第578話 後輩達ですが何か?
ランドマークビルは年中お客が押し寄せる人気スポットである。
だから、当然、王立学園の生徒もよく見かける事はあり、それは夏休みも同じであった。
「この首飾りの赤い石、魔石を削りだしたものだわ! それにこの形、かわいいかも」
金色縦ロールの長い髪に黒い瞳を持つエミリー・オチメラルダ公爵令嬢は、隣で一緒に眺めていた獅子人族で橙色のポニーテールのレオーナ・ライハート伯爵令嬢に同意を求める。
「……見た事がない形だけど確かにかわいいかもしれない」
武辺一辺倒のレオーナ嬢も見た事がない独特の形(ハート型)をした魔石の首飾りを、かわいいと口にする。
これには後ろで二人の買い物に同行していた勇者スキル持ちのエクス・カリバール男爵とルーク・サムスギン辺境伯嫡男の二人は意外そうに驚く。
「女はいつの時代も光物に弱い、と父上が言っていたな」
ルーク・サムスギンは友人の勇者エクスに二人の様子を見て、聞いた話を披露した。
「はははっ、二人とも女性なんだ。興味があってもいいだろう。まあ、レオーナ嬢については意外だけどね」
勇者エクスは最近ようやく昔のようにまた話せるようになってきたルークに笑って応じる。
「ちょっと、二人とも。レオーナ嬢だって恋の一つもするのですからね? 意外は失礼よ」
エミリー・オチメラルダは、友人の不当な評価に対して注意する。
「「え!?」」
勇者エクスとルーク・サムスギンは二人、エミリー嬢の言葉に驚いて目を見合わせた。
「……」
レオーナ嬢は少し恥ずかしそうにして無言だ。
「「相手は誰!?」」
勇者エクスとルーク・サムスギンは声を揃えて思わず聞く。
「そんな事、べらべら話すわけないでしょ?」
エミリー嬢はレオーナ嬢の肩に手を回し庇うように答えた。
「……という事は、相手はエクスじゃないのか、意外だな。俺はてっきりレオーナは剣技で勝る事から後を追いかけていたエクスかと思ったんだが……」
ルーク・サムスギンが二人の反応を見て、推察した。
「元々レオーナ嬢は、私の剣技に追いつく為に剣の腕を磨いていたからな。実際、彼女からは尊敬しているとは言われたが、そんな気持ちは一切ないのはわかっていたよ?」
勇者エクスは冷静に分析して答える。
「なんだ、意外に冷静だな。──そうなると、レオーナ嬢よりも強い相手なら二年生の先輩達くらいか? まさか、ミナトミュラー先輩?」
ルーク・サムスギンが、未だにうまく話せずにいるリューの名前を出した。
「僕がどうしたって?」
「「「うわっ!(きゃっ!)」」」
勇者エクスとルーク・サムスギン、エミリー嬢とレオーナ嬢は急に四人で話しているところに突然現れたリューに驚いて声を上げた。
「ど、どうして、ここに!?」
ルーク・サムスギンが思わず、リューに問いただす。
「そんな事、このビルの五階が自宅だからに決まっているでしょ? 間の抜けた質問しないでくれる?」
リューの隣にいたリーンが、ルーク・サムスギンに厳しい返答をする。
「……すみません」
ルーク・サムスギンは驚いた事に素直に謝った。
「あら? ちゃんと、謝れるのね、偉いわよ」
リーンは意外なルークの反応に感心して、褒める。
ルーク・サムスギンは褒められて少し嬉しそうだ。
憑き物が落ちたような素直な反応だなぁ。これが彼の本来の姿なのかもしれない。
リューはそんな後輩の反応を内心で分析して評価した。
そして、
「それで僕がどうしたの? あっ! もしかして、夏休みの間、剣の修行相手できていない事かな? 最近立て込んでいて、なかなか時間が作れないんだ」
リューは思い当たる節を想像して答えた。
そう、リューはエミリー嬢とレオーナ嬢の二人相手にたまに剣の相手をしてあげていた事があるのだ。
まあ、次男ジーロが二人を相手して、けちょんけちょんにして以来、相手をしてあげられていなかったのだが……。
「……お兄様はお元気ですか?」
レオーナ嬢が、珍しく自分からリューに質問をした。
それも、本人の事ではなく、兄の事だ。
「え……? ──ああ! ジーロお兄ちゃんの事かな? 二人はお兄ちゃんと手合わせして以来会えてなかったね。もちろん、元気だよ。それどころか今は幸せな状態になっているよ。はははっ!」
リューはレオーナ嬢の質問の意図がわからず、次男ジーロの近況をざっくりと説明した。
「幸せ!? ──……リュー先輩、それはどういう……」
エミリー嬢が何か察したのか、レオーナ嬢の手前、話せない事なのではないかと思い、質問しつつも言葉を濁した。
「僕達、ノーエランド王国に仕事で行ってたんだけどね? ジーロお兄ちゃんがそこで婚約したんだ」
「「こ、婚約!?」」
エミリー嬢とレオーナ嬢は想像を遥かに超える展開に声を上げて驚いた。
その様子を見てリューとリーンは「……あっ」と察した。
リューも次男ジーロに出会いを上げたくて、二人を引き合わせたところがあったのを思い出したのだ。
どうやら、あの時の出会いでレオーナ嬢は次男ジーロに恋心を抱いたのかもしれない。
「……という事は、相手はノーエランド王国の人という事ですか?」
エミリー嬢はショックにうなだれるレオーナ嬢の背中をさすりながら、詳しい情報を聞く。
もしかしたら、何かひっくり返す事ができる情報があるかもしれないと考えたのかもしれない。
「二人はすでに仲睦まじい状態だから……。親同士もすでに会っているしね?」
リューは申し訳ない気持ちになって答えた。
「……」
レオーナ嬢は放心状態であったが、まだ、一度会っただけの相手である。
確かにその一回が強烈な出会いであったのかもしれないが、お互い相手の事を何も知らなかったから、傷は浅いと思いたい。
「今日の昼食はリュー先輩の奢りでいいですよね?」
エミリー嬢が、何か凄みのある言い方で、リューに迫る。
「……あ、はい……」
リューも申し訳なさとエミリー嬢の圧に押されると、二人の手にしていた首飾りも購入して渡し、昼食は喫茶『ランドマーク』で一緒に食事をするのであった。
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