第610話 王女一行の歓迎式典ですが何か?

 新学期最初の休日。


 この日リューは、父ファーザと長男タウロに次男ジーロそして、従者であるリーン、スードを伴って王宮にいた。


 というのも、ノーエランド王国からの留学生であるエマ王女とその一団、そして、同国より派遣された外交大使一団の歓迎式典に関係者の一人として招待されていたのだ。


 他にも『王家の騎士』の称号を与えられているからというのも一つの理由だろうが、大体はクレストリア王家とノーエランド王家と橋渡しをしている貴族だからというのが一番の理由である。


 両国ともランドマーク家が間を取り持つことで国交回復することになったから、主賓の一人として扱われていた。


 その為、両王家、クレストリア王家からは、国王、リズ王女が、ノーエランド王国からはエマ王女、外交権限を与えられている大使ソリティス侯爵、テレーゼ女男爵、宰相の嫡男サイムス・サイエンが主賓席に座っているのだが、そこにランドマーク家とその与力シーパラダイン家とミナトミュラー家も混ざっているのだから、不思議な光景である。


 そんな中、注目を集めたのはやはり、ノーエランド王国の『真珠姫』と謳われるエマ王女であった。


 クレストリア王国側の貴族達からは、その美貌に対する賞賛があり、ノーエランド王国側からは、同年代のリズ王女の才覚が礼賛されるという具合である。


 リュー達ランドマーク家一行は、この様子を黙って窺っていたのだが、ふと話題の一つとして両王女が通う学園の話になった。


「両国の橋渡しに多大な功績があられるランドマーク伯爵のご子息であるミナトミュラー男爵は王立学園でも入学当時から成績一位を維持している天才とお聞きしました。その能力といい、非の打ち所が無い人物ですね」


 外交大使であるソリティス侯爵が話題をリューに移した。


「ええ。我が娘エリザベスも彼がいるので学年で首席を取るのが難しいのだが、それはつまりこの国の未来を担う若者が育っているということですから、今後が楽しみです。お陰で我が子の代は安泰と考えていますよ。わははっ!」


 国王は上機嫌でリューを評価すると父ファーザにも視線を送って頷く。


「恐れ多いことです」


 父ファーザは息子の高い評価に謙遜する。


「我が国も若い世代に注目しておりまして。特に今回留学しているエマ王女殿下をはじめ、宰相閣下のご子息であるサイムス・サイエン殿、ガーシップ公爵閣下の孫にあたるシン・ガーシップ殿などは、未来の我が国の中枢を担うことになる人材だと考えております」


 ソリティス侯爵も自国自慢として、今回の留学生達の名を挙げてそう評した。


「それは楽しみなことだな。両国の将来を担う若者が同じ学び舎で学問を共にするというのは素晴らしいことだ。──そうなると数日後に行われる学年別の剣術大会も楽しみになる。その後も魔術大会も控えているし、お互い切磋琢磨してくれることを期待しよう」


 クレストリア国王は控えめにそう応じるのであったが、その辺りはうちの国の若者の方が凄いけどね? と言わんばかりの雰囲気も見え隠れする。


 それはソリティス侯爵も同じであったから、その辺は国の体面上、両者とも仕方がないところではあった。


「僕達のことでなんかバチバチしていない?」


 リューも和やかな式典の中、それを感じて背後に控えるリーンとスードにつぶやく。


「お互いにその世代の優秀な若者自慢した後だもの。それはそうなるんじゃない?」


 リーンが冷静な分析の元、そう告げる。


「それに主。ノーエランド王国側は、エマ王女をはじめ、本来四年生の生徒を三人こちらの学園に二年生として留学させたわけですから、面子の為にも上位を獲ってもらいたいところだと思いますよ」


 スードもリーン同様状況を冷静に指摘した。


「楽しかったはずの学園生活が、こういうのを見ちゃうとギスギスするなぁ……」


 リューはそう言うと苦笑する。


「ふふふっ。私達はいつも通り楽しい学園生活を送るだけでしょ? リューが一番それをわかっているじゃない」


 リーンはリューが変わらず学園生活を楽しむだろうことは想像がついているのか鋭い指摘をした。


 スードもその横で同意とばかりに頷くのであった。



 歓迎式典は無事終わり、改めて父ファーザとリュー達に両国の国交再開のきっかけ作りを行ってくれたことを感謝されて解散されることになった。


 その際、宰相の嫡男サイムス・サイエンとガーシップ公爵の孫シン・ガーシップがリューのもとにやってきた。


「数日後の剣術大会が楽しみだ。お手柔らかに頼むよ、ミナトミュラー男爵」


 サイムス・サイエンは真面目な顔でそう告げると握手を求める。


 これはつまり宣戦布告とも言うべき挨拶だろう。


 この数日の間に、リューが昨年の優勝者であることは調べてわかっているだろうし、国王からも期待される若者とあっては一番警戒するべき人物になっているはずだ。


「ええ、こちらこそ、楽しみです。あと、ここにいるリーンとスードもかなり手強いのでお気を付けください」


 リューも不敵な笑みを浮かべて応じる。


 その言葉にシン・ガーシップが、


「トーナメント次第だが、俺に当たるまで負けないでくれよ?」


 とリューと同じように不敵な笑みで挑発するように告げる。


「はははっ。お二人は本来先輩にあたるはずだったのでしょうから、控えめに答えますが、うちのクラスの仲間も相当強いので足元を掬われないようにしてくださいね?」


 リューはこの二人が相当腕が立つであろうことは予想できたが、油断して負けたという状況だけはしてほしくないので忠告する。


「言うね。──俺は海軍の腕が立つ先輩達に学んでいたから実戦も豊富なんだ。年長者として胸を貸すつもりで戦うさ」


 シン・ガーシップはリューの言葉に年上としての威厳を見せるように応じた。


「こら、二人とも。リュー様に失礼な態度を取るものではありませんよ」


 そこへリズ王女と一緒にエマ王女がやってきて二人を注意する。


「別にそういうわけじゃ……」


 シン・ガーシップはどうやらエマ王女に頭が上がらないのか普段の元気な様子から急に大人しくなった。


「エマ、男の子はこのくらいが普通なのだと思いますよ」


 リズ王女が友人として親しさを込めて名前を呼ぶ。


「そう言えば、サイムスとシンも以前はこんな感じでしたね。ふふふっ」


 エマ王女もリズ王女の言葉に昔を思い出したように笑う。


「それはそれは、楽しそうな話ですね!」


 リューが絡んできた二人を茶化すように、笑顔で応じる。


「「うっ……。──絡んですまなかった、ミナトミュラー男爵。その話は触れないでくれ……」」


 サイムス・サイエンとシン・ガーシップは恥ずかしい過去なのか口を揃えてリューに謝るのであった。

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