第614話 大会初日の朝ですが何か?
王立学園剣術大会初日。
対戦表が、各学年の玄関内広場に張り出されたのだが、これが二年の生徒達をざわつかせることになった。
「どういうことだ……?」
「これって、何かの間違いだよね?」
「それにシード入りしている生徒って……」
生徒達は対戦表の前でとても困惑している様子が、まだ見ていない生徒達にもすぐに伝わってきた。
そこへリューとリーンが早くに通学してきた。
同級生達はすぐにこの二人に気づくと、
「大変だろうけど、頑張って……!」
「ちょっと、不運だったね」
「新しい学園長に何かしたの?」
と声をかけられる。
「「?」」
リューとリーンの二人はそんな生徒達の励ましに疑問符でいっぱいであったが、どうやら試合の対戦表を見てのことであったことに気づいた。
「あれ? 対戦表って当日のくじで決めるんじゃなかったの?」
「あら、本当だわ。すでに決まったものが張り出されているのね」
リューとリーンは玄関広場に、すでに対戦が決まったものが張り出されているので不思議に思いながらそれを詳しく見ようとした。
リューは自然と第一シードの名前を確認すると、そこにはリューの名前はなく、そこにはシン・ガーシップの名がある。
「あれ?」
リューは一年生時の優勝者なので当然第一シードに名を連ねると思っていたので少し驚いたが、気を取り直して他のシード枠を確認する。
シードは全部で八枠。
どこかに名があるだろうと見るが、そこには名前がない。
いや、リューの名前だけでなく、リーンの名前もないではないか。
「リュー、あそこ!」
リーンがシード枠以外に対戦表の一か所を指差した。
その先にリューの名前がある。
「あ、あった、あった!」
リューはようやく自分の名前があったので安堵するのだが、それはシード扱いではない。
それどころか、対戦相手を確認すると、そこにはなんとリーンの名前があるではないか。
「え? 一回戦からリーンと対戦!? それにこの対戦表って……」
リューが驚くのも当然である。
対戦表は大きく分けて四つのブロックに分けられるのだが、リューのいるブロックには対戦相手のリーンをはじめ、シード二枠にはスードとイバルも入っているのだ。
つまり、前回の上位四名が集中していることになる。
前回ベスト八のランスとナジンは他のブロックのシード枠になっているが、リュー達のブロックには意図的なものが感じられるものになっていると言ってよいものであった。
「……だから、みんな騒いでたのかぁ」
リューはようやく生徒達がざわついていたことに納得する。
そこに、ランスとスードとシズにナジン、王女リズやラーシュ、イバルも遅れてやってきた。
「「「みんなおはよう」」」
一同が対戦表前で一堂に会して挨拶をするのだが、すぐに対戦表の内容を確認して全員がこの不平等と感じる対戦表に不満を漏らした。
「リューとリーンがなんでシードじゃないんだ!?」
ランスが昨年の熱戦を思い出して憤る。
「……それも前回の上位四名が同じブロックっておかしいよね?」
シズも、すぐに状況を把握して不満を漏らす。
「よく見ると、他のシードには留学生のシン・ガーシップ、サイムス・サイエン、ノーマンの三人がいきなり入っているぞ」
ナジンもシードの振り分けを確認して、驚く。
「自分は主と三回戦で当たることになっています!」
スードは第二シードに入れられており、初戦を勝つとすぐにリューとリーンの勝者と当たる対戦表になっていることに驚きを隠せない。
「俺も準々決勝まで勝ち進んだら、スードとリューorリーンの勝者と当たるのか……。どんな対戦表だよ」
イバルも馬鹿馬鹿しくなるような死のブロックに苦笑するしかなかった。
「私は……、一回戦を勝つとシードのランス君と対戦予定です……」
ラーシュも同じクラスのランスとすぐに対戦することになっていたので、がっくりと肩を落とす。
「なんだかうちのクラスの参加者だけとても偏った対戦表になっているみたい……」
王女リズもそう思わざる得ない対戦表に眉を顰める。
「これは先生に文句言いたいところだな」
ランスが憤慨してそう口にする。
「……本当だよ。リュー君とリーンが一回戦で対戦なんて酷いよ」
シズもこれには怒った表情を見せた。
その足でリュー達は職員室に向かうと、担任のスルンジャー先生が対応した。
「どうしたんだね、君達?」
スルンジャー先生はリュー達が押し掛けてきたのに驚いた様子はない。
どうやら、想定していたようだ。
一番怒っているランスが全員を代表して先生に理由を求めた。
「そのことなんだが──」
スルンジャー先生が説明しようとすると、
「朝からなんだね、君達は!」
そこに、新副教頭であるコブトール男爵が出てきた。
スルンジャー先生が、生徒達の言葉を簡単に代弁して教頭に説明する。
「前回の報告書は見せてもらったが、実に酷い内容だった。決勝戦は八百長試合だったのだろう? そんな試合をする者をシード枠にするのは言語道断ということになったのだよ。学園長は公正公平を求めている方だ。当然の処置だろう。そして、留学生の三人は今回が初めてだから、バランスを取るうえで初戦を免除する意味でシード枠にしたのだよ。こんな公平なことはないだろう?」
コブトール校長はもっともらしい指摘をする。
うっ……、昨年の八百長を出されると反論できない……。
リューは八百長試合と言われると確かにそうだから、反論がしづらいところだ。
留学生への対応も一見するともっともらしく聞こえなくもない。
「それにしてはうちのクラスの上位陣が一つのブロックに集中しすぎていると思うのですが?」
静観していたリズ王女が、初めてそこで言いづらいリューに代わって口を開いた。
「王女殿下。八百長試合を起こした生徒のクラスに有利な対戦表を作ると他の生徒に示しがつかないのはお判りでしょう? それが王女殿下のクラスとなれば、なおのことです。──この学園の校風を考えると、公正公平な組合わせにして過去の過ちを正さなければいけません。ご理解ください」
コブトール教頭はリズ王女に対しては猫なで声で応じる。
しかし、考えを変える気はなく、学校側の考えを押し通してきた。
「公正公平なら、当日にくじ引きで決めるのが、真の公平ではないですか?」
リズ王女は鋭い指摘をした。
教頭の意見はもっともな説明に聞こえるが、くじこそが本当の公平性というものだろう。
「先ほども言いましたが、これは”バランス”です。前回大会の大きな失態を今回調整しようとするとくじ引きでは無理なのですよ。もし、今回もくじ引きにしたら、前回の問題が有耶無耶になると思いませんか? チューリッツ学園長は、そのことに胸を痛めて、今回の決定を成されたのです。──さあ、もうすぐ、大会開始時間ですよ、急いで会場に向かってください。我々も忙しいのです」
コブトール教頭はそう言うと、さらに反論しようとしたリズ王女達を職員室から追い出すのであった。
「強引に押し切られたな」
ランスが苦々しい表情で不満を漏らす。
「ごめん、僕達のせいだから、ああ言われると反論があっても我慢するしかなかった」
リューは、前学園長の判断で八百長試合は不問になされたはずのことを翻した段階でおかしいと思っていたのだが、当事者なので黙っていたのだ。
「まあ、いいじゃない。私はみんなと試合できないのは残念だけど、リューが優勝することに変わりはないわ」
リーンが元も子もないことを告げると、
「なんだよ、それ! はははっ!」
「それはそうだけど、元々そういう問題だったか? はははっ!」
「リーンの立ち位置はかわらないですね。うふふっ」
みんなは思わずそのことにツッコミを入れると、笑ってしまうのであった。
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