第617話 白熱の準々決勝ですが何か?

 学内剣術大会二年生の部は、ノーシードのリューをはじめ、そのリューと次に対戦するイバル・コートナイン、あとはシード選手であるサイムス・サイエン、そのサイムスと対戦予定のナジン・マーモルン、シン・ガーシップとその対戦相手のランス・ボジーン、意外な伏兵で普通クラスのト・バッチーリとその対戦相手として平民の天才少年ノーマンの八名がそれぞれ準々決勝に進出することになった。


「うちのクラスからは、僕とイバル君、ランスにナジン君の四人か……」


 リューは闘技場広場掲示板にある対戦表を眺めてそう感想を漏らす。


「……やれやれ。次は雇い主であるリューとの対戦か。俺もここまでだな」


 イバルが今大会はもう終わったとばかりに、溜息を漏らした。


「何を言っているの、イバル。新学園長の陰謀でリューは私やスードと対戦して疲れているのよ。少しはこの機会で倒せるかもしれないと思うくらいの覇気は見せなさい」


 リーンが弱気なイバルを叱咤する。


「──それで覇気を見せたとして、俺の勝つ見込みはリーンから見てどのくらいなんだ?」


 リーンの発破にイバルは苦笑しながら、評価を聞く。


「それは、『ゼロ』よ。イバルがリューに剣で敵うわけないでしょ。魔法ならまだ、少し、ほんの少しだけ、わずかな可能性はあるかもしれないけど」


 リーンは迷うことなく否定すると、少しは気を遣ったのかイバルの得意な魔法についてはほんの少し評価する姿勢を見せた。


「『ゼロ』かよ! わかっていたけどもっ!」


 イバルは想像通りの返答だったので、リーンにツッコミを入れる。


「はははっ! イバル君も『魔境の森』で修行すれば、魔法だけでなく剣の腕も伸びると思うよ? 大会後、しばらく休みとって行ってみる?」


 リューは二人のやり取りを見てそう提案する。


「嫌に決まっているだろ! あんな、リューでも退治できないドラゴンが出没するようなところ、命がいくつあっても足りないから!」


 イバルはサバイバル合宿だけで十分だとばかりに、リューの提案を全否定するのであった。



 そして、準々決勝第一試合、リューVSイバル。


 イバルは、疲れ知らずのリューとの実力の差は大きく、健闘はしたものの敗退した。


 続いて、リューが注目した試合が始まる。


 それは、ナジンとノーエランド王国宰相の嫡男サイムス・サイエンの対戦だ。


 リューは一年生の試合なども観ていたので、今日初めて留学生の一人の剣技を確認することになる。


「試合はじめ!」


 審判の開始と共に、両者は白熱した試合を展開した。


 確かにリューに対して対抗意識を燃やしただけあって、サイムス・サイエンは相当な剣術の腕を持っている。


 特に技術面はリューの目から見ても、相当な練習量の上に成り立っていると思われるものだったし、何より、冷静な判断能力を持っており、対戦相手のナジンの弱点を分析してそこを突こうと立ち回っていた。


 だが、そこは武官貴族マーモルン伯爵家の生まれであるナジンだ。


 リュー達と切磋琢磨しながら伸ばしてきた剣術は伊達ではなく、互角、いや、互角以上の力でサイムス・サイエンを追い詰める。


「この私が、シン以外の相手で劣勢に立たされるとは……!」


 サイムス・サイエンはノーマークだったナジン(とは言ってもシード選手なのだが)の剣技に押されると、激戦の末に疲労で握力を失った右手から剣を絡め捕られて落とすと、敗北するのであった。


「勝者、ナジン!」


 審判が勝者宣言をすると、サイムス・サイエンはここで初めて感情を見せて悔しがった。


「くそっ……!」


 サイムス・サイエンはそう一言、漏らす。


 しかし、すぐにナジンの強さを称賛するとすぐに舞台から退場するのであった。


「彼もノーエランド王国の若い世代を代表しているし、エマ王女も観戦しているから、悔しいだろうね」


 リューはサイムス・サイエンの気持ちを代弁する。


「でも、十分、強いのじゃないかしら? ナジンは前回、ベスト八だけどランスともいい勝負ができる腕を持っているのだから、そのナジンと互角に渡り合えたのは立派よ」


 リーンはそういうとサイムス・サイエンの剣の腕を評価した。


「そうだね。でも、あまり、触れてあげないでおこう。彼もあちらの学校では四年生で首席だったみたいだし」


 リューは苦笑すると、リーンが不用意なことを言わないように口止めするのであった。


 続いて準々決勝第三試合、シン・ガーシップVSランス・ボジーン。


 こちらは序盤から激しい展開が繰り広げられた。


 シン・ガーシップはランスと同じパワー型でありながら技術にも卓越したものを見せる剣術を披露した。


 だがランスもリュー達と学んで来た身である。


 そのパワーのある鋭い太刀筋にも互角の腕を見せ、シン・ガーシップは驚いた表情を見せたのが印象的だった。


 だが、それも長くは続かない。


 やはり、ランスは対戦表に恵まれなかったのが大きかった。


 ラーシュとの対戦で体力の消費が激しかった為、シンとの対戦は後半ですぐにばててきたのだ。


「体力調整が出来ていない分、俺の方が有利だったな!」


 シンはそう勝利宣言すると、ランスの剣を叩き落とし、勝負は決するのであった。


「くっ!」


 ランスはとても悔しそうであったが、これも対戦表次第なところがあったから、仕方がないだろう。


 それくらいラーシュとの対戦は、激戦だったのだ。


 こうして、シンVSランスはノーエランド王国留学生の意地を見せてシンが準決勝進出を決めるのであった。


 そして、準々決勝第四試合、普通クラスのト・バッチーリVS平民出身の天才少年ノーマンとの対決は、ト・バッチーリの途中負傷でノーマンがあっさり勝利した。


「ト・バッチーリ君応援していたのになぁ。ちょっと、怪我の治療も兼ねて労を労いに行こうか」


 リューは普通クラスの友人の敗退に、残念がるとリーンを連れてお見舞いに行く。


 そこで、ト・バッチーリはリューとリーンの訪問に診療室で感動するのであったが、そのあと、友人達からリーンと仲良く話していたことを嫉妬され、とばっちりな目に遭うのであった。

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