第604話 クラスの転入生ですが何か?
始業式はまだ続いていた。
新学園長、新教頭の自己紹介のあとは、ノーエランド王国からの留学生であるエマ王女とそこに付き従う生徒達の紹介である。
司会進行をする女性教師の一言で、壇上にエマ王女達が登壇する。
「みなさま、初めまして。ノーエランド王国よりこの度、こちらの学校に留学することになりました、エマ・ノーエランドと申します」
エマ王女が今回の留学生代表として、スピーチを始めた。
これには生徒達が大きくざわめいた。
というのもエマ王女の美しさが際立っていたからだ。
紫色の長い髪に霞色の目、美しい整った顔立ちにスタイルの良さである。
世間ではこういう女性を絶世の美女などと呼ぶところだろう。
実際、ノーエランド本国では、『真珠姫』とか『王家の美姫』など賛美する呼称がいくつもあるらしいから大袈裟な表現でもないところだ。
そして、紹介するエマ王女の声もかわいらしく、心地の良い美声であったから、男だけでなく女子生徒もうっとりするところであった。
エマ王女の挨拶が終わると、軽く他の生徒の自己紹介も行われる。
宰相の嫡男サイムス・サイエンもまじめ系の美男であったし、王族の一人で公爵家の孫シン・ガーシップもヤンチャ系のイケメン男子だったから女生徒から黄色い声でキャーキャー言われていた。
さらにはまだ、十一歳でみんなと同じ二年生クラスになるアリス・サイジョーはエマ王女の美女とは違ってかわいい系の金色の縦髪ロールの美少女だったから、これも女子生徒からかわいいと黄色い声援を受けている。
最後にノーエランド王国の平民代表とも言うべき天才少年ノーマンは、前の四人が騒がれ過ぎて少しかわいそうなくらい生徒達から無反応の扱いであったが、本人はその反応にホッとしている様子だった。
平民であることから、他の貴族生徒と同じ扱いをされて悪目立ちしたくないようだ。
「──以上が、二学年に編入する生徒六人です。……六人? うん? あっ! 失礼しました! もう一人、遠方の国から転校してきた一般生徒がいます。そちらはクラスの方で自己紹介をお願いします」
司会進行の女性教師は、キャラの濃いノーエランド王国からの留学生とは別に一名他にいることを忘れていたのか慌てて報告する。
「うわっ……。その生徒かわいそうだな。酷い扱いだ……」
「ノーエランド王国からの留学生とタイミングが被るとか最悪だな」
「先生達に一瞬忘れられていただろ? 影薄い系のあだ名決定か?」
この学校側の扱いには在校生徒達も同情と共にざわつく。
「エマ王女殿下達と被ったのが運の尽きなんだろうけど、この扱いはかわいそうだね……」
リューもまだ見ぬ一般生徒に同情する気持ちになる。
こういう悪目立ちする形は学園生活で尾を引くことになることがあるからだ。
下手をするといきなり変なあだ名を付けられることもあるし、成績次第ではいじめの対象にもなる。
リューの同情はそういう意味でもっともなものであった。
「それより、エマ王女達のクラス分けはどうなっているのかしら?」
リーンは興味が無いのか、エマ王女達が自分達のクラスに来るのかが気になっていた。
「どうだろうね? うちはリズがいるからなぁ……。新学園長のことを考えると、もしかしたら、隣のクラスに入れることでバランスとろうとするんじゃないかな?」
リューはリーンの疑問に至極真っ当な答えを告げる。
「そうね。チューリッツ学園長ならありえるかも……」
リズ王女もリューの読みに賛同する。
「普通に考えたら学力で振り分けるんじゃないか?」
ランスが当然な指摘をした。
「ノーエランド王国からの留学生が成績優秀ではないわけがないだろう。自ずとうちか隣のクラスになるだろうから、あとはバランスだろうとリューは言っているのさ」
イバルがランスの指摘に対して、リューの言った言葉に補足した。
「ああ! それを前提にバランスを考えて隣のクラスもあり得るって話か! なるほどな」
ランスはイバルの指摘でようやく合点がいったようだ。
「……そんな中に一般で転校してきた子は違う意味で目立ってかわいそうだね」
シズが、心配する様子で登壇さえさせてもらえなかった生徒に同情する。
これにはナジンや兎人族のラーシュも同情して頷く。
「……ははは。その子は無事普通クラスに馴染めることを祈ろう」
リューもこれにはどうすることもできないので、苦笑するとそう応じるしかないのであった。
始業式が終わり教室に戻ってみんなで談笑していると、担任のスルンジャー先生が教室に入ってきた。
そして、
「みんな席についてください。今日から新学期ですが、転校生がこのクラスに編入することになりました」
と早速、クラスの生徒数が増えることを伝える。
「へー、あの新学園長なら、リズと違うクラスにすると思ったのに意外だね?」
リューは担任の言葉に軽く驚いて隣のリーンに声をかける。
「……でも、うちのクラスには一人だけみたいよ?」
リーンが教室の外で待機している生徒の数を察知してリューにそう伝える。
「え?」
リューはその言葉に驚いていると、
「それでは、入ってきて自己紹介をお願いします」
スルンジャー先生が扉の外で待っている生徒に声をかけた。
「うむ」
扉の外からそんな声が聞こえてくると、扉が開き、一人の女子生徒が入ってきた。
「「「誰?」」」
教室にいた生徒全員の内心の声が聞こえてきそうなくらいリューも一緒にこの女子生徒にツッコミを入れる。
その女子生徒はエマ王女でもなく、アリス・サイジョーでもなかったからだ。
金髪のポニーテールに茶色の目、制服を着崩し、優等生とは思えない格好だが、見た目は美人でスタイルも良い。
つまり、入ってきたのはノーエランド王国からの留学生の一団ではなく、始業式で紹介が省かれた方の一般生徒だったのである。
「我の名はイエラ・フォレスという。学園では大人しくしているのでよろしく頼む!」
元気よくそう答えたやんちゃ系に見える美女はそう答えると、言葉に反して礼儀正しくぺこりと頭を下げるのであった。
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