第616話 濃い試合内容ですが何か?
学内剣術大会二年生の部は、一回戦で早速、事実上の決勝戦との評価も高いリューVSリーン戦が行われ、リューの勝利に終わったのだが、メイン会場である闘技場ではなく目立たない他の場所での試合だった為、観戦者から学園長に対してクレームが殺到することになった。
リューとリーンはこうなることを予想しての再延長までの試合展開であったが、お互いニヤリと笑みを浮かべるに留めるのであった。
他の一回戦は無事行われ、それなりの盛り上がりとなっていた。
一回戦からの登場で期待が寄せられたのは兎人族のラーシュだ。
こちらは、対戦相手が普通クラスの男子生徒だったのだが、ラーシュは相手に何もさせない技術のある剣技で圧倒し、二回戦へと駒を進めたことが注目される。
だが、そのラーシュも次の試合がすでに問題であった。
これも学園長の意図なのか、シードのランスと早くも対決することになっていたからだ。
「今回の組み合わせ、偏ってないか?」
「ミナトミュラー君とリーン様が闘技場外で試合させられたことといい、変だよな?」
「そうか? 強い者同士で潰し合ってくれると俺にもチャンスが回ってきて助かるけどな」
生徒達からも色々な感想や思惑が漏れていたが、大部分は偏りを気にする意見が多かった。
それに、留学生三人をシードに据えていることも不信感の一つになっている。
編入時の資料を確認してのことだろうから、実力はあるのだろう。
しかし、実績はないのだからシードになるのはおかしいという意見である。
「チューリッツ学園長とコブトール教頭の狙いはなんだろうね?」
リューも首を傾げてリーンに漏らす。
まさか公平性を謳って前回大会の実績を半ば無視した組み合わせを行ったとは当人以外誰も思わないところだろう。
「さあ? でも、リューは順当にいけば、スードと三回戦、準々決勝でイバル、準決勝でナジン、決勝でランス辺りと対戦できるじゃない。まあ、留学生がどのくらい強いのかにもよるけど」
リーンはリューが対戦したがっていた友人達とほぼ総当たりになりそうなので問題なさそうな評価をする。
「あははっ! それはそうだね。リーンの言う通り、問題ないか」
リューはぶれないリーンの言うことに納得すると、二回戦に向けて闘技場会場へと向かうのであった。
二回戦はシードのスードやイバル、ナジンが順当に勝利した。
他にも留学生組で大元帥の孫であるシン・ガーシップ、宰相の嫡男サイムス・サイエン、平民の天才少年ノーマンは順調に勝ち上がった。
ノーシードのリューも二回戦を呆気なく勝利したのだが、注目だったのは、シードのランスと一回戦を見事に勝ち上がってきたラーシュの試合である。
この二人の試合は、豪剣のランスと技術に長けた頭脳派のラーシュという両極端な者同士の戦いであったが、お互い勝負がつかず、延長まで突入する白熱したものになった。
無尽蔵の体力があるように思えたランスも流石に肩で息をするほど疲弊し、ラーシュも無駄のない動きでランスを疲弊させた一方、ランスの豪剣相手で体力を消耗しないわけもなくふらふら状態だ。
最後は体力で勝ったランスがラーシュの剣を叩き落として勝利となった。
「つ、疲れた!」
汗だくのランスが試合を終えると、荒い息を吐いてそう一言漏らすと、その場でダウンする。
それはラーシュも同じで、
「もう限界です……」
と漏らすとその場にへたり込む。
二人は係員の肩を借りて退場するのであった。
その二人の健闘に会場からは大きな拍手が起きる。
「前回の優勝候補ランス・ボジーンとほぼ互角の少女か……。うちに欲しいな」
「非力な兎人族だが、あれだけの剣技なら問題ない。あの子はうちが貰うぞ」
「うん? そのラーシュという少女、ミナトミュラー商会の従業員ということになっているぞ?」
「「「また、ミナトミュラー男爵か!」」」
観戦者達は前回の注目株、スード・バトラー、そして魔法に優れたイバル・コートナインがリューのミナトミュラー家に雇われて以来、良い生徒がリューのところに雇われていたので、そう思うのも仕方がないことであった。
そして、三回戦第一試合。
シードのスード・バトラーとリューの対戦。
前回大会の試合では、リューと剣を交えることもできずに敗退したスードであったが、今回はリューも最初から剣を抜いて構えた。
それだけ、この一年でスードが成長したということだろう。
前回大会の試合を知っている関係者達は、それだけでも目を凝らして注目するところだ。
リューの強さは、リーンとの闘いで十分知っていることだから、スードの成長を確認する物差しになる。
リューはそんな注目の的になっていることを知ってか知らずか、スードと激しく剣を交えて応戦した。
これには観戦者達も今大会何度目かの激戦とあって歓声が巻き起こる。
元々スキル『聖騎士』持ちの注目株であったから、採用できないにしても、その成長は期待せずにはいられないからだ。
スードはこの一年で十分成長したことを観戦者に示すことができた。
しかし、やはり、対戦相手が悪すぎる。
リューは涼しい顔でスードの攻撃をしのぎ切ると、自由な左手でスードの腹部に掌底を放って場外まで吹き飛ばすのであった。
「しょ、勝負あり! 勝者リュー・ミナトミュラー男爵!」
「「「わぁ!」」」
闘技場に歓声が巻き起こる。
そして、二人の試合結果に惜しみない拍手が送られた。
それくらい見応えがある試合だったからだ。
「スード君、また、腕を上げたね」
リューはそう言うと場外に吹き飛ばされたスードの手を取り立たせる。
「主の温情で、良い試合に見えるようにして頂けただけでも、ありがたいです!」
スードはリューが加減をしてくれていたことに気づいていたから、そう応じた。
「いや、十分成長しているよ。これからも護衛役をお願いね?」
リューは笑顔で応じると、まだまだ、伸びしろがあるこの少年を頼もしく思うのであった。
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