第580話 サバイバル合宿ですが何か?
王立学園主催のサバイバル合宿はリズ王女の異例の提案で王都から遠く離れたランドマーク伯爵領で行われる事になった。
参加者は二年生ほとんど全員と教師陣である。
一部、一身上の都合で参加できない生徒もいたが、ほぼ全員がランドマークビルの前に集合していた。
そこには、生徒の護衛として、近衛騎士団、王国騎士団の精鋭も加わっている。
生徒以下合計で約四百人だ。
ランドマーク本領にもランドマークの領兵隊長スーゴ率いる領兵隊やミナトミュラー家の若い衆も控えているので今回の合宿がいかに大規模かわかるだろう。
リューも今回は、魔力回復ポーションを大量に準備して、『次元回廊』を使用するつもりでスタンバイ状態である。
ちなみに近衛騎士団の責任者は、海賊襲撃事件で、苦杯を味わった近衛騎士団第一隊隊長であるクハイ伯爵という人物で、その補佐にはリューとは顔馴染みであり、リズ王女の護衛として数々の実績があるヤーク子爵がついていた。
王国騎士団の方は、その傘下に入る形で生徒達のもしもに対処するようである。
こんな大掛かりな行事になったのも、例年使用している土地が魔物の大量発生でその駆除が間に合わなかった事、王都からの移動距離でサバイバル合宿に適した他の候補が見つからなかった事などが挙げられた。
そこで白羽の矢が立ったのがリューの『次元回廊』で行ける場所、ランドマーク本領の魔境の森だ。
リズ王女の提案であったが、リューも快く受け入れ、その案を学院側でも精査した。
リューやリーン、ランドマーク領の領主である父ファーザもヒアリングに参加して管理している魔境の森の敷地なら危険はあまりないという事で、今回、時間もなかったから、決定した。
しかし、そこは世間で言うところの『四大絶地』の一つである。
悪名高い『魔境の森』に貴族の子息令嬢や学園の優秀な生徒達だけでなく、リズ王女も向かうのだから、護衛は万全にしないといけない。
だからこそ、近衛騎士団や王国騎士団も本気であった。
当然ながら近衛騎士団も王国騎士団も国の精鋭である。
王国で名が売れているランドマーク伯爵とはいえ、地方の貴族であり、領兵の力などたかが知れている。
その領兵達が出入りできるようなら、『魔境の森』はその程度だろうという憶測があったのは確かだ。
今回の責任者クハイ伯爵は宮廷武官貴族であり、実力でその地位を得ていたから、少し驕っていた。
「では行こうか、ミナトミュラー男爵。貴殿の『次元回廊』で、まずは、我々近衛騎士団と王国騎士団の面々を送ってくれ」
クハイ伯爵は、向かう先のランドマーク伯爵とは地位的に同列だから、媚びる事なく、その与力であるリューに告げる。
「それでは──」
リューは、そう言うと、クハイ伯爵の手を取ると、一瞬でランドマーク本領の城館前に送り届け、次から次に並んで待機する近衛騎士達も送り届けていく。
近衛騎士達は以前にも経験した者はいたのでさほど驚かず、あちらに向かうのだが、王国騎士団は初めてなので、少しざわついたのが印象的であった。
しかし、全員が意を決してリューの手を取り、向こう側に向かう。
次に各クラスの教師と生徒が、サバイバルリュックを背負って、ランドマーク側に向かった。
普通クラスから続々と送り込まれていくのだが、騎士団関係者よりまだ、生徒の方が反応は柔軟で、楽しそうにリューの手を取ってあちらに向かう。
そして、元イバルクラスであったマキダール侯爵嫡男率いるクラスの番だ。
マキダールは背負っている大きなリュックにふらつきながら、緊張しているのかリューの手を取る手も少しぎこちないのが伝わってくる。
だが、リューは一言、「大丈夫だよ」と声を掛けると次の瞬間にはあちらへと次々に送り届けていく。
そして、残るはリズ王女クラスである。
先頭はリズ王女本人。
「それでは、リズ王女殿下──」
リューは笑って冗談っぽくリズ王女の手を取る。
「うふふっ。ご苦労様」
リズ王女も友人のノリに乗っかるようにリューの手を握ってあちへと向かう。
「さあ、みんなもどんどん行くよ」
リューは最後のクラスメイト達を勢いに乗って送り届けていくのであった。
そして、リーンとスードを送り届けると、
「ふぅー……。さすがに四百人は魔力的にしんどい……!」
と一人になったランドマークビル前で漏らす。
「じゃあ、僕も行くか」
リューは魔力回復ポーションを一つ飲み干すと、みんなが待つランドマーク本領へと『次元回廊』で移動するのであった。
リューがランドマーク本領に到着すると、すでにクハイ伯爵が父ファーザと挨拶を済ませた後で、クラスごとに整列して待機していた。
リューが到着すると担任のビョード・スルンジャーが、
「これで全員揃いましたね。ミナトミュラー君ご苦労様です」
とリューの労を労う。
「それでは、ランドマーク伯爵の領兵の道案内を先頭に出発だ!」
クハイ伯爵はノリノリで護衛役である近衛騎士、王国騎士を率いて『魔境の森』に向かうべく徒歩で動き出した。
城館からいつもの『魔境の森』は数時間である。
全員が遠足気分で向かうのはこの時までであり、生徒達が『魔境の森』の本来の姿を知るのは到着して最初の夜を迎える時であった。
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