第602話 留学生と登校ですが何か?

 夏休みが明け新学期を迎えることになった。


 リューは当然ながら忙しい。


『次元回廊』を使用してリーンと共に朝一番でファイ島に向かい、港街で海産物を仕入れ、ランドマーク本領に移動、この日運ぶ物資をマジック収納で回収してランドマークビルに戻り、従業員にそれらを引き渡す。


 そして、一息つく暇もないまま、今度はこの日、王立学園への初登校となるエマ王女達留学生を迎えに馬車で移動するのである。


「おはようございます、リュー様」


 エマ王女が迎えに来たリューを出迎えた。


「エマ王女殿下、おはようございます」


 リューは、準備がすでに済んでいるエマ王女に内心驚きつつ挨拶する。


 自分は少し、早めに着いたつもりだったからだ。


「ミナトミュラー男爵、エマ王女殿下達のこと、学園でよろしくお願いします」


 そこに生徒達の世話役として付いてきているテレーゼ女男爵が頭を下げた。


「馬車と御者は寄り親であるランドマーク伯爵家の方で手配してあるので、今後もそちらをご利用ください。そして、前回も申し上げた通り、このビルはミナトミュラー家所有なので好きに使用して頂いて構いません。ただし、ご近所迷惑になることだけはくれぐれもお気を付けください。困った時も一階のミナトミュラー商会の者に言いつければできる範囲で対応させて頂きます」


 リューはランドマーク伯爵家の与力として、テレーゼ女男爵に応じてみせた。


 彼女はまだ二十歳なのだが、その心情を察すると、祖国から離れてエマ王女達の世話をこれから数年行うことになるから、その間の責任から来る心労は計り知れないことだろうことは想像するに難くない。


 時折、息抜きの為にノーエランド王国に戻れるように手配してあげよう。


 自分もノーエランド王国にはよく行くからついでで構わないことだし。


「ミナトミュラー男爵には感謝しかありません。それでは皆様、登校初日いってらっしゃいませ」


 テレーゼ女男爵はそう言うと、使用人達と一緒に頭を下げる。


「では行ってきますね」


 エマ王女がそう応じると、一緒に登校する同級生で宰相の嫡男サイムス・サイエン(十五歳)がエマ王女の手を取り馬車に乗せた。


 続いて、財務大臣サイジョー伯爵の次女、アリサ・サイジョー(十一歳)が、エマ王女の護衛役の一人として続いて乗る。


 そのあとに同じく護衛役としてシン・ガーシップ(十五歳)が乗り込むと、扉を閉めた。


 二台目の馬車に宰相の息子サイムス・サイエンが乗ると、続いて平民で天才少年のノーマン(十三歳)が乗り込んで扉が閉められた。


 リューはそれを確認すると自らもリーンと二人、自分の馬車に乗り込むと王立学園始業式の為に向かうのであった。



 王立学園二年生学舎の前は、ちょっとした騒ぎになっていた。


 というのも、クレストリア王家のリズ王女とノーエランド王家のエマ王女の二人が登校するということで、新学園長と思われる面長で身長が高く白髪混じりの黒髪に黒い目、そこに眼鏡をかけた高齢男性が玄関前で教師達を連れて待機していたのだ。


 リューはそんなちょっとした騒ぎになっている玄関に馬車を止め、下車すると次の馬車にエマ王女が乗っているので、新学園長に一礼だけするとその前で少し待機した。


 すると、新学園長はそれが気に食わなかったのか、


「おい、君。そこに立つな。これからエリザベス王女殿下や国賓のエマ王女殿下を出迎えるのだぞ。邪魔になるからどきたまえ!」


 と注意する。


 リューはそこにエマ王女の馬車が到着したので、新学園長にまた、会釈するとその注意に構わず馬車の扉を開けた。


「君! 聞いているのかね!?」


 新学園長が怒ってリューに歩み寄ろうとした時である。


 馬車からノーエランド王国の『真珠姫』と呼ばれる紫色の長髪に霞色の目をした絶世の美女が降りてきた。


 リューは初日ということで、宰相の息子サイムス・サイエンに代わって、その手を取ってエマ王女をエスコートする。


「まあ、ここが私達がこれから四年生までお世話になる学び舎なのですね!」


 エマ王女はそう言いながら、学舎の全体像を玄関から見て、すぐに怖い顔をした新学園長が視界に入る。


「きゃっ」


 エマ王女は思わず、そう声を漏らす。


 続いて馬車を降りてきた、アリス・サイジョー(十一歳)とシン・ガーシップ(十五歳)がエマ王女の小さい悲鳴に反応して、怖い顔をした新学園長の前に立ちはだかる。


「王女殿下の前で何事だ!」


 シン・ガーシップが剣に手をかけて、新学園長を叱責する。


 続いて馬車から降りてきたサイムス・サイエン(十五歳)、ノーマン(十二歳)もトラブルだと判断してすぐに馬車から駆け下りてきた。


 その生徒の姿ながら、高貴な雰囲気の圧に、新学園長も驚いて怒気も引っ込み、後ろに後退る。


 そこでようやくリューが両者の間に入ると、


「こちらはノーエランド王家の姫君エマ王女殿下と同じく留学生のみなさんです。──王女殿下、こちらは……、多分、新学園長……? かと思います」


 とリューが憶測で紹介をした。


 両者それで相手のことがようやくわかると、挨拶を交わすことになった。


 エマ王女は華麗にお辞儀すると挨拶をする。


 新学園長も先程までの怒った顔はどこへやら、エマ王女の美しさを褒めつつ、挨拶をするのであった。


 リューはそれを傍で大人しく眺めていたのだが、新学園長がチラッとこちらを睨むのを見逃さない。


 うっ……。エマ王女殿下を待たせない為に馬車を優先したけど、それが印象悪かったのかなぁ……。


 とリューは内心反省するのだが、学園を案内する役目もエマ王女からお願いされている身であったから、その確認をできる時間もなく、一行を学園内に案内しようとするのであった。



「なぜ、ノーエランド王家の王女殿下が、ミナトミュラー男爵の先導で通学なされるのだ……!? 儂は聞いてないぞ……!?」


 新学園長の隣に立つ新教頭を叱責する声が微かに聞こえてくる。


 それを聞いたのはリーンだけだったが、新学期は前途多難そうであった。

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