来るのなら、このまま逃げるさ。しかし、そちらには俺の能力を見破った者がいる。お前もその類なら、部下と二人で戦い仕留めておいた方が無難だ」


 バンスカーらしき人物はそう応じると、腕利きの部下にリューと対峙させ、自分は闇の中で隙を窺う姿勢を取った。


 さすがに『異世雷光』の力を使い過ぎて魔力がかつかつになっているから、もう使えないんだよね……。相手にそれを気取られないようにしないと。


 リューは、幻術に対する耐性はあまりないので、実は闇に溶け込んだバンスカーらしき人物の姿を認識できていないのである。


 ただし、ざっくり気配は感じるのであとは勘だ。


 それに、目の前の部下の男も相当な腕の持ち主であることは対峙してよくわかったから、リューは散々見せつけてきた『対撃万雷』の力を匂わせて、バンスカーの動きを牽制しつつ、腕利きの敵を相手にしないといけない。


「それじゃあ、二人同時に相手するよ。まあ、同時に来てもらった方がこちらも楽だからね」


 リューは同時にかかってきたら『対撃万雷』を使いますよ、と匂わせて牽制しつつ、内心かなり緊張していた。


 そんな中、ドスを構え、先にリューが動いた。


 見えない相手も含めて、あちらが動くまで待っていると、領兵隊が駆け付けてくる可能性があったからだ。


 その瞬間であった。


「お前、俺が見えていないな?」


 敵の部下に斬りかかった瞬間、耳元でその言葉と同時に、リューの横っ腹に短剣が突き刺さる。


 バンスカーらしき人物は、リューの警戒する気配が自分にあまり向けられていないことに疑問を感じたのだ。


 それで、思い切って距離を詰めていたのである。


 そして、まんまと短剣が届く距離まで近づき、その状態でリューが部下に斬りかかったから確信したのであった。


 そんなボスの動きに、敵の部下も合わせるように、リューへと斬りかかった。


「くっ……。でも、これが僕の最初からの狙いだったからね」


 リューは痛みに苦悶の表情をしつつ、口元には不敵な笑みを浮かべる。


 そして、右手は自分に短剣を刺した相手の腕を掴み、ドスを逆手に握っている左手は敵の部下の剣を受け流して体勢を崩させ、相手の頭部に柄を叩きつけた。


 その強力な一撃で敵の部下は、脳震盪を起こすと白目を剥いてその場に倒れる。


 そして、リューはドスを握ったままの左手で幻術で姿を消しているバンスカーらしき人物の顔辺りを殴り飛ばすのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る