第579話 合宿の準備ですが何か?
一年生の勇者エクス・カリバールをはじめとしてルーク・サムスギン、エミリー・オチメラルダ嬢、レオーナ・ライハート嬢の四人は、次男ジーロの件もあってリューにランドマークビルを案内してもらったのだが、翌日もお昼に食事を奢る約束をした。
この日はリューだけでなく同級生のランス達二年生の友人達と会う約束をしていたから、誘ったのだ。
ちなみにランス達は夏休み終盤に行われる学園のサバイバル合宿でランドマーク本領の魔境の森に行く事が決定していたので、その準備をする買い物をしようという事であった。
約束の場所はマイスタの街、街長邸前である。
つまり、リューのホームだ。
「サバイバル合宿って何が必要なのですか?」
一年生のエミリー嬢はその辺りを知らないから集まった先輩達に聞いた。
「サバイバル合宿で各自が用意するものは、得手となる武器、各作業に必要になるナイフ、水筒、調理道具、毛布、あとは着替えくらいかな」
ナジン・マーモルンが指を折りながら、後輩に答えた。
「火おこしの道具や携帯食料は、ないんですか?」
勇者エクスが足りないものを指摘する。
「それは現地調達という事になっているよ。まあ、グループ行動だから、各自魔法が使用できる者が火をおこしたりすればいいし、食料は魔境の森だからその辺は豊富だし心配はいらないよ」
リューが笑顔で一年生に応じるのだが、みんなにすると、どう考えても魔境の森で現地調達はハードルが高いと思うのが普通である。
「マジック収納持ちの人がいるグループが断然有利だと思うのですが?」
ルーク・サムスギンが控えめに挙手してチートなリューを想像して指摘する。
「もちろん、マジック収納能力、それを付与した鞄等は使用厳禁だよ。当日はリュック一つで集合だからね。確か『両手を塞がない程度で長距離移動が可能な重さのリュック一つにまとめる事』だったかな」
リューはすでにサバイバル合宿の基本ルールは頭に入っている。
今回のサバイバル合宿は、合宿先は実家であったから、問題が起きないよう色々と手配もしていた。
ランドマーク家の領兵に護衛もお願いしているし、ミナトミュラー家からも魔境の森経験者を中心に人はすでに派遣して合宿予定の森周辺をチェックさせているのだ。
万全の体制はとっているが、相手は魔境の森。
だから、祖父のカミーザ、長男タウロにもその辺の事はお願いしている。
「……なるほど、冒険者と同じスタイルですね」
勇者エクスは理解したとばかりに頷く。
「……それで今日、先輩達は何を買う予定なんですか?」
レオーナ嬢は失恋の痛手からまだ、回復していないのだろう、テンション低めに聞いてきた。
「今日は、リューの紹介でナイフと水筒、調理道具、毛布を買う予定だぜ」
ランス・ボジーンがレオーナ嬢のテンションに反して元気よく答える。
「それじゃあ、まずはおススメの鍛冶屋さんでナイフを買おうか!」
リューは含み笑いをして鍛冶屋の集まる職人通りにみんなを案内するのであった。
リューが含んだ笑みで案内した鍛冶屋は物珍しいものが並んでいた。
「……リュー君、これ何?」
シズ・ラソーエが、指さした先には一本のナイフがあったが、奇妙な形をしていた。
それは、ナイフ以外にも複数の道具が柄の部分から飛び出していたのだ。
「ふふふっ。これは万能ナイフだよ!」
リューは待ってましたとばかりに、自慢気に言い放つ。
「「「万能ナイフ?」」」
リーン、スード、イバル・コートナインとラーシュ以外の全員が不思議そうに聞き返す。
「そう、万能ナイフ! ──これがメインのナイフでこっちがノコギリ、ハサミ、ピンセット、あとは栓抜きだよ」
リューはそう言うと店頭に並べていた一つを手に取り、ランス達に説明する。
「かっけー!」
ランスをはじめ、男子はこの良さがわかるのか、目を輝かして万能ナイフを手に取った。
シズも興味津々とばかりに一つ一つの機能を確認して感嘆している。
「男性陣とシズにウケがいいわね。ふふふっ」
リズ王女が友人達のはしゃぎようが微笑ましいのかそれを見て楽しそうだ。
「女性陣はいたって冷静だな」
イバルがリーン、リズ王女、ラーシュ、エミリー嬢、レオーナ嬢の反応の薄さを指摘した。
「便利なのはわかりますが、はしゃぐのはちょっと……」
エミリー嬢が勇者エクス、ルーク・サムスギンも目を輝かしているのが理解できない様子だ。
その後も、携帯用に工夫した万能調理器具をリューは紹介した。
それは、一見するとかなり大きな水筒に見えなくもないが、フタは取っ手付きのお皿で、それを取るとフライパン、鍋、深底鍋と重なって収納されている。
これには男性陣だけでなく普段自炊しているラーシュが、食いつく。
「これは便利ですね……! 場所も取らないから、持ち運びに便利ですし」
「でしょ? これも僕が職人さんと一緒に考えた商品なんだ。重さもできるだけ軽量化しているしね!」
リューはそう言うと、お店で店番をしていた職人に親指を立てて賞賛する。
職人も親指を立ててリューと笑顔を交わす。
リューの紹介した道具類はほとんど全員が購入した。
一年生は買わなくていいはずなのだが、勇者エクスとルーク・サムスギンも男子である。
思わず購入していた。
最後に寄ったのが、裁縫屋である。
ここでは毛布を購入する為であったが、ここでもリューがお勧めの商品を披露した。
それが寝袋である。
この世界では、毛布が当たり前でそれを丸めてリュックの一番上に乗せるのが、冒険者あるあるである。
しかし、リューの紹介した寝袋は毛布より薄く、全身をすっぽり入れて寝られるというものであった。
「……でも、これいざという時、困らないですか?」
レオーナ嬢が戦士らしい指摘をする。
「そういう人にはこれ!」
リューが通常タイプの寝袋とは別に勧めたのが、手足の部分が寝袋から飛び出しているものであった。
「これなら、いざという時動けるよ」
リューは死角はないとばかりに実際に装着して見せた。
「「「便利だろうけどこれはダサい!」」」
リューが一同から総ツッコミを受ける。
しかし、寝袋自体はみんなもその寝心地を評価し、購入する事にするのであった。
買い物が終わると、ほとんどのみんなが、まだ、食べた事がないというラーメン屋にリューが案内する事になった。
全員がイチオシである味噌ラーメンを注文し、セットで焼き飯、から揚げなどを頼む。
「庶民の味を味わってください」
リューがそう言ってラーメンの食べ方をレクチャーする。
リズ王女や貴族の令嬢達はリューが音を立てて麵を啜る事に驚いていたが、リューが満足そうにしているので、全員がそのマネをして麵を啜った。
「「「美味しい!」」」
全員がほぼ同時にその味を賞賛すると、その後は夢中になった全員のラーメンを啜る音だけが店内に響き渡るのであった。
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