第608話 転入生達ですが何か?

 新学期二日目は、留学生であるエマ王女一行が注目の的であった。


 なにしろエマ王女は異国の姫君であったし、何より『ノーエランド王国の真珠姫』と謳われる絶世の美女である。


 そして、同行している者達も、宰相の息子に公爵の孫、大臣の娘などであり、彼らも美男美女であったから、同級生が放っておくわけがない。


 玄関にランドマーク製の馬車が到着して一行が降りてくると、初日は遠巻きにして話しかけられなかった生徒達が、エマ王女達に声をかけ始めた。


 だが、そこは護衛役でもあるサイムス・サイエン、シン・ガーシップ、ノーマンが人混みを分け、その間をアリス・サイジョー(十一歳)が先頭になってエマ王女を教室に誘導する。


「道を開けるのですわ! 姫様が困るのです!」


 アリス・サイジョーは小さな体で同級生ながら年齢的には全員年上の生徒達に注意する。


 これには同じ時間に到着したリューとリーンも混乱を避ける為に、一行が教室に向かうのを手助けすることにした。


「みんな、エマ王女殿下達の道を妨げないであげて」


「そうよ。エマは一国の王女なんだから失礼よ」


 リューとリーンはそう言うとアリス嬢を助けるように、教室まで先頭を切って誘導する。


「あ、ありがとうですわ」


 アリス嬢はしっかりしているように見えて、まだ、十一歳。


 押し寄せる生徒達に少し、困惑していたのかリュー達の協力に心の底から感謝を述べるのであった。



「リュー様、リーン様、ありがとうございます」


 エマ王女は教室に到着すると、二人に感謝を述べた。


「いえ、隣のクラスとはいえ、友人ですから当然のことですよ」


 リューはそう言うと、エマ王女のとの間に立っているアリス嬢の頭を思わず撫でる。


 これは妹ハンナを褒めたりする時にやる行為なのだが、ついアリス嬢が妹と被ってやってしまった。


「ちょ、ちょっと、レディーの頭を不用意に触るものではないですわ!」


 アリス嬢が顔を赤らめて、リューの手を叩いた。


 怒っているのか照れているかわからない反応であったが、確かに指摘通り、失礼な態度だったので、リューも謝る。


「ごめんなさい。うちの妹と背格好が同じなのでいつもの癖でしてしまいました」


「うふふっ。ハンナちゃんのことですね? ──アリス、許してあげて?」


「……姫様が、言うのであれば、……許しますわ」


 アリス嬢はツンとした態度で顔を赤らめて応じる。


 どうやらアリス嬢はツンデレタイプのお嬢様のようだ。


 とはいえ、リューはそんなことの知識はないからもう一度謝ると、サイムス達にも手を振り、自分の教室へとリーンと二人、戻るのであった。



「「リュー、リーンおはよう」」


 先に教室に到着してたランスとイバルが二人に挨拶する。


 そして、ランスが


「外が騒がしいけど何かあったのか?」


 と続けた。


 リューがエマ王女一行の人気ぶりを説明すると、


「確かにあんな美女や美男が転入してきたら、男女問わず騒いでも仕方がないかもな」


 とイバルが他人事のように応じる。


「はははっ! その美女と婚約しかけていた男としては心中穏やかではないってことはないのか?」


 ランスがイバルを茶化すように言う。


「エマ王女とは、前段階で流れた話だからな。気にすることでもないだろう?」


 イバルはランスの言葉にも冷静に応じた。


 そこに、リズ王女、シズ、ナジン、スード、ラーシュが教室に入ってくる。


「……隣の教室前の廊下、凄い人の数になってるよ」


 シズがリュー達に報告する。


「エマ王女と少し話したかったのだけど、落ち着くまでは隣の教室にはいけないわね」


 とリズ王女も困った様子であった。


「これだけ転入生が注目されるのも、仕方がないな。相手は隣国の王女様だ。それもかなりの美女だから、騒ぐのも仕方がないだろう」


 ナジンがエマ王女の美貌を褒めるように言う。


 するとシズが、ナジンの脇腹辺りをつねた。


「シズ、痛いから!」


 ナジンは容赦なくつねるシズに自分の失言に気づかず痛がるのであった。


「あちらが注目され過ぎて、こちらの転入生がスルーされるのはかわいそうです……」


 ラーシュが、こちらのクラスに転入してきたイエラ・フォレスを気遣ってそうつぶやく。


 確かに同じく異国からやってきた転入生なのだ。


 扱いの違いが大きすぎて、同情するのも仕方がないところだろう。


 その転入生であるイエラ・フォレスは、いつの間にか席について、暇そうにしている。


 長い金髪ポニーテールに茶色の目、制服を初日から着崩しているので、前世でいうところのやんちゃ系に見えるのだが、この学園に途中で編入できるのだからそうとう優秀なはずだ。


 しかし、見る限り、見た目とは裏腹に大人しくしており、目立たないようにしている様子であった。


 そのギャップにラーシュは編入当時の自分と重ね合わせたのかもしれない。


「そうだね。──じゃあ、うちのグループに入ってくれるか聞いてみようか?」


 リューはラーシュの優しさに同意すると、近くの席に座るイエラ・フォレスに声をかけた。


「我か? ──うーん、どうしたものか……。──ふむ、……なるほど、班として行動する時に一人だと困るのか……。そういうことであれば、よろしく頼む」


 イエラ・フォレスは、リューに声をかけられて、すぐに考える様子になったのだが、何やら一人つぶやいて納得するとリューの申し出を承諾した。


「うちグループ的に九人だったから丁度良かったんだ、ありがとう。……ところでイエラ・フォレスさん、僕とどこかで会ったことある?」


 リューはこの目立たない方の転入生イエラ・フォレスになぜか既視感を覚えて思わずそう聞く。


「……ないと思うのだが?」


 イエラ・フォレスは、リューのこの言葉にナンパか何かと思ったのか、少し間を置いて言葉を選ぶように応じた。


「おいおい、リュー。それ、男が初見の女性を口説く時に使う常套句だぜ?」


 ランスが知ったかぶりした指摘をする。


 これにはリーンやリズ王女、シズにラーシュもハッとした表情でリューに注目した。


「ち、違うから! そんなつもりじゃないって! ──あ、本当に違うよ!?」


 リューはみんなに全力で否定すると共に、イエラ・フォレスにも口説き文句ではないことを伝えるのであった。

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