第605話 おにぎり屋開店ですが何か?

 リュー達のクラスにやってきた転入生、イエラ・フォレスという女子生徒は、自己紹介通り見た目の派手さに反して、リュー達隅っこグループのいる傍の空いている席に座ると周囲にぺこりと頭を下げ、大人しくしていた。


 その後、担任のスルンジャー先生の新学期も勉強に励んでくださいという言葉があるとこの日は、終了である。


 すると放課後、エマ王女達が、隣のクラスからリュー達に会いにやってきた。


 リズ王女とエマ王女はノーエランド王国以来での再会にお互い喜びの挨拶をする。


 リューはこの両王家の美女の再会に立ち会っていたかったが、そうもいかない。


 というのも、この後お昼から、ノーエランド王国で『おにぎり屋』の開店なのだ。


 一応、現場に任せているのでリューが足を運ばなくても問題はないだろうが、ノーエランド王家も期待しているから、やはり、しっかり現場で見届けたいところである。


 だから、リューは二人が話に花を咲かせている間に、その場からフェードアウトすると、一足先に帰宅するのであった。



 リューはリーンとスードを連れてランドマークビルから、『次元回廊』でノーエランド王国・ミナトミュラーおにぎりビルの前に移動した。


 すると開店前の『おにぎり屋』前にはお昼時の王都の一等地ということだから目立ったのかすでに長蛇の列ができている。


 ちなみにおにぎり屋の宣伝の為、ビルの周囲にはおにぎり屋の『のぼり』を何本も立てて目立つようにしており、さらには「ノーエランド王家推奨食品」という『のぼり』も一緒だ。


 おにぎり屋ビルの一階は、店頭にガラスケースを用意して種類のあるおにぎりをちゃんと確認できるように並べ、お持ち帰りも可能だ。


 さらにはみそ汁とオーク汁の二種類も用意してあり、それを入れるカップは有料だが、次回からそのカップを持参すれば、その分、安くなる。


 当然店内での飲食も可能で、食べたい種類から選べるオーソドックスな「おにぎりセット」(おにぎり三種と漬物、お味噌汁、+銅貨一枚追加でオーク汁への変更可)、「お得な欲張りおにぎりセット」(おにぎり五種と漬物、お味噌汁orオーク汁)などいくつものセット商品を用意し、単品での注文も可能となっていた。


 さらにはデザートも充実しており、こちらはマイスタの街から連れてきた菓子職人によって作られる数種類のケーキやプリン、シュークリームなども店内で食べられるようになっている。


 行列の人々は、店頭で配られた絵入りの説明の入ったメニュー表に群がって、どれを頼むかワイワイと騒いでいた。


「王家が推奨しているのが、塩おにぎりらしいから、まずはこれだな」


「そうなると、おにぎりセットが無難か。単品で頼むよりお得だし」


「だな! すると残り二つに悩むな……。いや、やはり肉入りおにぎりも外せない。そうなると残りの一つは梅干しにするかな。これは試食で食べたが酸味がさっぱりしていてたまらなく美味しいんだよな……。うっ! 思わず涎が出てきた……!」


 梅干しを想像すると唾液が出るのはどこの人々も同じなようである。


「待て待て、お前ら。男なら『お得な欲張りおにぎりセット』の方がさらにお得だろう? おにぎりが五種類食べられるうえに、オーク汁っていうのが、気になるじゃないか!」


 男性陣は質より量で選ぶところであった。


 それに対し、女性陣はというと、


「じゃあ、私は『野菜満載おにぎりセット』かしら? 葉野菜に包まれたおにぎり三種にサラダとお味噌汁。これなら栄養バランスが良さそう」


「私もそれが気になってたのよ。問題はおにぎり三種をどれにするかなのよね……」


「塩おにぎりは確定だけど、ツナマヨというのも気になるのよ……。あとおかか」


 とメニューの「栄養バランスの良い食事をあなたに」という謳い文句に女性達は惹かれるようである。


 そんなところで正午を迎えた。


「お待たせしました。これより『おにぎり屋』を開店いたします! お持ち帰り、店内での飲食どちらでも可能ですので、順番でお願い致します!」


 おにぎり屋の従業員が、扉を開けると、並んでいたお客がなだれ込んでいく。


 席に座ると、すぐに事前のメニューで選んでいたものを注文し始め、あっという間に広い店内は埋まっていく。


 そして、店頭のお持ち帰りの販売コーナーにも列ができた。


 ガラスケースに並んでいる沢山のおにぎりも、次から次に注文されて、減っていくのだが、すぐに店内の従業員が奥で握ったおにぎりを補充していくので店頭販売の回転率は速い。


 お持ち帰りは殺菌作用のある植物の大きな葉でおにぎりを包み、有料のカップにみそ汁やオーク汁が入れられ、お客さんに速やかに渡されていく。


 どうやら、この日の為に従業員も相当訓練したものと思われた。


 これには最初に沢山並んでいた行列も次から次に減っていく。


 しかし、それでも『王家推奨』ののぼりの威力もすさまじく、減った傍から行列ができるのであった。


「これがおにぎり……!? 家畜の餌だって話だったが、『王家推奨』は伊達じゃない!」


「鮭おにぎり、塩加減が絶妙でうまっ!」


「エビマヨ初めて食べたけど、このマヨネーズというやつの脂加減が美味しい……」


「昆布の佃煮がお米と合う! それに、から揚げおにぎり最高か!」


 店内や店外で食べるお客からは、初めて口にするおにぎりに賞賛の嵐となった。


 特に店内のお客からはおにぎりの合間にぼりぼりと食べる漬物やそれらを胃に流し込む為に口に含むみそ汁やオーク汁が絶妙に合うと絶賛される。


「口の中でみそ汁とおにぎりが一つになった時、別の味に進化して最高……」


「なんだろう、この味……。和む……」


「この組み合わせ、幸せ……」


 お客さん達は至福の瞬間に、幸せのため息を吐くのであった。


「わかるよ、わかる。おにぎりには漬物とみそ汁だよね。僕はオーク汁がお勧めだけど」


 店内のお客さんの上々な評判にリューも満足そうだ。


「リュー、お昼だし、私達もここで食べていきましょう」


 自分もお腹が空いたのかリーンが、そう提案した。


 スードもよだれを垂らして頷く。


「僕もすでに口がおにぎりを口にしたい状態になっているから、食べていこうか」


 リューもリーンの提案に賛同すると、オーナー特権を利用して奥の部屋で昼食を取ることにするのであった。

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