第601話 目標の居場所ですが何か?

 エマ王女一行を送り届けたリューは、その足でランドマークビルの自宅に戻り、そこでランスキーの報告を聞いていた。


 本当はマイスタの街の街長邸で翌日に聞く予定だったが、ランスキーが至急ということで直接会いに来たのだ。


「それで、どうしたの。なんか血相を変えているように見えるけど?」


 リューはランスキーが普段と違う様子なので落ち着かせる為にあえて指摘してみせた。


「失礼しました! ──実は、若から預けられたサン・ダーロを使ってエラインダーの腹心の可能性が高いバンスカーの行方を追わせてみたんですが、いきなり尻尾を掴んで来まして」


 ランスキーは自分を落ち着かせると、新たな報告をする。


 ちなみにサン・ダーロとはノーエランド王国出身の元殺し屋なのだが、その逃げ足をリューが買ってランスキーの情報収集部隊に預けていたのだ。


「え? ……あのバンスカーの!?」


 リューもこんなに早く、結果を残してくるとは思っていなかったので、思わず聞き返した。


「へい。サン・ダーロには重要な人物の顔をまずは覚えさせようと、エラインダー公爵周辺の人物の顔を覚えさせていたんですが、その流れでエラインダー公爵領まで行かせたんです」


「公爵領に? この短期間で往復できるのは確かにサン・ダーロの足なら可能か……」


「あいつの足はかなり貴重ですね。まさに神足です。そのサン・ダーロがあちらに到着して早々、うちの部下と合流する間際に、『なんで監視されているところで、わざわざ合流するんですか?』と言うと、合流を避けて街の人混みに消えまして……」


「うん、それで?」


「部下達も監視されていると思わなかったので、サン・ダーロが血迷ったことを言い出したと思っていたようなんですが、二時間後、サン・ダーロがこちらを監視していると指摘した連中を尾行し、エラインダー公爵領都に本店を置く商会の一つに消えていくのを確認してから、うちの部下を遠い距離から監視していた連中をサン・ダーロが自ら処理して戻ってきたということです」


「……その商会本店の名を確認しただけでなんでバンスカーの尻尾を掴んだと思ったの?」


 リューはまだランスキーの言いたいことが見えてこない。


 確かに、サン・ダーロは現地で監視を逆に監視し、どこの連中か調べ、処理までしたのだろう。


 だが、それがバンスカーの部下である証明にはならない。


「へい。その商会、公爵領ではそれなりに有名な商会なんですが、怪しいところが全くないのでうちも対象から外していたんです。しかし、顔が割れていないサン・ダーロを使って再度調べさせたら、商会の会長がうちのマルコと同じ能力を使用していることがわかったんです。サン・ダーロはその手の幻術魔法に耐性があるらしく確認したところ右の顔から首にかけて大きな火傷跡がある人物だった、と」


 ランスキーが呼吸を整え、最後まで報告をした。


「……火傷跡のある人物=バンスカーにはならないけど……、状況証拠だけなら確かに可能性が高いね……。ふぅー。──それで、サン・ダーロは今どこに?」


 リューは、興奮を抑えるように大きく息を吐いて、今回の手柄を立てたサン・ダーロの確認をする。


「本人が『この山は任せてください』って言うんで、また、現地に向かわせています。サン・ダーロが見た人物を他の部下にも面通しして把握させたいってのもありますし……。あとは念の為、まだ、顔バレしていない部下を現地の連中と交代する形で送り込んでいます。あちらがこっちの動きに気づいて監視を付けていたということもあるので」


「……よくやったよ。ランスキー。僕も、近いうちにエラインダー公爵領に足を運んだ方がいいかもしれないね。今、あちらに送り込んでいるのは何人だい?」


 リューは、ようやく見えた尻尾だから、しっかりリュー自身で掴んでおきたいから、そう言うと確認した。


「送り込んだ部下が、十人です。エラインダー公爵領に付けていた元の数は十五人いましたが、そいつらは全員呼び戻している最中です」


「うん。さらに十人追加して。追加メンバーは二人一組で行動させ、他との接触は街郊外のみに徹底させて。あちらがこちらに気付いて監視を付けていたことからも、うちの動向をまだ、知りたいレベル。つまり、誰が送り込んだかまでは知らなくて確認中だったんだと思うんだ。だから、総入れ替えしたのは正しい判断だよ。あちらはまた、ゼロから調べないといけなくなるからね。あとは引継ぎをしっかりお願い」


「へい。それはエラインダー公爵領外で引継ぎを行って現地入りすることになっていますんでご安心を。──若、ついにバンスカーを発見できましたね……!」


 ランスキーもこれまで、雲を掴むような状態でバンスカーの調査を行っていたから、ここに来て新顔であるサン・ダーロが役に立ったことで、思わぬ成果が出たのはかなりの朗報であったのは間違いないだろう。


 リューにそれを報告をできたのは嬉しいことだ。


「うん。『屍』からはバンスカーまで辿れなくて困っていたけど、まさか、こちらに気づかれずに監視している連中をサン・ダーロが気付いてそれを辿ることで発見することになるとはね……。でも、気を付けて、エラインダー領都は思った以上によそ者に対する警戒が強いのかもしれない。そうでないとうちの部下達が監視される事態には早々ならないはずだから」


「俺もそう思いました。新たに送り込んだ部下達にもそれは言い聞かせておいたので、これから送り込む連中にもその辺りは徹底させておきます」


 ランスキーはリューのそう応じると、ランドマークビルをあとにするのであった。



「バンスカーの存在を確認できたのは、大きいわね! そうなるとまた、東部地方に乗り込んだ方法を使うの?」


 ランスキーが帰った後になって、黙って聞いていたリーンが口を開いた。


「うん。もうすぐ学校が始まるからね。放課後に馬車を飛ばして、最後についたところに『次元回廊』の出入り口を作ってそこから翌日またスタート。という感じでエラインダー公爵領まで行くことになると思う」


「いよいよ、バンスカー討伐ですね!」


 いつも冷静であるスードも興奮気味に声を上げた。


「部下の報告次第だけどね。それにこちらも慎重にやらないと、逆にこちらの正体がバレることにもなりかねないから。二人ともこれからは慎重にね?」


 リューの慎重で真剣な言葉に、リーンとスードは真面目に頷き返すのであった。

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